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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第33章 氷結群雄
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第6話 氷に囚われた都市-中-

 無限に再生し続ける軍勢。

 圧倒的な物量を誇り、こちらは非戦闘員まで抱えているため全員が逃げることもできない。


「状況を打開する策は一つ」


 氷の鎧は誰かの指示を受けている。

 その“誰か”を倒すことができれば氷の軍勢もどうにかすることができるかもしれない。


「その方針はこちらも考えていた」


 ギルドマスター、それにベテランの冒険者たちは真っ先に考えた。


「問題があるとすれば……誰も、その“何か”について知らないことだ」


 逃げてきた村の人々。

 迎撃するクラーシェルの戦える人たち。


 敵の姿を見た人たちは数多くいれど、彼らが見たのは氷の鎧だけ。後ろで操っている黒幕については全く目にしていない。


「どこから来たとか分からないんですか?」

「現状分かっているのは『北』っていうことぐらいだな」


 氷の鎧はカンザスの北から現れた。

 ただし、その情報も助かる訳ではない。カンザスの北には大きな山があり、冬の今は雪によって閉ざされてしまう。もしも、そこから指示を出しているのなら敵を探すのは困難を極める。


「つまり、ほぼ手掛かりがない状態……」


 来たばかりの俺が思い付くような策は既にこの場にいる人たちが考えている。

 実行力があるので提示してもらえるのはありがたいのだが、決定的な解決策がある訳ではない。


「とりあえず、今日のところは籠城しましょう」


 現状維持。

 救援に来て申し訳ないのだが、今の俺たちにできるのはそれぐらいしかない。


「もし、無理そうなら自分たちだけで帰ってもいいんだぞ」

「フィリップ!?」


 責任者の一人とは思えないフィリップさんの言葉にギルドマスターが声を荒げる。

 今の状況では戦力は少しでもほしい。俺たちに帰られる訳にはいかない。


「さっき言っていたけど、お前たちだけならアリスターへ帰還することができるんだろ」

「ええ、できますよ」


 その言葉に部屋が騒めく。


「じゃあ、クラーシェルにいる人たちをアリスターへ避難させることも……」

「可能ではありますね」

『おおっ!』


 窮地から逃れられる方法があると知って喜ぶ。

 これから突き落とさなければならない、と思うと申し訳ない。


「ただし、全員を避難させることができるか? と問われれば首を傾げざるを得ないですね」


 【迷宮魔法:転移(ワープ)】の対象とする為には、使用者と触れ合っている必要がある。俺で言えば【転移】を使用時に相手と手を繋いでいる必要があり、俺と手を繋いでいる人と手を繋いでいる人も対象にすることができる。


 一度に運べる最大人数については試したことがないから知らない。しかし、直接触れている相手なら大丈夫だが、その相手が触れている相手、さらに先の人や先の先の人……どこまでが触れていると判断されるのか分からない。


 安全を考慮するなら数人か十数人を限界にした方がいい。

 避難者の搬送を俺たち6人でやる。


「クラーシェルにはどれだけの人がいますか? 数万人はいますよね。しかも、今は逃げてきた人も含まれますから相当な人数がいるはずです」


 場合によって十万人以上。

 全員を運ぶのに2万回以上も往復する必要がある。


「さすがに、魔力がもちませんよ」


 魔力は問題ないだろう。

 問題なのは、そんな長時間も付き合わされる俺たちの忍耐力の方だ。おそらくアイラが真っ先に音を上げることになる。

 そんなことは言えないので魔力の問題にする。


「それにアリスターで受け入れられますか?」


 クラーシェルよりもアリスターの方が規模は大きい。

 しかし、今クラーシェルにいる人たち全員を受け入れられるほどの余裕がある訳ではない。


「たしかにその通りだ。今は冬だからアリスターも余裕がないはずだ。私たちが押し掛ける訳にはいかない」


 冬の大変さは全員が理解しているため頷いていた。


「今日のところは解散にしよう。援軍は彼らだけではない。王都を始め、多くの都市へ救援を呼び掛けた。外から助けがくれば現状を打開することができるかもしれない」



 ☆ ☆ ☆



 会議が解散となったためフィリップさんやダルトンさんへ改めて挨拶をする。


「やっぱり、俺は関わるべきじゃない、と思うな」

「フィリップ」


 再び帰るようイリスへ言うフィリップさん。

 ダルトンさんとしては、フィリップさんが何故そのようなことを言うのか分からないため困惑している。


「今回の敵は本気でヤバイ。俺たちが相手にしたことがないような敵だ」


 ベテランの直感から敵が普通ではないことを察していた。

 察していたからこそ身内のことを思えば不安になる。


「悪いけど、私はクラーシェルを見捨てるつもりはない」


 故郷を見捨てるような真似はしない。

 そんなことをするぐらいだったら最初から全速力で駆け付けるような真似をしていない。


「ええ、俺も全力で敵をここで迎え撃ちます」

「お前たち……」

「ただ、俺の場合はイリスみたいな純粋な思いではないですけどね」

「どういうことだ?」

「敵は北から現れて南へと攻めてきたんですよね。何か目的がありましたか?」


 逃げる人々を追い立てるように南へ移動していた。

 その間、東や西に別の村を見つけるようなことがあれば軍隊の一部を分けて襲撃させることはあったものの基本的に北から南へ向かっていることには変わりない。


 今のところ敵に明確な目的があるようには見えない。

 もしも、敵の目的が人間の殲滅でクラーシェルから撤退した場合には避けられたはずの事態に直面することになる。


「俺たちがクラーシェルを見捨てて南にあるアリスターへ逃げ込んだ場合、今度はアリスターの近くを戦場にして戦わなければなりません。アリスターとクラーシェル、どちらを危険に晒すかと問われれば俺はクラーシェルを選ばせてもらいます」

「なっ……!?」

「そういうことか」


 それが俺の選択。

 その言葉を聞いてダルトンさんが言葉を失い、フィリップさんは納得しているようだ。

 立場が同じで、力を持っているなら自分も同じ選択をする、と考えている。


「これが俺の力を貸す理由です。凄く利己的な理由ですよ」

「そうだな」


 ダルトンさんがキッと睨み付けてくる。


「止めておけ、ダルトン」

「けど……」

「たしかに理由の一つなんだろうが、それが理由の大部分じゃないな」


 さすがに完全に騙すことはできないか。


「俺がクラーシェルを助ける最大の理由は『イリスが望んだから』ですよ」


 眷属が望んだ願い。

 それぐらい聞き入れなくて主はやっていられない。


 二人とも……事前に手伝ってやると聞いていたはずのイリスまで俺の言葉を聞いてポカンとしていた。


 けれども、言葉を飲み込むことができるとフィリップさんが笑い出した。


「よかったな、イリス。こんな風に言ってくれる奴に出逢えることなんてそうそうできないぞ」

「あ、ありがとう」


 イリスが顔を真っ赤にしながらお礼を言ってくれた。

 俺も顔から火が出そうなぐらいに恥ずかしいが、ちょっと勇気を出して言ってみた甲斐はあった。


「で、これからどうする?」

「さっきの会議でもありましたが、敵の親玉を見つけるしかありません。ただし、簡単に見つかるようには思えないので籠城戦の準備から進めた方がいいかもしれませんね」

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