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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第32章 逃亡王族
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第37話 忙しい年末の店

 第2王子だったレジナルドを捕らえた。

 王都に来てから既に数日が経過している。だが、未だにアリスター伯爵を始めとした一行やガエリオさんは王都にいた。

 というのも、せっかく王都に来たため多くの貴族へ挨拶を行い、その際に表向きの理由であるガエリオさんを家臣にしたことの報告を行っていた。

 ガエリオさんを疑う者、ペッシュの起こした事件の中でも最も大きく最初の被害者とも言えるガエリオさんを取り込むことを不審に思う者など色々いるが、真実は分からないため説明を受け入れるしかなかった。


「どうしたんですか?」


 パーティー用のスーツを着たガエリオさんがソファに腰掛けてゲッソリと疲れた様子だった。

 去年の年末なんかは景気よく酒を買う人が多くてガエリオさんの店が繁盛していた。その代わりにミッシェルさんも合わせて夫婦揃って疲れた様子だったのを覚えている。その時と同じぐらいに疲れた様子を見せている。


「ああ、マルス君か」


 部屋には俺とガエリオさんしかいない。

 この部屋はガエリオさんの為に用意された部屋。さすがに伯爵と同じ部屋に泊まる訳にはいかず、仕事の内容から騎士とも行動を共にすることができず、使用人たちよりも身分が高いため一人だけ別室を用意してもらっていた。

 アリスター伯爵と打ち合わせがあるらしいが、その時にはガエリオさんの部屋を伯爵が訪れるようにしていた。


「ちょっと疲れていて……」

「パーティーに参加していただけじゃないですか」

「君は貴族のパーティーに参加したことがないから、そんなことが言えるんだ。毎日のように笑顔を張り付けて愛想を振る舞きながら話をする。これほど辛いことはない。もう貴族でなくなった、と油断していたよ」


 本当に疲れているらしく頭を抱えてしまった。

 パーティーに参加することによる疲労について言っているが、最大の理由は周囲からのプレッシャーだ。明らかに特別な待遇を受けているガエリオさん。何かしらの理由がある、と考えるのが当然で貴族たちは根掘り葉掘り聞くようになっていた。

 あまりに可哀想な姿に思わず提案してしまった。


「一度アリスターへ帰りますか?」

「そんなことまでできるのか」

「アリスターと王都の往復なら少し前にできるようになりましたよ」


 ガエリオさんを連れてアリスターへ帰るため立ち上がる。


「失礼します」

「うわっ」


 ちょうどメリッサが部屋に転移してきた。

 ドアを開けてもいないのに人が現れたことに相手が娘であってもガエリオさんが驚いていた。


「どうした?」

「お父様に用があるのですが、連れて行っても大丈夫でしょうか?」

「何かあったのか……パーティーは夜からだから日が落ちる前までだったら大丈夫だ」

「助かりました」


 俺に代わってメリッサがガエリオさんを連れて転移する。

 行き先を追うのは主なら簡単であるため転移先へと移動する。


「なんだ、これ……」


 転移先の光景に思わず言葉を失ってしまった。

 メリッサがガエリオさんを連れて行ったのは、アリスターにあるガエリオさんの店。高級な酒を好んで飲む人で繁盛している店なのだが、単価が高いことで儲けを出しているため大勢の客が訪れている訳ではない。


 だが、今日の店は大勢の人で繁盛していた。


「今日だけではありません。数日前から、この状態です」

「は、おい……」


 ガエリオさんが店を離れている間はメリッサの母親であるミッシェルさんが一人で切り盛りすることにしている。

 こんなに忙しくて彼女一人で店を回せるはずがない。


「人手については大丈夫です」


 店の奥を見ればミッシェルさんが接客をして、客から料金を受け取っていた。

 その間にも店の棚に並べられた酒を客が手に取っていく。商品のなくなった棚。そこへ補充が必要なのだが、接客で精一杯のミッシェルさんでは店内のことにまで手が回っていなかった。


「失礼します」

「ちょっと通してくださいね」


 店内の様子を眺めていると二人の男が酒の入ったケースを抱えて棚の前へ行くと商品の補充を行っていた。

 冬で寒いというのに袖が二の腕ぐらいまでしかないシャツを着た男。二人とも重たい物を運んで汗を掻いていた。

 どうやら店を手伝っているらしい。


 二人には見覚えがあった。


「冒険者……?」


 冒険者ギルドで何度か顔を合わせたことがある。

 たしか、Dランクの冒険者だ。冒険者の中でも低ランクの者なら街中で行えるような雑用の依頼を引き受けることがある。そうして、簡単な依頼で貯めたお金で装備を買い、外で魔物を狩るようになる。ただ、彼らは実力もそれなりにあるはずなので雑用の依頼を引き受ける必要はないぐらい蓄えはある。


