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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第32章 逃亡王族
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第38話 真実という名の噂の拡散

「ふぅ……」


 自室のソファに座り込んだファールシーズ公爵が溜息を吐いた。

 先ほどまで多くの人に指示を出しており、忙しくしていたところようやく一息つけるようになった。


 その様子を部屋の隅で見つからないよう見させてもらった。

 俺が出て行ったところで何もいいことはない。


「まったく、この忙しい時に面倒な事が次から次へと舞い込む」


 もうすぐ年末。

 年末が忙しいのは店も国も変わらない。実務能力に乏しい新王である孫に代わって宰相として実務を取り仕切るファールシーズ公爵はようやく息を吐くことができていた。

 ゆっくりと休ませてあげたいところだけど、こちらも確認しなければならないことがある。


「失礼」

「……人の部屋に忍び込むのは感心しないな」


 とはいえ、こちらも急いでいる。

 夜にはパーティーが開かれることになっている。そこには公爵が参加する予定になっている。時間を得られるとしたら今ぐらいしかない。


「これでも手が空くのを待ってあげたぐらいなんですから感謝してください」

「で、用件は?」

「アリスターに広がる噂の件です」


 ガエリオさんたち夫妻が以前はラグウェイという都市を治めていた領主である貴族である、ということ。

 そして、過去の経歴から忙しいアリスター伯爵を手伝う為に家臣として徴用された、ということ。


 どちらも間違ってはいない。

 しかし、静かに暮らしたいガエリオさん夫妻にとっては重荷にしかならない。

 それに噂を聞いて夫妻のことを不憫に思った人たちが奮発して店で購入するようになっていた。そのせいでミッシェルさんは、ちょっとしたパニック状態になって手に負えなくなっていた。


「店のことは私も想定外だった」


 噂の出処を探るのは簡単だった。

 なにせアリスターは俺のホームとも言える町。おかしなことが起これば迷宮が記録するようにしている。


 今回も数日前に王都から到着した商隊が噂の出処だと分かっていた。

 商隊の目的は冬になったことで現れた珍しい魔物の買い取り。肉や皮が他の都市では高値で取引される。辺境でのみ得られる魔物の素材を求めて多くの商人が押し寄せていた。王都から新たな商人が訪れても不思議に思われない。

 だからこそ、噂の発生に当初は気付くことができなかった。


「どうして、あんな噂を流したんですか?」


 噂の内容は全く間違っていない。

 だが、意図的に流されていることから何かしらの目的があると思われた。


「貴族たちへの対策、だな」


 上級貴族にはクーデターに協力してくれた貴族が多い。

 しかし、クーデターに協力してくれたからといって侯爵に対して全面的に協力的な訳ではない。


「今回、ラグウェイ家を取り込むことができなかったのには、アリスター家からの干渉があったから、といった事を大々的に知らせるために噂という形で多くの都市に広めさせてもらった」


 噂はアリスターだけで広まっている訳ではない。王都と大きな取引がある都市へは侯爵の息が掛かった商人が送り込まれている。

 そんなことも知らずに依頼を解決する為に数日を要してしまった。


「大変だったでしょう」


 王都からアリスターまで10日近くかかる。

 俺たちが依頼を受けた日に王都から出発させたのでは間に合わない。すぐにでも噂を流す為に早馬で人を近くの町へ派遣して噂を優先して流した。


 噂を流した理由は分かった。

 けど、俺にとって許容できないのは、流されたもう一つの噂の方だ。


「ラグウェイ家の噂と一緒に別の噂も流していましたね」


 だからこそ、俺に知られる前に急いだ。


「嘘は言っていないだろう」

「ええ」


 王都を襲う魔物を倒した冒険者と王は個人的に依頼を出せる関係である。

 実際、レジナルド王子の捕縛の為に依頼を受けている。依頼を出したのは迷宮核の方だが、表向きな依頼書の方はカーティスの名前で出されているため王から出された依頼を受けているのと変わらない。


「お前たちと懇意にすることができる。貴族たちには、そのように思わせておく必要があった」

「それが最も困るんですよ」


 Sランク冒険者に認定されて王都に縛られることが最も困る。

 それが、分かっていながら公爵は噂を流した。


「それならば問題ないはずだ」


 Sランク冒険者は国に認められた冒険者。そのため、国以外からの依頼を引き受けることができず、急な依頼にも対応できるよう王都に滞在している必要がある。その間、収入がなくなってしまう代わりに国から年金が支払われることになっている。


 危険な依頼を引き受けなくても大金が得られる。

 だからこそSランク冒険者を夢見る者は多い。

 ただし、王都での生活は冒険者としての活動に比べれば退屈なので血気盛んな者などはAランクで留めている。


 俺の場合は、アリスターから離れたくないためSランクになるつもりはない。


「いや、Sランクになるつもりはありませんよ」

「たしかにSランク冒険者は国からの依頼しか引き受けることができない。だが、国からの依頼を引き受けることができるのはSランク冒険者だけ、という訳でもない」


 言われてみればそうだ。

 国からの依頼を引き受けるだけならAランク冒険者でも構わない。

 だが、国との間に何かしらの関係がある、と自分から言っているようなもの。自然と面倒事が増えるようになる。


「その辺の問題はこちらで解決するようにしよう。それでも、何かしらの繋がりを必要としている状況を理解してほしい」

「理解はしていますよ」


 メティス王国が抱える大きな問題。

 それは、Sランク冒険者の少なさにあった。

 クーデター関連の問題によって全員が王都で待機させられていたSランク冒険者。そこを『終焉の獣』に襲われてしまったため満足に活動できる者が少なくなっていた。


「最終的に9名いたSランク冒険者の内、死者が4名、重傷者が2名になったせいで満足に活動できるのは3名しかいない」


 3名の内の一人も戦闘向きな能力ではないため戦力になるような冒険者を求めていた。

 最強ランクの冒険者だが、『終焉の獣』はSランク冒険者の手に負えるような代物ではなかった。


「……譲歩できるのはここまでですよ」

「ありがたい」


 相手は新王の祖父。

 それに圧倒的な権力を持つ公爵。

 ここで無意味に敵対するよりも、ある程度のところで譲歩しておいた方が後々の役に立つ。


 何よりも……


「Sランク冒険者になるのは断ります。ですが、俺たちのパーティがSランク以上の実力を持っていることは理解しているはずです」

「もちろんだ」

「報酬が高くなることは承知していますよね」

「……」


 公爵が迷う。

 国庫から出すことは可能だろうが、私的な依頼を出す必要があった時には自ら出さなければならない。


「いいだろう」


 背に腹は代えられない。

 それに俺たちと関係があると宣伝できるとなった方が有益になると判断した。


「まあ、俺たちの力が必要になる事態は早々起きるとは思えないですけどね」


 既にリゴール教の主な戦力は討伐されている。

 そして、今回の事件を機に小さな組織であったとしても非合法なことをしていないか徹底的に洗い出すよう指示が出されている。近いうちに成果は出るだろう。


「礼になるか分からないが、今日のパーティーには参加してほしい」

「そうですね」


 貴族向けのパーティーは面倒だが、せっかく美味しい料理が出されるというのなら参加させてもらおう。

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