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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第33章 氷結群雄
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第3話 氷の鎧

 雪の積もった道を走る。

 寒い上に雪道に足が取られて走り難い。それでも人のいない道を馬以上の速度を出して走る。空を飛んで行く方法もないことはないが、上空には冷たい風が吹き荒れており体に負担が掛かる。


 俺の前をイリスが走っている。ステータスは俺の方が高いため、イリスの方が先を走るのは難しいのだが、余力を残して走る俺とは違ってイリスは全力で走っている。

 今日は普段よりも幾分か暖かい。それでも、寒いことには変わりないため体への負担を考えるなら力を抑えて走ってほしいところだ。


「おい、イリス」

「分かっている……」


 イリスも頭では自分が無茶をしていることを分かっている。

 それでも故郷の状況を思えば気持ちを抑えることができなかった。


「分かった。何も言わない」


 今のイリスに何を言ったところで聞き入れないだろう。

 しばらく走っていると遠くにクラーシェルの外壁が見えた。昔から何度も帝国の侵略を受けていたクラーシェルには立派な外壁がある。


「あれ!」


 イリスが外壁の傍に群がる姿を見つけた。

 それは、全身鎧を纏った騎士のようで人の形をしていた。ただし、人と同じ形をしているだけで材質は全く異なる。


 金属ではなく氷で造られた鎧。

 しかも、鎧の向こう側が見えるんじゃないかっていうほど透き通った青色をしている。中身があるようには見えない。


 騎士の怨念が宿ることで自立して動く不死者(アンデッド)の魔物――動く鎧(リビングアーマー)が存在する。

 中身がないにもかかわらず動いていることから、リビングアーマーと似たような存在かと思われる。


 ただし、不死者に有効な浄化魔法は通用しない。

 そんな敵が何千体と集まって外壁を取り囲んでいた。


「分かっているな」

「もちろん。状況が分からない。まずは、フィリップさんたちと合流することを優先させる」


 つい1時間前にクラーシェルの冒険者ギルドにいるフィリップさんたちと会話をした。

 外壁への密集具合からして1時間で集まれるような数ではない。


 氷の鎧が一斉にこちらを振り向く。

 全員が同時に振り向いている。


「どいて……!」


 その異様な光景が見えていたにも関わらずイリスが怒りをぶつける。

 今のイリスに何を言ったところで無駄だ。


 走りながら剣を地面に叩き付ける。地面を迸る冷気を発する魔力が地面から巨大な氷柱を生み出して氷の鎧を吹き飛ばしていく。


「解除」


 指をパチン、と鳴らす。

 すると、巨大な氷柱が一瞬にして消える。

 魔法で作り出した氷はイリスの意思一つで溶けるようになっている。


 氷柱は門の前まで迸っていた。門の前を埋め尽くしていた氷の鎧が氷柱によって吹き飛ばされ、氷柱が消えたことで道が出来上がる。

 だが、その道が全て使える訳ではない。

 イリスが氷柱で吹き飛ばしたのは幅10メートルの距離。氷柱の届かなかった場所にいた鎧たちがイリスを迎撃する為に押し寄せてくる。


 俺とイリスは門までの空いた道を走っている。

 自然と、鎧たちが立ちはだかるような形になっていた。


 イリスが正面に立った氷の鎧を斬る。腰から上下に両断された氷の鎧。

 上半身が地面へと落ちる。そんな状態になりながらも手にしていた剣を突き出してイリスを斬ろうとしている。アンデッドのリビングアーマーと同じように人間にとっては致命傷となるダメージを与えたところで止めることは叶わない。


