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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第33章 氷結群雄
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第7話 氷に囚われた都市-後-

 俺はダルトンさんと一緒にクラーシェルの様子を確認している。

 クラーシェルへは何度か来たことがあるものの復興の手伝いや短期間の滞在だったため詳しいことを知らないどころか簡単な地理すら知らない。

 その点ダルトンさんなら拠点にして活動していたのだから詳しい。


 案内してもらおうと思ったのは、町の中心にある広場。

 シルビアの行う炊き出しが今は場所を中央へと変えて行われているためだ。


「ちょっと……!」

「ああ、この数日はよく見掛ける光景だな」


 広場までもう少し、という所で道に倒れた5、6歳ぐらいの少女の姿を見つけた。

 見つけた、と言っても少女が倒れているのは俺たちが歩いている大通りから微かに見える路地の奥。


 路地で困っている少女。

 状況的に見捨てられなかったため思わず駆け寄ってしまった。


「ぅ……」

「良かった。まだ生きている」


 背中を支えて起き上がらせてみる。


「冷たっ!?」


 少女の体は死体かと思うほど冷たかった。


「氷の軍勢をよこしている奴の影響なのか、ここ数日は異様なほど寒くなっているんだ」


 そういえば、騒動が起こる直前のカンザスでも異様なほど寒くなるのを感じた、と言っていた。

 外壁に守られているクラーシェルでも同様の影響が出ているようだ。


 今の確認よりも女の子を助ける方が先だ。道具箱から毛布を取り出して小さな体を包み込むと右手で抱いて左手に魔法で作った火を浮かべる。


「う、ん……?」


 どうやら意識を取り戻したみたいだな。

 女の子は異常なまでに軽い。少し栄養を与えた方がいい、と判断してシルビアが子供たちの為に作ってくれたお粥を口の近くへ運んでいく。ゆっくりと少しずつ口の中へと流れ込んでいく粥。

 かなり空腹だったのか止まる様子がない。


「クラーシェルは以前からこんな様子だったんですか?」

「いや、この子は北にある村から避難してきた子だ」


 今のクラーシェルは人で溢れている。

 大都市であるクラーシェルだが、避難してきた人を全員無事に受け入れられる訳ではない。都市に伝手がある人たちは比較的栄えている場所に受け入れられているが、みすぼらしい格好をした村人は人が寄り付かない奥へと押し込められていた。

 この子がいた村も貧しさから路地裏ぐらいにしか生活できるスペースがなかったようだ。


「まずは温めないと」


 ずっと冷えた状況で生活をしていた。

 今はメリッサとノエルのおかげで暖かくなっているが、冷え切ってしまった体を暖められるほどではない。火の傍で体を暖める必要がある。


「とりあえず広場へ移動しましょう」


 ダルトンさんに案内されて広場まで最短時間で移動する。

 都市の中心にある広場ではメリッサが暖かい風が都市全体へと行き渡るよう魔法で調整しながら巨大な焚火を用意して制御していた。

 簡単に事情を念話で説明している。

 集中力を切らさないよう到着したことを目線だけで報せると頷いてくれた。


「あったかい……」

「お、ハッキリしてきたみたいだな」


 うっすらとあった意識が覚醒して自分の状況を確認できるようになった。

 すると、次第にポロポロと涙を流すようになった。


「どうした?」

「おかあさん、おとうさんどこ……?」


 女の子の両親がどこで何をしているのか分からない。

 単純に逸れているだけかもしれないし、クラーシェルまで逃げ切ることができなかったのかもしれない。


「いっしょにきたの」


 けど、都市へ来たところ混乱の最中逸れてしまった。


「この子は俺の方で預かろう」


 俺が探すよりも領主やギルドマスターに伝手のあるダルトンさんが探した方が見つけられるはずだ。

 それよりも今の状況はマズいな。


「避難してきた人への支援は間に合っていないんですか?」

「数が多過ぎるせいで間に合っていないのが現状だ。クラーシェルの住人も寒さのせいで限界が近い。領主が避難民よりも住人を優先させるのは仕方ない」


 シルビアが炊き出しを行っている。

 その費用は領主へ請求することができる。


 領主も炊き出しぐらいは行いたい。しかし、炊き出しを行う為の備蓄が足りないために支援ができずにいた。今、イリスに必要な物資をアリスターまで受け取りに行ってもらっている。

