表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第33章 氷結群雄
918/1458

第19話 呑み込まれる軍

 クラーシェルの東門。

 東側も以前から包囲されており、氷神の侵攻が始まると同時に門への襲撃を開始する。


 大型の氷の鎧が暑さに耐えながら都市へと近付き槌を打ち付けようとする。

 しかし、氷の騎士の攻撃が門に当たることはない。


 ――ポヨン。


 柔らかい弾力と共に門へ打ち付けようとしていた槌が跳ね返される。

 通用しないどころか届かない。それでも氷の騎士たちは愚直に氷神から命令された『門を破壊せよ』という命令を遂行するべく延々と打ち込み続ける。ただし、攻撃が上手くいくことはない。


「貴方はそのまま門の前で防御していなさい」


 東門のある外壁の上。

 そこには蒼い髪の美女が立っていた。

 美女は妖艶な笑みを浮かべながら眼下の景色を見る。


「防衛用にグレートスライムを配置したのは正解でしたね」


 グレートスライム。

 青い粘性の液体がプルプル震えているだけで、その場から動くことのないスライム。特殊な攻撃能力も持たず、攻撃力もないに等しいため壁のように立ちはだかるしかない。


 そんなグレートスライムが一つだけ持っているスキル――【物理無効】。

 氷の騎士が叩き付けた槌もグレートスライムの柔らかい体が持つ【物理無効】のせいで跳ね返された。

 グレートスライムにダメージはない。


 槌を跳ね返された騎士が氷の剣を叩き付ける。

 しかし、やはり耐えてしまったせいでグレートスライムを突破して東門へ到達することができない。

 グレートスライムが大きな体の一部を変形させて肉迫していた氷の騎士を包み込むようにして圧し潰す。


 同じ体積でも軽い粘性の体。

 それでも自分の何倍もの物に圧し潰されると地面に倒れ、押し退けることもできないまま氷の体が潰される。


 グレートスライムのすぐ目の前で氷の騎士が奮戦している状況で後方から氷の槍が投擲される。それも【物理無効】によって阻まれてしまい、氷の槍が地面に散乱する。


「キュ!」


 ようやく潰した1体の氷の騎士を補填するように後方から氷の騎士が参戦する。

 新しく生み出された氷の騎士。時間を掛けてようやく1体の氷の騎士を倒せたことを悔しがるグレートスライムだったが、無限に再生される状況ではどれだけ倒したところで意味がない。


「サハギン隊も奮戦していますが……」


 南から東へと都市の外周を移動してきたサハギンの部隊。

 氷の兵士を持っていた銛で突き刺し、地面に押し倒すと周囲にいた他のサハギンたちが殴って踏んで氷の兵士を砕いていく。

 もっとも、こんな風に倒したところで氷の兵士はすぐに復活する。


「私、ずっと不思議だったんです」


 外壁の上で海蛇が呟いた。

 ノエルのことが心配になった雷獣と海蛇はクラーシェルの様子をノエルたちの視界を通して見ており状況を把握している。


 マルスたちが攻撃している間に包囲されていることに対して業を煮やした数人の冒険者が勝手に外へ出て氷の鎧を攻撃した。ノエルがいるおかげで暖かく、戦闘に支障がなかったおかげで倒すことができた。しかし、再生する敵を前に戦意を挫かれたせいで早々に退却してしまった。

 都市の出入りは外壁の上から垂らされたロープを使って行われた。普段から危険な場所へ向かうこともある冒険者。慣れた動きで門の上下を移動するとあっという間に出入りしていたため門を開けることもない。


