表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第32章 逃亡王族
891/1458

第31話 闘技場-乱入試合-

アイラ視点で暴れます。

「おまえ……」


 槍を持った男が立ち上がる。

 この場を立ち去るマルスをすぐにでも追い掛けたそうにしているけど踏み止まっている。あたしが残ったからね。


 警戒している男に向かって鞘から剣を抜く。

 使い慣れた剣じゃない。今は武器を強くする為に預けている。だから、代わりに用意した剣。代用品の剣とはいえ、一流品であることには変わりない。


「つよい」


 槍使いの男が近くにいた闘技場最強の男を片手で持って投げてくる。


「邪魔」


 飛んできた男を剣で叩いて落とす。

 そうしている間も槍使いの男から目を離さない。

 槍使いの男が腰を落として槍を構える。


「通じない、か」

「来なさい。あたしはマルスみたいにつまらない真似はしないわ。しっかりと受け止めてあげる」

「イク――」


 槍使いの体から電撃が迸って加速する。

 まさに目に止まらない速さ……一般人にとっては。

 スッと横へ避けると通り過ぎていく。


「どうして、当たらない」


 あたしの横を通り過ぎた槍使いの声が聞こえてくる。奥へ飛びながらの声だから、まるで置き去りにしているように聞こえる。それでも、ちょっとしたコツさえ掴めばハッキリと聞き取ることができる。


「動きが単純。直線的過ぎる」

「ぐぅ……」


 槍使いが槍の持ち方を変える。

 槍を摘まむような持ち方だ。

 すると、真っ直ぐにあたしの後ろへ向かっていた体が円形の試合場を飛び回る。


「できれば、やりたくなかった!」


 試合場の壁を蹴って飛び回っている。

 鍛えられた体だから耐えられている。それでも、相当な負荷が掛かっていることには変わりない。


「飛び回れば回避はできないと思っているの?」


 横から、後ろから来た攻撃を全て回避する。


「どうして……!」

「来る方向がバラバラになっただけで攻撃が直線的なのには変わりないのよ。こっちは、あんたよりも速い奴と頻繁に摸擬戦しているんだから」

「ウソだ……! オレよりも速い奴なんていない」

「世界を知らないのね」


 シルビアは純粋な速さのみで、あたしを翻弄してくる。

 対して、槍使いが目にも止まらぬ速さを発揮することができているのは、手にしている槍のおかげ。槍が電撃を纏うことで雷のように直進することができ、槍を手にしている槍使いが方向を変えることで相手に狙いを定めることができる。

 まあ、方向を変えるだけでもけっこう大変なうえ、槍の力を使うにはかなりの魔力を使っているはず。だから、担い手として不足している訳じゃない。


「じゃ、そろそろ終わりにしましょうか」


 後ろから飛んで来た槍使いを避けると正面に姿を捉えられる。

 槍使いが壁を蹴って戻ってくる。


 すると、あたしたち二人の目が合う。

 目が慣れてしまえば相手の姿を捉えるのは難しくない。未だに勘を頼りに回避するだけで精一杯のシルビアに比べれば遅いくらいだ。


「な、えっ……」

「もう、遅い」


 戸惑う槍使いを無視して剣を振るう。


「ぐべぇ!?」

「……ん?」


 最初から急所は外していた攻撃。

 けど、剣を当てた時の感触から槍使いとは全く異なるものを斬ったのが分かる。


「誰、これ?」


 あたしの近くには顔を知らない兵士が血を流して転がっていた。

 肩に斬られたばかりの傷があるから、たぶんあたしが斬ったんだろう。


「いや、どこから飛んで来たの?」


 あたしの疑問に答えるように観客が一斉に貴族のいる個室……というよりも、マルスが出て行った出口のある方を見る。


「がぁ!」

「げへ!」


 さらに追加で二人の兵士が落ちてきた。

 うん、暴れすぎ。


「どうする? まだやる?」


 兵士が間に落ちてきたことで難を逃れた槍使いが離れた場所にいた。

 あたしの攻撃から逃れる為、咄嗟に遠くへ飛んだのだろう。


「もちろん、やる!」


 膝をついていたから戦意を喪失しているのかと思いきや、あたしが声をかけると槍を手にして立ち上がった。


「勝って、おまえを里へ連れて行く!」


 ……うん?


