第20話 雪原を焦がす雷と炎
第三者視点になります。
クラーシェルの西側の南から北の地域はドタドタと騒がしい。
それというのも人間よりも大きな獣型の魔物が雪原を駆け回り、敵を攻撃しているためだ。
南側での戦闘が始まった直後。
西側から攻めようとしていた氷の兵士が南から接近する一団に気付き武器を構える。
接近する一団は先頭に10体の虎型の魔物を配置した魔物の軍勢。
規則正しい動きで盾を構えた氷の兵士が横に広がる。
多くの敵を受け止められるよう陣形を整えていた。
「グルァ!」
虎型の魔物が吼えると盾を構えた一団を跳び越えて背後へ着地する。
そのまま鋭い爪で背後から斬り裂き、体当たりをして氷の兵士を破壊していく。
防御隊を跳び越えられたことに気付いた後方で待機していた氷の兵士たちが虎型の魔物へ攻撃を繰り出すが、軽々とした動きで跳びはねると巧みに氷の兵士の攻撃を掻い潜る。
着地した時に踏み潰すのを忘れない。
そうして、途中で進路を阻む者がいるなら体当たりをして倒しながら奥へ奥へと進んで行く。
虎型の魔物に続くように背に猿型の魔物が乗った狼型の魔物が駆ける。猿型の魔物の手には小さいながらも斧が握られており、器用に振り回すと氷の兵士の横を通り抜けながら斧で叩いて破壊していく。
機動力、そして攻撃力を持った部隊。
次々と足の速い魔物が駆け抜ける。
そして、ある程度間引かれたところで大きな馬型の魔物が駆ける。普通の馬ではない。体の外側は銀色の鱗に覆われており、スキルを使用することによって体の至る所から刃を出すことができる魔物――刃馬。
氷の兵士が突き出してきた槍にも耐え、蹄で踏み潰すと同時に出した刃で氷の体を斬り裂く。
強力な魔物。故に召喚された部隊の中には1体しかいない。
戦闘能力が優れていることもそうだが、刃馬の役割は指揮官を戦場へと運び、守る軍馬だ。
「ハハハッ、この程度とは……温い! もっと歯応えのある奴が出てこい!」
刃馬の上には戦場にいて戦意が高騰している雷獣がいた。
馬上から雷獣が槌を振り回すと周囲に雷が落ちる。落雷の直撃を受けた氷の兵士が次々と倒れる。
その数――100体。
たった一振りの攻撃で敵を大量に倒していた。
「よしっ、次の戦場へ行くぞ」
ブレードホースの腹を蹴って進ませる。
体の周囲に刃を生やしたブレードホースを止められる者は氷の兵士の中にはいない。
「ハハハッ、進め進め!」
ブレードホースを北へ進ませながら槌を振り回す。
デタラメに落ちた雷が氷の兵士を何百体と倒す。
だが、倒された氷の兵士は時間を掛けるものの復活する。
「お前らもついて来いよ」
南の方へ置き去りにした部隊には頭を二つ持つ犬型の魔物――オルトロスがいる。それも、通常のオルトロスが黒い毛並みをしているところ、北上するオルトロスは赤い毛並みをしている。
そんな特別なオルトロスが、南から接近する獣型の魔物の部隊に対して氷の兵士が盾を構えて整列したようにオルトロスの部隊も横一列に並んでいた。
そうして、大きく開けられた口から放たれる炎の息吹。炎によって熱せられたことで再生を始めていた氷の兵士が再び溶かされる。
周囲があっという間に火の海に包まれる。氷の兵士たちは溶かされたことで体が思うように動かず、敵の攻撃を防御すらできない。
抵抗できない氷の兵士を引き倒す炎を纏った雄牛の姿がある。
重装備でオルトロスの炎に耐える氷の兵士もいる。しかし、耐える氷の兵士の前に両手の拳に炎を灯すカンガルー型の魔物が姿を現す。武器を構える氷の兵士だったが、圧倒的に不利な状況にあって一撃を受けたことで砕かれる。
火の中にいても平気な魔物たち。
普段の彼らは迷宮の火山エリアで冒険者たちを相手にしている。オルトロスの放つ炎ぐらいは、どういうこともなく普通に戦闘を続けることができる。
