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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第33章 氷結群雄
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第5話 氷に囚われた都市-前-

 フィリップさんに連れられてクラーシェルの冒険者ギルドにあるギルドマスターの私室へと連れられる。

 部屋にはギルドマスターを始めとした冒険者ギルドの幹部、領主など町の偉い人たちが集められていた。


「ダルトンさん」

「久し振りだな」


 それに、もう一人のイリスの元パーティメンバーであるダルトンさんや何人かの冒険者がいた。外にいる魔物へ対処する際には彼らが率先して動くことになるため冒険者の意見を聞く為に有力な人を呼んでいた。

 俺とイリスもその一人。

 代表者さえいればいいのでイリス以外の4人については置いてきた。


「フィリップ、どうだった?」


 かなり離れた場所にいた俺たちの姿は外壁の上から見えた。

 何かが凄まじいスピードで接近している。その報告を受けた冒険者ギルドは判断に迷い、経験のあるフィリップさんを派遣することにした。

 ちょうど俺たちが門を潜り抜けたところでフィリップさんも門の前に到着したためタイミングよく合流することができた。


「近付いて来ていたのは援軍だった」


 部屋にいた全員から安堵の息が漏れる。

 俺とイリスが一緒に入ってきたことから援軍については薄々分かっていた。けれども、フィリップさんの口から告げられれば確信へと変わる。

 この辺は信用の差だろう。


「とりあえず、現在の状況を伝える」


 メリッサによってクラーシェルを取り囲んでいた氷の鎧が溶かされ、ノエルのおかげで再生することもなく凍て付いていた町も温められていることを知って涙を流す者まで出始めた。


「ちょ、そこまで泣かなくても……」

「いいや、本当に助かる。事件が起こってから凍えるような日々を過ごしていた。温かく平穏に過ごせることがどれだけありがたいのか分かっていなかった――本当にありがとう!」


 その場にいた全員が頭を下げてきた。

 本当に切羽詰まった状況だったらしい。


 俺の視界を通してこちらの状況を見ていた二人が照れている。


「今、シルビアが中心になって炊き出しを行っています。ウチのアイラも手伝っているみたいですけど、比較的余裕のある町にいた女性たちも手伝ってくれていますので彼らにもお礼を言った方がいいですね」

「もちろん。本来なら、こういった救済は私たちの仕事なのだから何かしら報いることにしよう」


 領主の言葉を聞いた瞬間、シルビアとアイラの動きが止まる。

 メリッサとノエルだけ褒められるのは不公平なので、せっかくだから二人も褒めてもらおうと思って何をしているのか教えさせてもらった。


 さて、この辺でいいだろう。


「少しは余裕ができたはずです。救援に来た身としてアレをどうにかしたいと思っていますが、いったいアレは何ですか?」


 氷の鎧の軍勢を操る者。


「俺たちがカンザスで生活していたのは知っているな」


 帝国との戦争で負傷したフィリップさんとダルトンさん。本来なら満足に生活することができないほどの傷を負っていたが、眷属になって得たイリスのスキルのおかげで癒すことができた。

 しかし、死んだ人間までは生き返らせることができなかったために仲間をまたしても一人失ってしまった。元々、イリスの憧れていたティアナさんを昔に亡くしていたため冒険者を続ける気が失せていた。それでも、冒険者を続けていたのはイリスが押し掛けてくれたから。彼女が一人前になるまでは自分たちが保護者として守るつもりだった。

 だが、イリスが俺たちのパーティに加入して彼らの手から離れ、二人だけになったため引退することを決意した。


 引退後は、駆け出しの頃に冒険者を一緒にやっていた友達が領主をしているカンザスで指導員や相談役のようなことをして生活していた。


「最初に異変を感じたのは年が明けた頃だ」


 例年よりも今年は寒いように感じた。

 ただ、後になって分かったことだが、その感覚は間違っておらず実際に例年よりも圧倒的に寒かった。しかし、自然の成す事だから、という理由だけで無理矢理納得させることにしていた。


 その納得させていた時間が致命的だった。


「朝から異様に寒くて門番の連中が可哀想なぐらいだった」


 そして、門番が目にしたのは這う這うの体で逃げる数百人の村人たち。

 逃げる村人たちの後ろから行進してくる数十体の氷の鎧。

 自分の目で見ても受け入れにくい光景。どうすべきか判断に迷っている間に村人の一人が逃げている最中に転んだ。7、8歳ぐらいの小さな子供。子供が転んだことに気付いた祖父だと思われる人物が駆け寄って助けようとするが、その時には既に氷の鎧が目の前まで迫っていた。老人が子供を助けようと自分の体で覆う。


