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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第32章 逃亡王族
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第33話 レジナルド王子-領主-

「何が起こっているんだ……」


 プラムを見渡すことのできる高い場所にある部屋。

 そこで40歳ぐらいの男性が目の前に広がる光景を見て呟いた。


「気を確かに持って下さい」

「そうは言っても……」


 男性の傍には執事服を着た老いた執事が立っていた。

 現在、プラムでは様々な騒動が起きていた。地下から飛び出してきた魔物や奴隷たちによる襲撃。騎士や兵士による鎮圧が行われているものの暴れている者の数が多く追いついておらず、次から次へと出てくる始末で終わりが見えない。


「こんなことならレジナルドの要望など受け入れるべきではなかった」

「ですが、受け入れなかった場合、リーガック家に待っているのは破滅です」

「どういうことなのか説明してもらおう」

「「……!?」」


 二人が同時に振り向く。

 その先にいるのは私――イリスだ。


「どうやってここへ?」

「少々特殊なスキルを使ってプラムの正確な地図を手に入れさせてもらった」


 スキル【迷宮操作:地図(マップ)】の恩恵だ。

 迷宮の外で使用した場合には、自分たちが通り、目にした場所の構造を把握して地図を作製するスキル。


 プラムへ来てから半日も経っていない。私やマルスたちだけならプラムの全てを巡ることはできない。けど、都市の中で行動をしている間にサンドラットを街中へ飛ばしていた。縦横無尽に駆け巡るサンドラット数十体が手分けして探索してくれたおかげで地図を完成させることができた。


 その中でも一番重要そうな場所へと私は足を踏み入れていた。

 ここは、領主の館。護衛に就いている騎士がいたけど、外の騒動に気を取られていて接近する私に気付くことはなかった。


 目的は――マルスの言っていた頭の排除。

 けど、今の言動からして彼――プラムの領主ロドリゲス・リーガックを排除したところで解決するようには思えない。


「私がここへ来た方法なんてどうでもいい。それよりも、レジナルドとどういう関係だったのか教えて」

「ど、どうしてそのようなことを教えなければならない……」

「ロドリゲス様!」


 執事が領主の前に立って私を警戒する。

 どうやら状況を理解していないみたい。


 そこで、カーティスからの依頼票を見せる。マルスと別行動をしている時でも使えるよう複数枚用意してもらっていた。


「私たちは王からの依頼で動いている冒険者。素直に私たちに協力するなら恩赦もありえるかもしれない。けど、反抗した場合には……」


 レジナルドと同様の裁きが下される。


『いえ、事情はそれとなく推測できます』

『メリッサ?』

『これを見てください』


 デグレット商会を探っているメリッサが見つけた書類が彼女の視界を通して私にも見えるようになる。

 なるほど。


「随分と色々なことをやっていたみたいね」

「何のことだ!」

「税の誤魔化し、おまけに都市を訪れた人の記録を帳簿から抹消、特定商会への肩入れ……それらの書類がデグレット商会に残っていることを考えると訪れていないことになった人たちがどうなったのか……」


 デグレット商会には借金や犯罪以外の理由で奴隷となった者がいる。

 彼らの大半が盗賊によって誘拐された者だけど、悲しい出来事として町が積極的に加担している場合もある。

 商業都市プラムも奴隷の確保に積極的だった。プラムには多くの人が訪れ、その中には消息の定かでない人も含まれる。都市を訪れた記録からも消えてしまえば、行方不明者となって誰にも見つけられなくなる。