「どういうこと?」

「オレは、おまえみたいに強い女を探していた。オレの里、女の数が少ない。オレも強いから子孫を残すよう里長から言われている。けど、里にいる弱い女じゃあ、つまらない。おまえみたいな女じゃないと嫌だ」


 つまり、あたしが強いから嫁として連れて行きたい?


「強いから嫁にしたいって言われても、あまり嬉しくないかな」

「強いだけじゃない! おまえ、キレイだ」

「あ、ホント?」


 それは、ちょっと嬉しいかもしれない。


「子供を産んでもそういう風に言われるのは嬉しいわね」

「子供? もう、いるのか。そいつは邪魔だな」


 ……ん?


「おまえにはオレの子供を産ませる。オレ以外の弱いヤツとの間に生まれた子供は不要だ。処分する」


 その言葉を聞いた瞬間、あたしの中で何かがキレた。

 数秒後、槍使いが地面に血を流して倒れている。血の量はそれほど多くないので致命傷には至っていないはずだ。


「なに、を……」

「あたしが本気になれば、あんたが槍に頼って出していた速度と同等ぐらいの速度は出せるの」


 一気に接近して槍使いの男の腕を斬った。

 ただ、あたしたちとしても人を殺してしまうのは本意ではないから戦闘継続が不可能な程度に斬っている。

 けれども、人として生き残っているだけで戦士としては死んだようなもの。


「腕、が……」


 立ち上がる為に腕を動かそうとしているんだろうけど、自分の意思に反して動かない腕に驚愕を隠せていない。


「主要な筋肉を斬らせてもらったわ。治療すれば日常生活に困らない程度まで回復させることはできるけど、槍を握れるほどに回復させるには大金を積む必要があるわね」


 回復魔法で有名な人に頼めば治療してもらえるかもしれない。

 けど、そういった人は多忙で、1回の治療に大金が必要になる、と聞いたことがある。

 槍使いがどれだけのお金を持っているのか知らないけど、言葉の端から伺える教養から難しいんじゃないかな。


「あたしのシエラを処分する? ハッ、世界で一番可愛いシエラに殺意を向けようとする奴は殺されなかったぐらいでちょうどいいと思いなさい。それに、あんただとシエラを襲ったところで返り討ちに遭うぐらいよ」


 シエラを襲うような人がいればあたし以外の人も黙っていない。

 シエラ自身も風神とシャドウゲンガーが常に守っているようなものだから槍使いにはどうすることもできない。


「という訳で、もう戦うことができないんだからコレはいらないわね」


 槍使いの使っていた槍を収納リングへ回収してしまう。

 観客席が騒然としている。まさか、あたしみたいな女が勝つとは思っていなかったんだ。


 けど、騒ぎの原因はあたしだけじゃなかった。ヨルヘス商会の会長が近くにいた色んな人たちに指示を出していた。

 どうやら、ようやく事態を飲み込めたみたい。


「随分とやってくれましたね」


 拡大されたヨルヘス会長の声があたしの所まで届く。風魔法を使えば離れた場所にいる相手へ声を届けることだってできる。


「何のこと?」

「ライノル商会の地下室で倒れている商会員が見つかりました。彼が直前に会っていたのは貴女たち。何らかの関係があるのは間違いなく、我が商会の出資者の一人を追って行きました」


 ヨルヘス会長のあたしたちの目的がレジナルド王子の捕縛であることに気付いた。


「お仲間はどこへ行きました?」


 試合場であたしが注目を集めている。

 けれども、いつの間にか一緒に行動しているはずのメリッサとイリスが姿を消しているからヨルヘス会長は気になって仕方ない。


「教える気はないわね」

「そうですか」


 居所の掴めない二人。

 放置すると、とんでもないことになる予感がしたのか合図を出す。


「あらら」


 魔物を戦わせる試合用の出入口から大きな魔物が姿を現す。

 マンティコア、サイクロプス、オーガ――どれも人間より圧倒的に大きい。


「試合はここまでです。全力で排除させてもらいます」

「もう、遅いんじゃないかな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