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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第33章 氷結群雄
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第8話 シエラの歓迎

 私とフィリップさんはアリスターにある自宅の屋敷の玄関へと転移する。すぐに外出するつもりだから玄関の方が都合がいい。


 私たちの仕事は物資の確保。今のクラーシェルには支援をする為の物資が不足している。元々想定していた人数をオーバーしているため数日なら問題ないが、数日後には限界が訪れることが目に見えている。

 今の内に動いておく必要があった。


 領主であるアリスター様へは私たちのパーティなら伝手がある。だけど、それ以上にあちこちへ伝手のあるルイーズさんへお願いした方が手っ取り早く済む。

 そこで冒険者であったフィリップさんが都市を代表して向かうことになった。


「本当にアリスターなのか?」

「私たちならアリスターへ『帰って来る』のは簡単です」

「……『帰る』か」


 私の言葉にフィリップさんが寂しそうな表情を浮かべる。

 今の私にとってアリスターの方が『帰る場所』になっている。もちろん、クラーシェルは今でも帰る場所。けど、あっちは実家みたいな感じ。どこか遠くへ出掛けていたなら帰る場所はアリスターになる。


「まずは、冒険者ギルドへ行きましょう」


 今、ルイーズさんは冒険者ギルドで会議中だ。

 玄関から出ようとすると足元にポスッと何かが当たる感覚があったので下を向く。


「えへへ、おかえりなしゃい」


 足元にいたのはシエラ。

 笑みを浮かべながら私のことを見上げていた。


「ええ、ただいま」


 屈んで頭を撫でてあげると嬉しそうに目を細める。

 シエラには【転移】で帰った私たちを察知する能力があった。というのもシエラには常に風神が傍についている。空気の流れのようなものを感じ取ってシエラに教えているらしい。


 頭を撫でられながらキョロキョロする。


「おとさんとおかさんは?」

「ごめんね。私たち、お父さんもお仕事なの」


 仕事、と聞いて寂しそうに俯いている。

 でも聡い子だから我儘を言う訳にはいかないって受け入れている。私たちとしても寂しい思いをさせるのは本望じゃないけど、全員が動かないとクラーシェルは機能を停止させてしまう。


「ぷぅ」


 頬を膨らませて不満を露わにするもののそれだけ。

 お姉ちゃんは我慢しなくてはならない。


「弟と妹の世話をお願いね」

「うん」


 ててて、と私から離れて行く。


「あら、帰っていたのね」


 そこへミレーヌさんが姿を現す。

 シエラが祖母の足に抱き着くとミレーヌさんも抱える。


「そちらの方は初めまして、ですね」

「貴女は……?」

「失礼しました。私は、マルスの母で隣にいるイリスにとっては義母です」


 私とフィリップさんがピッタリとくっつくように立っていることから親密な間柄だと判断したミレーヌさん。


「……! これは失礼しました。俺の名前はフィリップ。以前はイリスの父親……いいえ、保護者のようなことをしていた者です」

「父親、でいいのではないですか? イリスから生い立ちについて聞いています。貴方は父親の一人としてイリスを立派に育て上げられました」


 私もフィリップさんのことを父親だと思っている。

 だから、ミレーヌさんの言葉に異論なんてない。


 ……そんな風に思っていると隣にいるフィリップさんが涙を流していた。

 え、何事!?


「そのようなことを言われたのは初めてです。幼いこの子を連れていた頃は、子供を連れ回すダメな大人だと言われたものです……」


 その噂は私も聞いたことがある。

 けど、当事者の私が何かを言ったところで人々が受け入れてくれるはずもなく、被害者だと思い込んでいる私を保護しようという動きまであった。

 だから、その頃は少し距離を置いて活動していた。


「おじい、ちゃん?」


 ミレーヌさんの腕の中にいるシエラがキョトンとしている。

 私の父親。自分にとっては祖父にあたる人物だと認識して笑顔になる。


「おじいちゃん!」


 新しい家族が増えたと思って喜ぶシエラ。


「よかったわね」

「うん!」

「けど、おじいちゃんもお仕事が忙しいからシエラもお部屋へ行ってお手伝いをしましょうね」

「おてつだい!」


 ミレーヌさんに抱かれたまま上階にある子供部屋へと移動していく。


「えぇ……!」


 反応がないからフィリップさんの様子を確認してみると無言のまま先ほど以上の涙を流していた。

 強面のフィリップさんが涙を流している姿はちょっと怖い。


「どうしたんですか?」

「おじいちゃん、なんて言われたのが嬉しかった。まさか、そんな風に呼んでくれる子が現れるとは思っていなかったからな」


 結婚もしていないフィリップさん。以前に話を聞いたことがあるから知っているけど、冒険者は常に危険な状況に身を置いている。だから、いつ死んでしまうのか分からないから家庭を持つのが恐い。

 と言いつつも実際のところはティアナさんのことが忘れられなかっただけ。他の女性には興味も持たなかった。


 当然、自分の子供もいないから孫も得られないはずだった。

 あの呼び方が縁も所縁もない子供からだったら何も思わなかっただろうけど、シエラは私のことを『母の一人』だと認識している。少し前に私と親子関係にある、と認識させられたばかり。だから、フィリップさんにとってシエラは孫みたいな存在になっている。


「……長く生きてきてよかった」

「そこまで!?」

「何度か俺にも早く迎えがこないかと思っていた。いい加減、ティアラやエリックの奴に会いたかったからな。けど、今の一言だけでもっと長生きしたいって思えるようになった」


 そう言うフィリップさんの目が私へ向けられている。

 強い視線。今まで強くなる為に厳しい視線を向けられることはあったけど、その時の視線とは全く違う、何かを強く願うような視線。

 ……まあ、何を言いたいのかは分かる。


「さっきの子は誰との子だ?」


 父親がマルスなのは分かった。

 問題は母親が誰か?


「アイラよ」

「あの赤髪の剣士か! たしかに彼女と同じように真っ赤に燃えるような髪をしていたな」


 母親が誰なのか知って納得している。

 そして、次の質問も予想できる。


「で、お前の子供は?」

「はぁ、その件か」


 やっぱり。

 私はフィリップさんの質問に対して首を横に振る。


「私に子供はいない」

「でも、弟や妹がいるって言っていたよな」


 ちゃんと聞いていたみたい。

 他に子供が4人いること。誰が母親なのかまでしっかりと伝えた。


「私に子供が生まれたなら真っ先にフィリップさんに知らせている」


 少なくとも生まれたばかりの子供を抱き上げる資格があると思っている。

 ただ、その願いを叶えてあげられるかどうかは分からない。


「ただ……自分の子供を持つ気にはなれないかな」

「どうしてだ!?」


 フィリップさんが酷く動揺している。


「マルスに力がない、という訳じゃないよな」

「それは間違いない」


 既に5人の子供を持つ身。

 年齢も20歳になっていないんだから大丈夫。


 問題があるとすれば私自身。


「何があった?」

「それは……」

イリスの問題については章の最後で!

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