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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第32章 逃亡王族
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第39話 貴族の地位

 王城で開かれたパーティー。

 年が明ければ多くの貴族を招待してパーティーを開く。年明けまで数日あるが、地方からは既に王都へ来て滞在している貴族もいるため、彼らを招いてのパーティーが連日のように行われていた。


 参加した南部を治める貴族。


「お会いできて光栄です」


 スーツを着て俺も参加していた。

 積極的に参加するつもりはなく、隅の方で料理の乗った皿を手にしていた俺に気付いた貴族が話し掛けてきた。


「私、ハーフェルで領主をしているレブラントという者です」


 男性は貴族でありながら遜った姿勢だ。


「貴方方の噂は聞いております。大規模な盗賊団まで討伐してくれたようで本当に助かりました」


 ハーフェルはアリスターの北西にある町。

 つまり、シーリング男爵の影響圏内にあったため、盗賊に商人が襲われ多くの物が奪われていた。

 その盗賊団を壊滅させた俺たちに感謝していた。


「噂でパーティメンバーは見目麗しい女性だと聞いておりましたが、実際に見てみると噂が間違いでなかったと分かりますな」


 隣にいたメリッサが頭を下げ、シルビアが微笑んでいた。他の3人はどうにも表情が硬い。

 今回は全員に参加してもらっていた。予想以上に目立ってしまったためパーティメンバーであることも周知しておこう、というメリッサの思惑である。


「いやはや……このように優秀な若者を抱えられてアリスター殿が羨ましい」

「こちらも彼らに助けられている立場です」


 貴族同士ハーフェル子爵とアリスター伯爵が談笑する。

 そこへガエリオさんが疲れた様子を隠して加わる。店を手伝って疲れているところを連れてきてしまったため気を抜くと倒れてしまいそうだった。


「大丈夫か?」

「うん……」


 居心地悪そうにしているノエル。

 獣人の立場が弱いメティス王国。田舎へ行けばそんなことはほとんど感じないのだが、こういった貴族が集まる場所では顕著なので、人間以外の種族を見ない。元々の数が少ないため仕方ないと言える。


 一人だけパーティーに参加している獣人。

 そうすると目立ってしまい奇異の視線を向けられていた。


「やっぱり、帰るか?」

「でも、全員の顔を見ておきたいって言われたんでしょ」


 パーティーには全員で参加するよう公爵から言われていた。


「国王陛下、入場」


 パーティーには適当に参加しているとカーティスがパーティー会場に姿を現した。

 王になったばかりの新参者だからこそ、こういったパーティーで知り合いを増やす必要がある。


「皆、楽にしてくれて構わない。新たに王となったばかりの若輩。国を正しく統治する為には諸君ら貴族の協力が必要になる。クーデターを成功させたように正しき心を以て国を平和に導こう」


 おそらく、家臣の誰かが描いたであろうセリフを言ってグラスを掲げる。

 貴族たちも続いて乾杯を行い、再び談笑が始まる。


 俺たちは美味しい料理を堪能させてもらえばいい……訳ではない。


「今回は助かった」


 王としての威厳を精一杯出したカーティスが俺たちの前へ真っ先に辿り着く。


「いえ、依頼を受けた冒険者としてできることをしたまでです」


 カーティスが手を出してきたため握る。

 王と冒険者の握手。普通ならあり得ない光景にパーティー会場にいる貴族たちが騒然となる。


「これでいいですか」

「おかげで助かった」


 お互いにしか聞こえない小さな声で確認する。

 その後もパーティーは続き、遅れてある人物がパーティー会場へ到着した。


「迷ってしまったため遅れてしまったようだが来る決心がついたようだな」

「何かあったんですか?」


 何やら事情を知っているガエリオさん。

 遅れて到着したのはシーリング男爵だ。


「例の盗賊団。裏取引があったからシーリング男爵家は積極的に関与していた訳ではなく、家臣の一部が欲に駆られて行動した、ということになった」


 盗賊団による被害は認めたものの責任は家臣にある。

 それでも家臣の責任を取らない訳にはいかない。


「爵位は準男爵に降格。おまけに監督役がつけられて、治めていた領地の一部は国から派遣された役人に統治されることになった」


 名目上は以前のまま。

 しかし、実権は刷新されているため数年の歳月をかけて徐々に準男爵に相応しい領地規模へと縮小される。


 シーリング男爵……いや、シーリング準男爵にとってそれよりも問題になっているのが……


「よく、こんな場所へ来られるな」

「恥ずかしくないのかしら」

「盗賊と手を組んでいたらしいですね」

「本当、貴族の恥です」


 周囲から囁かれる言葉に顔を赤くしている。

 それでも叫ぶ訳にはいかないため怒りを押し殺して拳を握っていた。


「本当にどうしてこんな場所へ来たんですか?」

「それが、今回の裁可を下す条件になっていたからだ」


 シーリング家にとっては甘すぎる裁可。

 カーティスの気分次第では一族処刑になっていてもおかしくない。甘い裁可が下されたのは、辺境での面倒を嫌ったアリスター伯爵のおかげ。だが、それでは公爵の気が収まらなかった。


「こうしてパーティーに参加することで貴族たちの見世物になる。自分がどれだけ愚かな真似をしたのか晒すようにさせているんだ」


 王国から呼び出しを受けたシーリング男爵。

 自分に下された裁可を聞けば従うしかなかった。


「……そうまでして貴族の地位にしがみつきたいものなんでしょうか?」


 シーリング準男爵が恥を忍んでいるのは準男爵とはいえ貴族でいられるようにするため。

 貴族でないし、これからも貴族になるつもりのない俺には分からない。


「昔の私なら同じように貴族であろうとしたかもしれない」


 ラグウェイ家の後継者、そして正式に当主となったガエリオさん。


「昔から続く貴族というのは生まれた瞬間に後継者であることが決まる。だから、貴族は貴族であることに誇りを持っている。貴族でなくなることなど考えられないほどに固執する。本来は、その行動に貴族としての誇りがあるべきなのに嘆かわしい」


 仕方ない事情によって貴族の地位を失い、平民となったガエリオさん。

 生まれた瞬間から貴族となることを期待され、全ての時間を費やしてきたガエリオさんにとって何もかも失ってしまったような錯覚に一時は陥ってしまったらしい。


 しかし、地位を失ったガエリオさんは何もかも失った訳ではなかった。


「メリッサは手放してしまったが、私の傍には家族がいた」


 家族が支えになってくれたことで耐えることができた。


「それに、その時に地位に固執するなど馬鹿らしいことだと気付いた」


 ガエリオ・ラグウェイからガエリオへとなったことで一人の人間として生きることができるようになった。


「メリッサだけじゃなく、メリルも独立するようになる。親の私がしてあげられることは少ない。だからこそ、あの子は幸せにしてあげてほしい」

「全力は尽くす所存です」


 言われてなくても既にそのつもりだ。

 貴族とは違うが、気付けば俺にも責任が伴うようになっていた。しかも、俺の行動一つが十人以上の家族に影響を及ぼす。


 色々と柵が増えてしまった。

 それでも、責任を果たす為に頑張らなければならない。

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