氷の兵士が接近することのできない外壁近くでは二体の馬型の魔物がペアになってソリを引いている。このソリは、力に優れた馬型の魔物に轢かせる為にマルスが魔物を召喚すると同時に用意した物。
ソリの上に乗っているのは炎を吐くことができるオルトロスの部隊。一部がソリから下りると氷の兵士がいる場所へ向かって一斉に炎を放つ。
「壮観じゃなぁ」
西側では雷が落ち、炎が流れる。
海蛇のように氷神の用意した水を溶かしていないため再生を止めることはできない。しかし、再生が間に合わないほどの災害が巻き起こっているため門へ近付くことすらできていない。
「なんだよ、これ……」
西側の外壁の上には東側と同様に少しでも手助けをしようと駆け付けた者たちの姿があった。
しかし、災害の真っ只中とも言える光景を目にして誰もが足を竦ませていた。
「ふんっ」
最も近くにいた敵である雷獣を斬ろうと接近してきた氷の兵士を砕く。
そのまま北側へと到着すると笑みを浮かべる。
「ようやく面白い戦いができそうじゃな」
氷で造られた攻城兵器を護衛する騎士。
さらには後方から巨大な氷の騎士も姿を現す。10メートル以上ある巨体。ただ殴られるだけでも相当なダメージになるはずだが、巨大な氷の騎士の手には雷獣と同じ槌が握られている。攻城兵器でどうにかならなかった為の切り札だ。
「ふむ。氷神の元へ行くあ奴らの為にも倒しておいてやりたいところじゃな」
雷獣の手にする槌からバチバチと雷撃が爆ぜる。
全てを薙ぎ倒して破壊してしまう人型へと変化した雷獣の必殺技。槌に溜め込んだ雷のエネルギーを一気に放出して薙ぎ払う。
「……む?」
標的を氷の巨兵へ定めたところで、巨兵へ接近するある物へと気付いた。
雪原の上を走る白蛇。大蛇と呼ぶべき大きさを誇る真っ白な蛇が雪に姿を隠しながら巨兵へ接近し、捕まえられる距離まで接近すると頭を持ち上げる。
巨兵とそれほど変わらない高さまで上がる。
そこで、ようやく巨兵も白い大蛇がいることに気付く。気配を直前まで押し殺して雪原という自分の白い体を最も活かせる状況で気付かれることなく接近したため気付けなくても無理はない。雷獣が気付けたのも完全に偶然だ。
槌を構える巨兵。
その瞬間を白い大蛇は待っていた。
槌を構えた脇や股へスルスルと滑り込むと氷の兵士に絡み付く。
絡み付かれた巨兵は身動きが全く取れなくなり、ついには槌を手放してしまう。破壊された訳でもないから再生させることもできず、ただ時間だけが過ぎていく。
『申し訳ありませんが、敵の切り札は私が封じさせてもらいました』
白い大蛇は海蛇の指示によって送られたものだった。
「構わん。ワシはあっちを破壊させてもらうことにする」
狙いを攻城兵器へと変える。
護衛する騎士たちが盾を構えて防御しようとしている。
「その程度の防御でワシの【雷槌】を防げると思うなよ。ふぅん!」
大きく振られた槌。
同時に放たれた雷撃が護衛していた騎士もまとめて吹き飛ばしてしまった。
雪原の上に氷の破片が落ちる。砕かれたことで再生を始めようとするが、大きく複雑な物であると再生に時間が掛かる。そのため護衛の為の騎士から優先されて再生される。
「ふんっ」
まるで蟻を踏み潰すかのような感覚で再生を始めた氷の騎士が雷獣の手によって砕かれる。
再生しては破壊する。
繰り返すことで都市への襲撃を防いでいた。
「そろそろいいじゃろう」
砕く手を止めずに外壁の上を見る。頼もしい自分たちの主の姿を確認した直後、彼らの姿が遥か北へと移動していた。
「助かったよ。このまま敵を倒し続けていろ」
「それは問題ない。じゃが、さっさと神様を倒してくれた方が助かるわい」
「ああ、そんなに時間を掛けるつもりはない」
雪原を駆け、氷神の元へとマルスたちが向かう。