 準備さえ整えば支援は行き届くだろうが、早急な対応が必要になっている。


『物資の量は問題ないはずだよな』

『はい。こういう事態を想定して簡単なシチューぐらいなら大量に用意させてあります』


 シルビアに確認してみたところ量は問題ない。

 以前、魔物まで総動員して巨大な鍋にシチューを用意させている。十万人を相手にしても問題ない量が保管されている。


『問題は、配給する人手です』


 まさか魔物が配給を行う訳にはいかない。

 人前で配給ができるようなのは眷属ぐらいしかおらず、現状で手が空いているのはシルビアとアイラぐらいだ。


「つまり、人手があれば問題ない訳だ」

「どうした?」


 念話で会話していたためダルトンさんには何があったのか分からない。


「ちょっと協力してもらいますよ」



 ☆ ☆ ☆



 1時間後。

 広場は人で溢れていた。巨大な鍋がいくつも置かれて、温かいシチューがクラーシェルにいる全員へ配られている。

 足りなかった人手についてはダルトンさんの手配で集めさせてもらった。冬で異常なほど寒いため仕事が手に付かない人が多いため冒険者ギルドを介して人を集めてみたところ想像以上に集まった。


「ありがとう」

「ええ、足りなかったらおかわりしていいからね」


 今も小さな女の子が女性からシチューに入った容器を受け取っていた。

 そんな光景があちこちで見られている。


「あの……」


 広場の隅で様子を見ていると声を掛けられた。

 振り向くと女性と男性、それに男性に手を引かれた男の子と女性に抱かれた女の子がいた。抱かれた女の子は、先ほど保護した女の子だ。

 ありふれた家族。


「さっき冒険者ギルドで迷子になった女の子を保護したことを伝えると保護者がいたんで渡したところだ」


 家族を俺の所まで連れてきたダルトンの言葉。

 どうやら無事に家族と合流できたみたいだ。


「ありがとうございました。私たちの方でも娘を捜していたのですが、このように大きな都市へ来たことがないのでどのように捜したらいいのかも分からなかったのです」


 女性が頭を下げる。

 困っていたところを親切な人が冒険者ギルドで情報を求めることを提案してくれたらしい。

 そこを偶然にもダルトンさんが遭遇した。


「お礼を言われるようなことはしていませんよ」

「いえ、そんなことはありません。貴方が娘を見つけてくれなければ私たちが生きた娘と再会することはなかった、とこの方から聞きました」

「お礼だけは受け取っておきますよ」


 最後に家族全員で頭を下げて離れて行った。

 今の状況なら配給も受け取れるだろうし、野垂れ死ぬようなことにはならないだろう。


「家族と再会できてよかったな」


 満面の笑みを浮かべながらこっちへ手を振る女の子を見ながら涙を浮かべるダルトンさん。

 思わず引いてしまった。


「別に少女趣味とかそういう訳じゃないからな!」

「分かっていますよ」

「絶対に分かっていない! あんな風に家族と別れた小さな女の子を見ているとイリスティア……イリスの事を思い出すんだ」


 保護した女の子より大きかったがダルトンさんたちがイリスを保護したのも少女と呼んでもいいぐらいの年齢だった。

 イリスと同じような境遇になった女の子が今のクラーシェルにはたくさんいる。


「敵を倒すことができるんだよな?」

「最善は尽くしますよ。でも、敵の正体も分からない状況で確約することはできません」


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