「……!?」


 両断したはずなのに剣を突き出されたことにイリスが驚く。

 迷宮にもリビングアーマーはいる。そのため、眷属であるイリスは迷宮の魔物に慣れている。中身を伴わない鎧が両断した程度では止まらないことは理解しているはずだった。

 それでもクラーシェルのことを思えば止まれなかった。


 身を捻って回避しようとする。

 けど、完全には間に合っておらず、足を掠めそうになっている。

 今の囲まれている状況で足を負傷するのはマズい。


「『跳べ』」

「!?」


 イリスの体が本人の意思に反して上へ跳び上がる。

 緊急事態だったため【絶対命令権】を使用させてもらった。


「死ぬことはないが、動けなくさせることはできる」


 足を止め、鞘から剣を抜いて弧を描くように大きく振るう。

 氷の鎧を動かす為の指示を出しているのは上半身――胸か頭部にある。だから、イリスがやったように上下に両断してしまえば下半身が動かなくなり、上半身だけがバタバタと藻掻くだけになる。


 神剣から放たれる魔力による斬撃。

 何でも斬れる力は、離れた場所から放った斬撃にも有効だ。

 腰の位置あたりで吹き飛ばしてしまうつもりで剣を振るう。


「え……」


 だが、予想に反して斬撃は腰の辺りで斬ってしまうのではなく、下腹部を斬り飛ばしていた。粉々になった氷の破片がばら撒かれる。


「よっと」


 上から落ちてきたイリスを背中と膝裏に手を当てて抱える。


 今の斬撃は危なかった。

 イリスも間近で体験してしまったせいか身を小さく丸めていた。


「き、気を付けて……」

「これからは注意するよ」


 もう少し上へ向けていたらイリスを斬っているところだった。

 けれど、新しい神剣の力の一端は理解した。斬るだけなら本当に撫でるぐらいの気持ちで振った方がいいのかもしれない。


「このまま突っ込むぞ」

「お願い」


 一気にスピードを上げる。

 イリスを抱えた状態だが、全力で駆け抜けていいのならいくつもの属性の魔法を使える俺が抱えながら走った方が速い。


 倒れていた氷の鎧が短剣の形をした氷を投げてくる。

 フッと跳び越えると短剣を投げた氷の鎧の上に着地する。

 着地した時の衝撃によって氷の鎧が馬車に轢かれたように飛んでいく。


 直後、後ろから同じように短剣が飛んでくるが、体を横へずらすと短剣が飛んでいった……いや、ずらした時に減速させたせいで追い抜かれてしまったが、すぐに飛んでいった短剣を追い抜いた。


「おーーーーい」


 上の方から声が聞こえる。

 クラーシェルを守る外壁。現在、外壁の上には数人の見張りが立たされていた。


「戦争が起こった時にもいたけど、遠くから攻めてくる敵を見つける為だったり、籠城している最中に敵の様子を把握したりする為にも監視は続けないといけない」


 今回の場合は後者。

 籠城中に氷の魔物の状態を把握する為に寒い中でも立たされていた。


「悪いが、門を開ける訳にはいかない」


 出入りする為に必要な門。

 普段は多くの人を招き入れる為に開かれているのだが、緊急時の現在は硬く閉ざされている。


 入る為には開けてもらう必要がある。

 しかし、氷の鎧が攻め込もうとしている今は開けるわけにはいかない。

 間違って侵入を許してしまった場合には恐ろしい事態になる。


「どうするの?」


 イリスが不安そうに聞いてくる。


「問題ない。それに朗報だ」


 門を閉じていれば籠城は可能。

 後ろを振り返っている余裕がないので分からない。しかし、多くの氷の鎧が押し寄せてきているのは気配と音で分かる。俺の移動速度の方が速いため時間は得られるが、門を開けていられるほどの時間はない。


 さらに速度を上げる。


「え、そろそろ速度を落とさないと止まれな……」


 門を気にせず突っ込む。


「ふぅ……」


 足を止めたことでようやく一息吐くことができた。


「そういうこと」


 外壁の内側に自分たちの姿があることを確認してイリスが納得した。

 どうということはない。門に当たる瞬間に【壁抜け】を使用させてもらっただけの話だ。スキルを使えば門が閉まったままでも内部へ入ることができる。


「まだ、安心はできないぞ」


 今は一息吐いただけ。

 門の方へ顔を向ければ「ドン、ドン!」という大きな音が聞こえてくる。

 押し寄せた氷の鎧によって門が開けられようとしていた。


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