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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第6章 没落貴族
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第8話 強くなりたいのです

「また、随分と捕まえてきましたね……」


 ハーフェルという名前の街にある冒険者ギルドの受付嬢が俺の捕まえてきた盗賊を見て呆れた視線を向けてきた。

 人数そのものは少ないが、捕まえた盗賊を引き摺って連れてくるという方法を選んだことに呆れていた。


「それで、彼らを引き渡したいんですけど、いいですか?」

「ええ、盗賊は街道を利用する人にとって害にしかなりませんから捕まえてくれることには感謝します。ただ、懸賞金の方が出るかと言われれば……」


 俺たちが戦った時の実力から考えて盗賊たちは強くない。

 いや、戦う力のない一般人にしてみれば脅威に成りうる実力はあるのだが、実力のある冒険者から見れば片手間で倒せるような実力でしかない。


 そんな相手に魔剣所有者のような懸賞金が懸けられているはずもない。


「それでも盗賊を退治したことによる褒賞金は支払われるはずですので、こちらでしばらくの間お待ちください」


 待っている間、することもないので依頼票が貼られている掲示板を眺めていたシルビアとアイラ、それからメリッサさんのいる場所に近付く。


 メリッサさんは、今日は色々とあって疲れたのでハーフェルの宿に泊まると言い出したテックさんの傍に残るかと思ったが、今はテックさんと顔を合わせていたくないのか俺たちに付いてきた。


「何か、面白そうな依頼はあったか?」

「う~ん……場所によって違うのかアリスターと違って戦闘力のある冒険者向けの依頼は少ない方ね」

「逆に『この素材を集めてきてくれ』みたいな採取依頼が多いですね」

「ここはアリスターみたいに魔物が豊富にいるような場所じゃないからちょっとした素材を集めるだけでも大変なんだろ」


 アリスターの周囲には魔力が豊富な場所がある。

 その濃厚な魔力を求めて多種多様な魔物が集まり、縄張りのようなものが形成されている。そのせいで危険な辺境と言われている。

 だが、魔力が膨大にある危険地帯なおかげで大地は肥沃で、作物は簡単に育つので、魔物への対処さえ間違わなければ農業に適した土地だと言えた。その対処を間違えたのが俺のいたデイトン村だ。


「この街の近くには魔物がいないのですか?」

「全くいない、というわけじゃなくて決まった魔物しか現れないんだ」


 魔物は魔力さえ得られれば生きていけるが、選り好みするので土地によっては1種類の魔物しか住み着かないということもある。

 魔物の生態について詳しいことは分かっていない。

 ただ、そこに住み着いていると納得するしかない。


「お待たせしました」


 受付嬢が褒賞金を持ってカウンターに戻ってきた。

 カウンターの上に置かれたトレイの上には金貨が1枚。


「これだけ、ですか……?」


 金貨1枚も一般的な家庭が贅沢をせずに1カ月間生活していける十分高額な金額のはずなのだが、最近奴隷を買う為に金貨42枚を支払ったり、賞金首を倒して金貨100枚が詰まった袋とか貰ったりしたせいで1枚では少なく感じてしまう。


 とはいえ、別に討伐依頼を受けていたわけでもなければ、懸賞金が懸けられているわけでもないのでこんなところだろう。


「ありがとうございます」

「いえ、先ほども言いましたが、盗賊にはこちらも困っていたので助かりました」

「そんなに多いんですか?」

「かなりの規模の盗賊団らしいです。5年ほど前からでしょうか。ある町を襲って大金を得た盗賊が起こした組織らしいのですが、段々とこちらの方にも勢力を伸ばしてきているんです」


 5年前。

 盗賊団。


 その言葉に思わず全員でメリッサさんのことを見てしまう。

 俺とシルビアはともかくアイラは反応するな。念話で事情は説明してあるが、お前はメリッサさんの事情を聞いていないことになっているんだから。


 だが、メリッサさんにはそんなことを気にしている余裕などないらしく、受付嬢に詰め寄っていた。


「あの、その町の名前って分かりますか?」

「名前、ですか? たしかラグウェイだったと思います」


 メリッサさんの家名と同じ名前。

 間違いなくメリッサさんのいた町のことだな。


 ラグウェイの町を襲った盗賊が規模を広げて、自分たちまで襲い出した。


「ありがとうございました。私たちは明日までハーフェルにいます」

「はい。実力のある冒険者は大歓迎ですので、いつでもいらして下さい」


 受付嬢さんに挨拶をしてから冒険者ギルドを後にする。


「少し、お話がありますので喫茶店にでも入りませんか?」


 どこか思い詰めたような表情。

 このまま放置すると危険なことになりそうだったので彼女に付いて行くことにした。


 喫茶店に入ると飲み物と軽食を注文する。

 飲み物が運ばれてくるまでの間、ずっと黙っていたメリッサさんだが、運ばれてきたコーヒーを1口飲んだ瞬間、意を決したように視線を俺に向ける。


「お願いします。私も貴方の従者にして下さい!」

「は?」


 意味が分からなかった。


 従者?

