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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第33章 氷結群雄
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第10話 氷の神

「か、神っ!?」


 信じられないのかフィリップさんが声を荒げる。


 普通、神と言えば信仰の対象、あるいは加護を与えてくれる特別な存在。人前に姿を現すような存在ではない。

 会ったことのある方が異常。


「やっぱりか」


 俺たちは何度も神と遭遇したことがあるから予想していた。


「アタシも神と遭遇したのは現役時代に1回きり……いや、最近は頻繁に会っていたね」


 ルイーズさんもシエラたちに会うのが楽しいのか頻繁に屋敷へ顔を出すようになっていた。本人は、異常な力を持っている俺たちの監視だと言っていたが、子供たちと遊んでいる時の綻んだ顔を見れば建前だと分かる。


 そして、屋敷へ遊びにくれば同じ目的で来ているティシュア様とも顔を合わせることになる。

 同じ目的で訪れている二人だけど、同族嫌悪なのか馬が合わない。


 もっとも、ティシュア様が本物の神だとルイーズさんも認めている。

 だからこそ、今の状況を静観している彼女が気に入らない。


「見ているんだろう」


 夜の闇へ向かって叫ぶ。


「……ええ、見ていましたよ」


 観念したように一人の女性が姿を見せる。

 緑色の髪に蒼い瞳。白く美しい肌からは神々しさを感じさせる。


「……っ!」


 咄嗟にフィリップさんとダルトンさんが膝をついた。

 現れた女性――ティシュア様の姿は見る者を畏怖させる力があった。もっとも、慣れ親しんだ俺たちには関係ない。


「おい、何をしている!?」


 一目で神だと信じたフィリップさん。

 対して俺たちは膝をつくこともなく、そのままにしていた。


「アンタ……今回の一件に神が絡んでいることを知っていたね」


 俺たちよりも不躾なのがルイーズさんだ。

 ティシュア様に対して敬語を使用することもなく、ストレートに文句をぶつけている。


「失礼ですね。私も全てを知っている訳ではないのですよ」

「神ならこれぐらいのことは知っていてもおかしくないと思うけどね」

「神、と言っても今の私は全盛期に比べれば力が劣っています。把握することができるのは『巫女』であったノエルの周囲で起こったことと拠点にしている屋敷についてぐらいです」


 神罰を降す為に降臨したティシュア様。

 その代償としてティシュア様は、神がいるような別次元へと帰ることができなくなってしまった。

 今はノエルの傍ぐらいでしか姿を晒すことができなくなっていた。まあ、神としての責務から解放されてアリスターで遊びまくっているから悲嘆するようなことはない。


「後は、他の神々から報せが届いた時ぐらいですね」


 様々な神がいる。

 人が複数の神と関わるようなことは滅多にないが、神同士の間では情報のやり取りが行われており、世界に訪れるような異変を知ることがある。


「ですが、今回は他の神々も全く気付いていませんでした」


 だからこそティシュア様も事前に知らせることがなかった。

 さらにノエルを介して今回の事態を知ったために大慌てで情報収集に努めていたらしい。


「そうだったのかい?」

「本来、神が人の営みに干渉することは禁じられています。たとえ人が滅ぶような事態だったとしても神は静観していなければなりません」


 災害によって滅ぶような状況。

 そんな状況が分かっていたとしても神には何もできない。


「さて、神によって異常事態が発生していると知って私は急ぎ他の神と連絡を取りました。神が人間に協力するのは禁止されています。それ以上に神が人の営みに直接関与することも禁止されています。今回、敵がしていることは明らかに禁止事項に抵触します」