「し、仕方なかったんだ……」

「何が『仕方なかった』の?」


 領主の首に剣を突き付ける。

 執事は守りたかったようだけど、私が鞘から剣を抜いた瞬間を捉えることすらできていなかった。


「最初は、新しく雇った家臣からのアドバイスだった。少し書類を誤魔化せば国へ納める税を減らすことができる……ちょっとした出来心だったんだ」


 その新しく雇った家臣は、国に以前は使えていた文官だったのだが上司との折り合いが悪くなって離れることになった。

 プラムで新しい人材を募集していたところ応募があったため採用した。


 しかし、それがレジナルドの罠だった。


「奴は、私のプラムを奪う為に不正を働くよう人を派遣した」


 新しい家臣はレジナルドからの密命を受けていた。

 密命の内容は不正を働くよう仕向け、明確な証拠を手にすること。

 家臣はレジナルドからの密命を見事に果たし、明確な証拠を手に入れると領主を脅す為に利用した。


「あんなことがバレればリーガック家はプラムの統治から外されることになる」


 不正による金額は微々たるもの。

 それでも、大都市の領主という地位は誰もが狙っているため小さな不正であっても知られれば徹底的に追及されることとなる。

 それが分かっていたからこそ領主はレジナルドの命令に従うしかなかった。


「で、何をしていたの?」


 町で広がる光景を見れば想像はできる。


「奴隷たちを捕えることを黙認していた」

「……黙認っていうのはどこまで? 他所から町へ運び込まれること? それとも町にいる冒険者が捕まえられるところまで?」

「それ以上だ」


 人目につかない場所の情報提供。

 さらにリーガック家が積極的に関与した訳ではないが、買収されている騎士がおり、領主に仕えるべき戦力が誘拐を行っていた。


『結構な人数が加担していますね』


 資料に目を通すメリッサ。

 彼女が今、見ているのは手伝ってくれたことに対する報酬の支払いを記録した資料。どういった意図があってこんな資料を残していたのか分からない。

 けど、悪事に加担していた証拠にはなる。


『回収して』

『はい。使えそうな資料は手当たり次第に回収していますので、そろそろ撤収します』


 メリッサなら引き際を間違うこともない。

 さて、そろそろ交渉しないといけない。


「貴方はどう責任を取るつもり?」

「どう、とは?」

「外の景色を見て何も思わないの?」


 襲っているのは無理矢理奴隷にされた人たち。

 襲われているのは騎士や兵士。それに覚えている限りだけど、誘拐に協力的だった一般市民。


 彼らの怒りは正当なものだ。

 だけど、このまま放置する訳にもいかない。


「領主として今の状況に対して、どんな償いをするのか……まさか、このまま静観して放置する、なんて言い出さないよね」

「……」


 私の言葉に領主が歯を噛み締める。

 貴族であることに拘りを持っていた。だから、貴族としてのプライドを揺さぶってみた。領主には、領地と領民を守る義務がある。


 今の状況は、領主として守れている、と言えるのか……?


 答えは、否。

 本当に領主として在り続けるつもりなら失格もいいところ。


「町にいる者全員に武器を納めるよう伝える。その上で、被害に遭われた方々……いや、辛い目に遭わせてしまった人たち全員に頭を下げる」

「お待ちください。領主がそのようなことをすればリーガック家は……」

「間違いなく取り潰されるだろう」


 取り潰し、で済めばいい方だ。

 レジナルドのしていたことに公爵は非常に怒っていた。事が済んだ後で、どんな罰が待っているのか考えたくもない。


「行くぞ」


 部屋を出て行こうとする領主。

 気概あるのはいいことだけど、そんなことをしていたら時間がどれだけあっても足りない。


「これを使って」


 太い棒のような形をした魔法道具を渡す。


「これは何だ?」

「それに向かって言った言葉は、対になった魔法道具が置かれた離れた場所から拡大されて周囲に広がるようになっている」


 街中にいるサンドラットを起点に魔法道具を出させてもらった。

 これで、部屋にいながら領主の言葉を街中に伝えることができる。


『こっちは準備ができたけど、マルスは何をやっているの?』


 レジナルドを追い詰めているはずのマルス。

 私に指示を出してから一向に連絡がないから状況を確認することにした。


『今、そっちに自力で走っているレジナルドの後ろを追い掛けている最中』

『まさか、追い掛けているの?』


 そんなことをする必要はない。

 私たちには位置の探知を可能にする振り子(ダウジング・ペンデュラム)という魔法道具がある。既にレジナルド王子を認識することができたのだから、どれだけ離れた場所からでも追い詰めることができる。だから、追い掛け続ける必要はない。


『そんなことはないさ。こうして、俺を認識しながら逃げているおかげで俺を排除する為の命令を逃げながら出している』

『……もしかして、楽しんでいる?』

『手間が省けて喜んでいるのは間違いないな』

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