 何のことを言っているんだ?


『もしかしたら眷属のことを言っているのではないでしょうか?』

『え、眷属について喋ったのか?』

『いえ、眷属のような具体的な言葉については1つも語っていません。ですが、彼女はわたしとご主人様が主従の関係にあることは見抜いていました。彼女は聡明です。そこから「眷属」という言葉は使わずに「従者」という言葉を使ったのではないでしょうか』


 念話でシルビアが自分の推測を語ってくれる。


 ああ、眷属のことを言っているのか。

 でも、どうしてここで眷属のことを語るのか?


「シルビアさんから聞きました。今の自分があるのは全て貴方のおかげだと」


 初日に仲が良かったが、そんなことを話していたのか?


 シルビアの方を向くとスッと視線を逸らされた。


「最初は何のことを言っているのか分かっていませんでした。いえ、分かったつもりになっていました」


 助けてもらった。

 鍛えてもらったおかげで強くなれた。


 そんなところだろう。

 実際にはシルビアが得たステータスは、メリッサさんの想像を遥かに超えている。


「けど、今日の戦闘を見て確信しました。20人もいた盗賊をたった3人で1分もしない内に倒してしまう。しかも、みなさん手加減していましたよね」


 捕縛する為に麻痺させることを優先させていた俺は手加減していたようなものだし、シルビアは意図的にステータスを落として戦う訓練をしていた。アイラはスキルの練習をしていたのでただ制圧するよりも時間が掛かっている。

 つまり、3人とも全力ではない。


「まあ、そうだな」

「私も強くなりたいのです。シルビアさんの話から特殊な武器でも与えられたのかと思っていましたけれど、それだけではないですよね」


 本当に賢い子だ。

 あえて誤魔化すよりも真実を話した方が納得してくれるだろう。


「ああ、俺のスキルによるものだ」

「私にもそのスキルを使って下さい。お礼なら何でもしますから」

「このスキルはメリットが大きい代わりに強化する相手にデメリットもあるスキルだ。そんな力を手に入れて何をするつもりだ?」


 なんとなく予想できるが、本人の口から聞かなくてはならない。


「私の町を襲った盗賊団を壊滅させます」


 そんなことだろうと思ったよ。


「どうして、それをしようと思った?」

「私には、もう怒りをぶつける相手が他にいないんです」


 怒り、と来たか。

 今までは盗賊を憎む気持ちはあったが、騎士団に追いやられたことで一応の納得をして、町を買い取るという目標も得た。そのおかげで盗賊団に対する復讐心もどこかへ消えていた。


 しかし、目標も失くし、怒りを向けても文句を言われることのない盗賊団が近くにいる。


 復讐心に燃えていた。


 復讐を止めろ、なんて言うつもりはない。

 現に俺はデイトン村の村長たちに報復し、シルビアは暗殺者デイビスを自分の手で捕らえ、雇い主であるボーバン準男爵を破滅するように追い込んだ。アイラにしても魔剣に魅入られたことを理由に所有者を斬っている。


 だから彼女が故郷を襲った盗賊団に復讐することを止める権利は俺たちにはない。


「悪いが、俺の口からは眷属契約について言い難い。シルビアとアイラの2人から詳しいことを聞いてくれ。そのうえで判断するといいよ」


 眷属契約をした場合、メリッサさんの行動を縛るつもりはないが、秘密を漏らさない最低限の命令だけはさせてもらう。シルビアとアイラにも『迷宮主に関する情報を漏らすな』と命令してある。


 では、何が問題かと言えば……。


『ヘタレ』

『う、うるさい!』


 眷属契約にはキスが必要になる。

 それもディープな奴だ。

 14歳の女の子にディープキスなんてしたくない。


 アイラを眷属にした時でさえ、シルビアから冷たい視線を浴びることになったのに年下のメリッサさんにまでディープキスをしたらどんな視線に晒されることになるのか。


『この話は止めよう』

『でも、彼女が眷属契約をお願いしてきたらどうするの?』

『……保留で』


盗賊退治にリザルト

・盗賊の報奨金

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