「人の営みに干渉しない、ね」

「何か……?」


 ティシュア様へジト目を向けるルイーズさん。

 シエラたちに構って思いっ切り干渉しているティシュア様。

 おまけに風神は、適性が高かったからという理由だけでシエラに加護を与えただけでなく、常に付き添っている。


 俺たちも助かるから文句は言わないが、明らかに神としてはいけないことをしているように思える。


「結果、神たちからは頼りになる情報を得られませんでした」

「そうかい」

「ですが、普段なら連絡の取れる女神と全く連絡が取れませんでした」


 他の神が試してみても同様。

 何かがあったのは間違いない。


「しかも、今回は氷の鎧が襲い掛かってきている。間違いなく彼女が関与していることでしょう」


 それが――氷神。

 冬の訪れを知らせる女神。氷神が訪れた場所は冷気と雪によって凍て付く冬となり、彼女に触れた者は神であっても一瞬にして氷漬けにさせられる。

 神でも近寄りたくない危険な神。


 もっとも危険なのは性質だけで氷神自身は温厚な性格をしている。


「解せないね。そんな性質を持っている神なら今回の騒動に関与しているのは間違いない。けど、聞く性格が正しければ人を苦しめるような神には思えないね」

「だからこそ私も困惑しています」


 二人の美女が敵について頭を悩ませている。


「なあ、あの人たちは何を言っているんだ?」

「気にしなくていいですよ。敵が『氷の神』だっていうことぐらい理解していればいいです」

「そういうものか」


 神について詳しくないフィリップさんには状況を受け入れるのも難しいらしい。


「で、どうすればいい?」

「どう、とは?」

「敵が神だとしたら倒すのはマズい気がするけどね」

「その点は心配いりません。これだけの影響を及ぼしている、ということは彼女も降神しているはずです。降神して実体を得た神なら倒すことが可能です。そして、倒されたとしても実体を失うだけで神格にダメージはありません。いえ、何らかの要素によって神格が暴走しているのだとしたら衝撃を与えることによって元に戻る可能性があります」


 以前に降神した狩猟神アルサムと同じだ。


「ということで氷神を見つけて倒しな」

「やっぱり私たちがやるんだ」


 氷神を倒すことに関しては俺たちに任せるルイーズさん。

 イリスが他力本願な姿勢に頭を抱える。


「実戦を離れた私に神の相手が務まると思うのかい?」

「……ベテラン冒険者でも不可能」


 神の前では人は等しく無力である。

 だが、神の遺産である迷宮によって強大な力を手に入れた俺たちには当てはまらない。


「やりますよ。クラーシェルを救う為には敵は倒さないといけないんですから必要なことです」


 敵を倒す為に俺たちの力が必要なことは最初から分かっていた。

 ここは戦うしかない。


「でも、敵についてハッキリしただけで詳細なことについては何も分かっていないですよ」


 本当に氷神が敵なのかも断定できていない。


「私にも敵の判断はできないよ。だけど、ヒントぐらいは与えてやれるだろうね」


 ルイーズさんが持っていた杖を北の方へと向けて掲げる。


「方角は北、距離からしてカンザスだろうね。あの町で異様に魔力が揺らめいているのを感じるよ。それも、水属性の魔力だから件の氷神だろうね」


 魔法使いの冒険者として有名だったルイーズさん。

 現役時代は強力な魔法を使えるだけでなく、魔法使いでありながら杖を使用して近接戦闘も行っていた。パーティを組んでおり、パーティの中には前衛を担っていた者がいたにもかかわらず率先して戦っていた。


 そんなことができたのもルイーズさんが戦いながらでも魔力を練り、制御することができた魔法使いだったからだ。

 彼女は魔力の制御能力において誰よりも優れていた。


 さらに周囲の魔力に敏感だったため、感知能力にも優れている。

 ティシュア様も神気や魔力の感知能力は高いが、離れた場所までの距離を読み取るのは苦手な上、地理に明るくないため見当外れな場所へ案内される可能性があった。


「……なかなかやりますね」

「アンタもね」


 なぜか睨み合うティシュア様とルイーズさん。

 二人のおかげで、敵の『正体』と『位置』が分かったのだから少しは仲良くすればいいのに。


「ここから先はアンタたちの仕事だよ。夜明けと共に奇襲を仕掛けな」

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