「がぁ!」


 老人の背中から剣を突き刺す氷の鎧。

 子供だけでも守ろうとしていた老人だったが、老人の体を貫いた剣は老人の体の下にいた子供も貫いていた。


 他の村人たちは自分たち程度の力ではどうにもならないと分かっていたから子供が転んだことに気付いても助ける為に戻るような真似をしなかった。


「逃げていたのはカンザスよりも北にある村の人間たちだ。彼らは、とにかく魔物から逃れる為に南へ逃げていたらしく、カンザスまで必死に辿り着いた」


 人数が数百人にもなっていたのは、いくつもの村の生き残りが集まっていたためだ。

 カンザスにも魔物の襲撃を想定した外壁がある。それを頼りに少しでも大きな町へと避難していた。


「たしかに外壁は存在した。けど、軍隊の襲撃を想定したようなものじゃない」


 構造上どうしても壁よりも脆い門。

 氷の鎧たちは門へ殺到すると破壊する為に武器を何度も打ち付けていた。


「想定外な事態ではあった。けど、魔物の接近を知った段階で冒険者を掻き集めて戦力を用意していた」


 その時は、冒険者と兵士たちの活躍によってカンザスへ押し寄せていた氷の鎧を全て破壊することに成功した。

 いきなり襲い掛かってきた魔物が倒されたことで安堵する逃げていた村人たち。


 カンザスでも彼らを労う為に温かい料理が提供されることとなった。

 その日は宴会のような騒ぎになって終わった。


「けど、襲撃が終わった訳じゃなかった」


 翌日の朝、目を覚ますと昨日以上に凍て付く気温に寒さを覚えた。

 寒い、などというレベルではない。宴会によって外で酔い潰れて寝てしまった人がいたのだが……死んでいた。


 死因は凍死。

 その後、寒さを訴える人々が多く出てきたので、燃やせる物を広場に集めて巨大な炎を焚き、暖を取っていた。


「なっ!?」


 門のあった場所から響く音。

 視線を向ければ誰もが破壊された門を見ることとなる。

 破壊したのは砕かれたはずの氷の鎧。魔物たちは砕かれただけで倒された訳ではなかった。しかも、1日あったせいで増援が到着したのか数が増えていた。


「もう、俺にはどうすればいいのか分からなかった」


 会議に参加していたガンツさんが頭を抱えた。

 なるほど。カンザスで領主をしているはずのガンツさんがクラーシェルにいるのはカンザスを捨てるしかなかったからか。


「そこから先は俺が指揮を執った」


 フィリップさんの指揮の下で目指したのはクラーシェル。ここならばカンザスとは比べ物にならないほど頑丈な外壁があるし、優秀な戦力がたくさんいる。


 問題は避難の方法。

 どれだけ倒しても再生して襲い掛かってくる疲れ知らずの魔物が相手では長距離を女子供も連れて避難するのは難しい。

 付け入る隙があるとすれば再生するまでに時間を要していたこと。一瞬で再生が可能なのだとしたら、宴会をしている最中にでも襲撃を仕掛ければよかった話だ。翌朝に襲撃を仕掛けた、ということにはそれなりの理由がある。


 再生までの時間に賭けたフィリップさんは、冒険者のパーティ何組かで氷の鎧を砕く作業へと移った。

 フィリップさんの予想は的中し、再生が完了するまで数十分の時間を稼げることが分かった。

 しかし、再生そのものを阻む方法までは分からなかったため稼げた時間で逃げることに徹した。


「クラーシェルへは村人を逃がしている間に先行した冒険者が知らせたから緊急依頼を出すことができた」


 戦力の整ったクラーシェル。

 相手が数千体の魔物でも勝利を収めることができた。


 問題なのは圧倒的な再生能力。


「1回での戦闘に勝つことはできる。けど、終わりの見えない戦いを何日も続けていれば、こちらだけが消耗する」


 しかも、自分たちの戦力を過信していたせいで完全に包囲されており、クラーシェルを放棄して逃げることができなくなっていた。

 どうにか三日耐えたところで俺たちへ救援依頼が出された。

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