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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第33章 氷結群雄
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第4話 熱波

「いや、大丈夫だ」

「フィリップさん!」


 門の状態を不安に思っているとフィリップさんが近付いて来ており、気付いたイリスが喜びを露わにする。


「イリスなら知っているだろ」

「はい。クラーシェルの外壁と門は戦争が起こっても耐えられるよう頑丈に造られている。あの氷の鎧がどの程度強いのか分からないけど、耐えられるぐらいの強度はあるはず」

「それに3年前にあった帝国の襲撃で傷付いたところもあるから強化されている」


 イリスとフィリップさんの二人が納得している。

 たしかに攻撃する衝撃はあるものの壊される様子はいまのところない。


「だけど、攻撃そのものがない方がいいんじゃないですか?」

「そのとおりではあるが……」


 許可ももらえたようなのでメリッサを喚ぶ。

 いつの間にか傍にいたメリッサの姿を見て困惑している人が多いが、近くにいたのに気付かなかった、と納得している人がほとんどだ。残りは困惑したまま。


「メリッサ、片付けろ」

「かしこまりました」


 宙に浮かんだメリッサが外壁の上へと移動する。


「うおっ!」

「なんだ!?」


 いきなり下からやって来た、しかも浮かんだ人の姿を見て見張りをしていた兵士たちが声を上げる。


「すみません。ちょっと暑くなると思いますが、我慢してくださいね」


 数秒、意識を集中して魔法を発動させる。

 次の瞬間には都市の外が炎に包まれて氷の鎧が瞬く間に溶かされていく。


「これで問題ありませんね」

「ああ」


 不死身のように動き続けることができる氷の鎧。

 それでも、所詮は氷で造られているため炎で熱して溶かしてしまえば完全に破壊することができる。


 だが、それは甘い考えだった。


「それも一時の話だけどな」

「どういうことです?」


 フィリップさんの言葉に思わず聞き返す。


「お前たちも遭遇したなら気付いたはずだが、奴らは何者かからの命令もしくは指示を受けて行動している」


 俺たちの接近に気付いた時、氷の鎧は一斉に振り向いた。

 若干のタイムラグはあったものの数秒の間すらおかずに動いていた。


 氷の鎧それぞれに意思があるのなら、同じ種類の魔物だったとしてもあそこまで揃わない。誰か別の意思が働いていて、その意思の影響を受けた結果、同時に振り向くことになった。


「あの氷の鎧は再生するんだよ」

「再生!?」

「と言っても、すぐに再生する訳じゃない」


 忌々しそうに都市の外側を見ている。

 フィリップさんによれば既に火属性魔法によって氷を溶かす手段は取られている、とのこと。しかし、溶かされて水となった氷は気温が低下して氷へと変化できるようになると水が集まって再び氷の鎧へと変化するらしい。

 粉々に砕いても氷の破片が集まって鎧へと形を変える。

 既に試された後なので間違いない。


「じゃあ、気温が低くならなければいいっていう訳ですね」


 そこへノエルが姿を現す。

 初めて見るパーティメンバーにフィリップさんがどう対応するべきか迷っている。


「メリッサ、南側だけじゃなくて他の場所の敵も溶かして」

「かしこまりました」


 外壁の上を移動して南側から西側へと回り込むと再び炎が濁流のように押し寄せて氷の鎧を溶かしていく。

 それを北側と東側でも行う。


「さて――」


 錫杖を手にすると意識を集中させる。


「何をするつも……」

「シッ、黙って」


 ノエルが何をするつもりなのか理解したイリスがノエルへ声を掛けようとしたフィリップさんを止める。

 何度か迷宮内で使用したところを見たことはあるが、外で……しかも、大規模に使用するのは初めてなため意識を集中させている。


「【災害操作(ディザスターコントロール)】――熱波(ヒートウェーブ)