「私が雇いました」


 店が忙しくなることを見越していたメリッサは冒険者ギルドで働いてくれる人を依頼で募集していた。


「大丈夫なのか?」

「はい。二人ともよく働いてくれます」


 冒険者には粗暴な者が多いため、緊急性の高い仕事を頼むことはある。

 店の手伝いは既に数日に渡っており、真面目に働いてくれることにガエリオさんは戸惑っていた。


「二人とも依頼で失敗して冬の蓄えを失ってしまったようなのです」


 冬になれば雪が積もる。

 冒険者が多く稼ごうとすれば魔物を狩ったり、素材を採取したり……と、町の外での活動が必須になる。さすがに雪の積もる寒い中を動き回りたくないため冬になる前に蓄えを用意しておき、のんびりと過ごすようにしている。

 ただし、何が起こるのか分からないのが冒険者。

 二人も何らかのミスをして蓄えを失ってしまったらしい。


「報酬は少しばかり弾みましたから士気も高いですよ」

「私としては真面目に働いてくれることが不思議なんだが……」

「それなら大丈夫ですよ」


 冒険者の二人には、依頼人が誰であるのかしっかりと伝えられていた。


「冒険者の世界は実力主義。そして、ランクの影響力は強いです」


 彼らのランクはD。

 対して依頼を出したメリッサのランクはA。

 アリスターにおける事実上の最高ランクの冒険者を相手にサボったりすることができなかった。何より、ミッシェルさんに不埒な真似をした時には恐ろしいまでの制裁が待っているのを理解している。


「それより、お父様も手伝って下さい。今まで、私の手が空いている時に手伝っていましたが、今日は想定以上に忙しくて手が足りていないのです」


 冒険者の二人にできるのは商品の補充や重たい荷物を届けるといった肉体労働のみ。後は、ミッシェルさんしかいない所に不埒な輩が来ないよう用心棒みたいな役割も果たしていた。ただし、接客は任せられなかった。


 俺についてプラムで活動していた。ディオンの面倒も優先させていた。それでも空いた時間を見つけて実家の店も手伝っていたらしい。いつ、そんな時間があったのか不思議になるぐらいだがメリッサならできたのだろう。


「よし、分かった」


 ガエリオさんも気合を入れて店の奥へと向かった。


「オッサン」

「おい……」


 見知らぬ人物が店の奥へ向かったことで止めようとした二人だったが、一緒にメリッサもいたことから動きが止まってしまった。


 完全に緊張から硬直している。

 近接戦闘が得意な二人。以前に酔った勢いでメリッサに絡んだことがあった。本来なら近接戦闘が苦手な魔法使い、しかも女性ということで簡単に落とせると思ったのだろうが、結果は魔法を使われることもなくボコボコにされていた。

 その時の経験からメリッサにちょっとしたトラウマがあった。


 このままだといけない。


「なあ、ちょっといいか?」

「マ、マルスさん……!」

「そんなに緊張しないでくれよ。ランクは俺の方が高いんだろうけど、冒険者としてはそっちの方が先輩なんだから」

「そうは言っても……」


 俺にまで緊張している冒険者。

 話題を逸らす為に用件を言う。


「なんだか今日はいつも以上に忙しいみたいだけど何かあったのか?」

「俺たちも詳しいことは分かりません。ミッシェルさんが言うには、ここ数日が忙しいのは年末が近いからだって言っていました」


 生活に余裕のない家庭でも年末は騒いで年を越すようにしている。その際に酒が飲まれることが多いため稼ぎ時だと去年なんかはメリッサが言っていたのを覚えている。


「ただ、今日はいつも以上に忙しいですね」

「いや……客が話しているのを聞いたけど、あの噂が関係しているんじゃないか?」

「噂?」


 二人が聞いた噂について尋ねる。

 同時に客の会話にも注意を向けて噂について確認する。


「店主とミッシェルさんがアリスターへ来る前はどういう人だったのかっていう噂です」


 客も似たことを話している。

 どうやら、噂が広まっているのは間違いないらしい。

レジナルド王子捕縛リザルド


・宝剣シュティーレ

・黙認

・白金貨50枚

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