 そして、都市の中へ戻ってくる頃にはせっかく倒した氷の兵士が再生されたせいで元に戻されていた。


「相手は氷神ですから離れた場所にいても氷の兵士を造り出せるのは分かります。ですが、どんな水からも造れるものなのでしょうか?」


 砕かれた氷の体。

 一度溶けて水になってから形を得て氷になってから再生される。そして、新たに武器が必要になった場合には周囲にある雪や水を氷へ変え、望んだ形をした武器を手にする。


 門を破壊する為に必要とした槌。

 投擲の為の槍。

 どれも最初は持っていなかった物で、地面にある雪を利用して造られた。


「答えは――否です」


 東側には小さいながら川が走っている。

 雪を溶かして水にしてから武器にするよりも川にある水を利用した方が効率はいいはずである。

 ところが、川の水を利用した氷の兵士はいない。


「造形の為に利用できるのは地面にある雪。そして、雪が溶けて流れた水のみ」


 そう考えると特殊性が見えてきた。


「今、クラーシェルの周囲にある雪は氷神が降らせた雪です。おそらく氷神の魔力……いいえ、神気が込められているのでしょう」


 神気を感知する能力がない海蛇には分からない。

 感知能力があるノエルでも「もしかしたら……」というレベルで薄らと感じることができるかもしれない量。

 氷神の力が事前に込められているからこそ形を自由自在に変えることができる。


「ならば、今ある水をどうにかしてしまえば再生は止められる、ということでしょう」


 サハギンの後ろから緑色のスライムが姿を現す。

 大人の膝ぐらいの大きさしかなく、プルプル震えている普通のスライム。

 地面を滑って移動すると砕かれた氷の破片の上へと移動してスライムの体の中へ取り込んでいく。すると、小さな破片がスライムの体内でジュッと溶けて消える。熱によって溶けたのとは違う――溶解させられた。


 アシッドスライム。

 体内に取り込んだ相手を溶かしてしまうスライム。体が小さいため取り込める量は少ない。口に当たる部分から溶解液を吐き出して攻撃する手段を持っているものの攻撃する瞬間を予想するのは動きから容易に想像できるため回避は難しくない。


 脅威の低い魔物。

 それでも数百体と群れを成すことで脅威となる。


 そして、驚異的な再生能力を誇る氷の兵士にとっては天敵と言える相手だった。


「な、なんだ……数が減っているような?」

「あら、いらっしゃい」


 近くから聞こえてきた声に海蛇が振り向く。

 外壁の上には海蛇だけでなく、本格的な襲撃を受けていることを察知した冒険者や兵士たちが集まっていた。

 弓矢を持つ冒険者や兵士。中には石を手にしている者たちがいる。

 上から攻撃することで少しでも手助けをしようと考えていたのだろう。

 たとえ、少ししか力になれなかったとしても協力したい、という彼らの思いに海蛇は感謝していた。


「なぁ、俺たちには敵の数が減っているように見えるんだが……」


 これまで何度も攻撃してきた。

 ところが一向に減る様子がない。減らしてもすぐに補充される敵を前にクラーシェルを守る彼らの戦意は挫かれていた。

 そんな敵が少しずつだが減り始めているように見える。


「当然です。敵は再生するから減らないのです。再生する為に必要な水を奪ってしまえば再生することはできなくなります」


 溶解されてしまった氷は、既に氷神の力が失われている。

 戦闘が始まってから数百体という氷の兵士を倒し、ようやく再生させることのできる水がなくなった。


「皆さんも自由に攻撃していいですよ」

「おう」

「あのスライムとかは味方なんだな」


 矢を射り、石を投げる。


 と、ようやく氷の兵士たちも自分たちの数が減り始めたことに気付いた。


「あら?」


 10体以上の氷の騎士が門の近くで固まる。

 熱によってドロドロと溶けた氷の騎士。水は、あっという間に形を変えて1体の氷の騎士を頂点に置いた梯子へと姿を変える。


 梯子に乗った騎士が外壁へ取り掛かる。

 少しばかり高さが足りなかったが、梯子の上から跳躍すると外壁の上に飛び掛かる。


 外壁へと着地した氷の兵士を警戒する冒険者たち。


「【激流】」


 周囲にいる人たちを無視して海蛇がスキルを使用する。

 空中に突如として大量の水が生まれて外壁の上に着地した氷の騎士を水の流れで押し返して外壁の上から落とす。

 海蛇の攻撃は外壁の上から落としただけに留まらない。

 そのまま門の近くにいた氷の騎士たちも呑み込むと後方にある川の方へと押し流す。


「さて、そろそろ頃合いでしょう」


 前線にいた氷の騎士が後ろへ流されたことで隊列が崩れて混乱する軍。

 指揮官がいないため自分に与えられた命令を優先して遂行しようとする軍隊。あちこちで衝突する音が響き、重装備の騎士に軽い兵士がぶつかっているところでは軽い兵士が粉々に砕けてしまっている。


 混乱する軍。

 さらに追い打ちを掛けるように後方にある川からアシッドスライムを連れたサハギンが姿を現す。

 後方から奇襲する為に川に姿を隠していた部隊。

 南と東から襲撃を受けて東側を攻める軍がさらに混乱する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