 周囲を温かい……暑い風が吹き抜ける。

 照り付ける太陽によって暑くなる炎鎧による災害を再現させたスキル。


「人間が暑さを感じるほどの熱。これなら溶けた氷が再び元に戻るようなこともないでしょ」


 水が氷になる為には、もっと寒くある必要がある。

 たしかに、暖かければ氷の鎧が再生するようなことはない。


 問題があるとすれば……


「魔力の方は大丈夫なのか?」


 スキルの使用には魔力を必要としている。

 今、ノエルは都市を覆うように外側までスキルの効果を適用させている。かなりの負担になっているはずなので辛いはずだ。


「そっちは大丈夫。気温もそこまで上げる必要がないし、このスキルとは相性がいいから魔力の消耗が結構少なくて済むの」

「なら、いいんだけど……」


 少ない、と言っても耐えられるのは眷属の魔力があればこそ、だ。

 今のところは問題なさそうなので耐えられるところまで耐えてもらおうと思う。


「おい、寒くないぞ!」

「本当だ!」

「すげぇな」

「助かったの!?」


 町のあちこちでは喜ぶ人の姿が見られた。


「原因は分からないけど、町の中が凄く寒かったわよ。多分、氷の鎧が出現したことと何か関係があるんじゃないかな?」


 今は冬。

 たしかに凍て付いた風が吹き、寒いことは寒いのだがアリスター以上に寒さを感じる。そのせいなのか門の前には騒ぎを聞きつけて出てきた人の姿があるだけで町の中は閑散としていた。


「おそらく氷の鎧を生み出している親玉のせいだ」

「詳しく事情を聞かせてもらえますか?」

「……」

「フィリップさん?」

「……できれば来てほしくなかった」


 事は昨日にまで遡る。

 現在の状況を把握したクラーシェルの領主が「まるで戦争のようだ」と呟き、自分たちだけの手に負える状況ではない、と即座に判断した。

 実際、その判断は間違っていなかった。


 そこで、戦争のようになってしまった状況を解決する為に帝国との戦争があった時に颯爽と駆け付けて助けてくれた俺たちへ再び救援を求めた。俺たちのパーティにイリスがいることを領主は知っていたため、自分の故郷を見捨てることはないだろう、という想いから断られるとは思っていなかった。実際、イリスが飛び出すように駆け出した。


 そのことをフィリップさんが知ったのは、俺たちの方から連絡を取る直前。報告の為に冒険者ギルドを訪れたところ、救援を出していることを知り、領主からの命令で救援要請を出したギルドマスターと問答をしているところに連絡をしてしまった。


「なるほど。どうにも様子がおかしいと思ったらそういうことでしたか」

「来てしまった。それに敵に囲まれている状態で不安になった連中が助けられた。もう、町の住人はお前たちに期待している」


 今の状態で俺たちが救援を放棄して離れるようなことになれば住人は絶望のどん底に落ちることになる。


「それに、溶かした状態なら逃げることは可能かもしれないが、包囲された状態で逃げるのは無理だろ」

「そんなことはありませんよ」


 他の人たちからは見えないようにしながらシルビアとアイラも喚ぶ。

 町の人たちは、暖かくなった状況に喜んでいて二人が増えたことに気付いていない様子だ。


「状況は理解しているな」

「はい。一つ確認ですが、籠城されてから節約しているのではないか?」

「ああ。クラーシェルには戦争になった時に備えて蓄えがあるが、それも住人だけで立て籠もった時の計算だ。備蓄がすぐに足りなくなることは想定できたから、節約を心掛けている」

「分かりました」


 イリスとアイラを連れてその場を離れると広場の中央で道具箱から大鍋を次々に出して炊き出しの準備を始める。


「俺たちは包囲された状態でも簡単にアリスターへ帰還することができます。資金さえ出してくれるなら物資の提供は惜しみませんよ」

「何から何まで済まない!」


 フィリップさんが勢いよく頭を下げてくる。

 それだけ今の状況が切羽詰まっているということだろう。


「では、状況を理解したなら今の戦争状態を解消することにしましょうか」

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