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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第32章 逃亡王族
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第26話 混乱尋問

「チッ、下手を打ったか」


 酒が保管されている薄暗い地下室で、椅子に座らされた男性が小さく呟いた。

 男性は失敗した、と言っているがメリッサは最初から倉庫内で何らかの盗品を見つけるつもりでいたため相手が悪かっただけだ。


「おい、何をしている!?」


 それまでの丁寧な口調を捨てて男がメリッサとイリスを見る。

 男の拘束は俺とアイラでさせてもらった。その間、メリッサが棚に並べられている酒を確認して盗品であると分かるとイリスに回収させていった。

 拘束している数十秒の間に倉庫にあった酒の1割が消えている。

 ……どれだけ盗品を置いているんだよ。


「俺たちの要求は一つだ。元メティス王国第2王子であるレジナルド王子の居場所を教えろ」

「何を言っている。王族は全てクーデターが成功したことで処刑されたはずだ」

「こんな場所まで来た時点で察しろ。こっちは既に影武者を使って生き延びていることを知っている。俺たちが探しているものは『レジナルド王子』だ」


 剣を首に突き付けて本当の目的を告げる。

 男もようやく自分の間違いに気付いたらしく、息を呑んでいた。


「なるほど、理解した。だが、どれだけ拷問されたところで言うつもりはないぞ」

「随分と忠誠心があるじゃないか」

「それはそうだ。商人の家で五男として生まれた俺は死ぬまで親や兄貴に扱き使われるだけの日々を送るはずだった。それを、あの人が拾い上げてくれたおかげで一人前の商人を名乗れる程度にまでなれた。あの人の為なら死んでもいい」


 死んでもいい。

 情報を吐かせる為に最も手っ取り早いのは不死帝王(アンデッドエンペラー)の力で不死者(アンデッド)にして支配下に置くことで命令に従わせる。

 しかし、その為には不可逆の死が必要になる。さすがに情報を吐かせる為だけに死なせてしまうのは申し訳ない。越えてはならない一線を越えてしまった者たちに対しては別だが、目の前で拘束されている男に対してはそこまでの怒りを抱いていない。


 突き付けていた剣先で僅かに刺す。

 首に血が流れる。男にも自分の血が流れていることが分かっているはずなのだが、覚悟が既に決まっているのか俺を睨み付けたまま何も反応しない。


 これは、強硬策に出る必要があるかもしれない。


「仕方ないですね」

「メリッサ?」

「不安定なので最後の手段にとっておきたかったのですが、覚悟ができているようならやるしかありません」


 右手に魔力を集中させながら男に近付くメリッサ。

 手を伸ばせば届く距離にまで近付いた頃には、右手の魔力が魔法へと変換させられていた。


「どんな拷問にだって耐えてみせる」

「安心してください。耐えるなど無意味です」


 魔法を纏った手で男の額を覆う。


「何も起こらないぞ」

「少し威力が足りなかったようです。人間を相手に使うのは初めてのことなので、加減が分かりませんね」

「お、おい……」


 不穏な言葉に止めようとする。

 けど、メリッサの中では加減が既に分かったらしく魔法の力を強める。


「がっ……」


 男の体がガタガタ震えて痙攣している。すぐに、口の端からよだれも流すようになる。

 明らかに正常ではない。


「何をしたんだ?」

「【闇属性魔法:混乱(コンフュージョン)】です」

「え、でも……」


 【混乱】は感覚を狂わせる魔法だ。少なくとも、目の前の男のように全身を痙攣させて、よだれを流すような状態にする魔法ではない。


「私なりに尋問用に改良をしました。認識能力が著しく低下しますので、こちらの質問にも素直に答えてくれます。ただ、認識能力を低下させてしまっているので質問に答えてくれる可能性も低くなっています」

「ダメじゃん」

「問題ありません。魔法を掛けてから時間が経っていなければ大丈夫です」


 本当だろうか……?


「質問です。レジナルド王子は、商業都市プラムにいますか?」

「い、る……」


 ちょっと怪しい口調で無感情に答える。


「では、プラムのどこにいますか?」

「あの、ひとは……あきらめて、いない!」

「諦めていないっていうのは?」

「おう、だ!」


 王になることを諦めていない。

 しかし、クーデターが完全に成功してしまった今の状況では王位を手にする可能性はないに等しい。そもそも、表向きには死んだことになっているため王位継承権は失っている。

 それと、迷宮核がレジナルド王子の即位を絶対に認めないだろう。何らかの方法で迷宮核の承認を得ずに無理矢理王位に就いた場合には王都には破滅が訪れる。


「王位継承権のないレジナルド王子がどのようにして王になるつもりですか?」

「かんたん、だ。うばわれたなら、うばいかえせばいい……」

「どのようにして?」

「それ、は……がぁ!」


 質問に答えている最中で男が拘束されたまま椅子から立ち上がる。

 自分の体を回転させると椅子でメリッサに殴り掛かる。


「どうやら、ここまでのようですね」


 メリッサに当たる前に椅子が砕けて壊れる。

 瞬時に展開された魔力障壁によって受け止められ、椅子が粉々に砕けてしまった。混乱状態にあるため脳の制限が解除されて普段以上の力を出せるようになってしまっている。


 拘束から自由になった男。

 そのまま最も近くにいるメリッサへと飛び掛かる。制限が解除されて普段以上の力が出せるようになっているが、冷静な判断能力が失われてしまっているため獣のように襲い掛かるしかしない。


「これでは【混乱(コンフューズ)】ではなく【狂化(バーサク)】ですね」


 アイラとイリスが剣に手を掛ける。

 しかし、二人が剣を抜くよりも早く飛び掛かった男が横から衝撃を受けて吹き飛ばされる。

 いくら強化されたといっても商人程度を昏倒させる程度で十分な威力の魔法なら瞬時に構築することができる。杖で叩くよりも早く、そして強く打ちつけられた衝撃によって男が床に転がる。


「眠りなさい」


 倒れた男に【睡眠(スリープ)】をかける。

 強力な魔法を掛けているので数時間は起きてこないだろう。


 気絶した男をメリッサとイリスが盗品を回収したことでできた棚の空間の奥へ押し込み、手前には瓶を並べる。

 薄暗いこともあってチラッと見ただけでは奥に人間が寝かされているとは思わないだろう。


「どうやら想像以上に厄介なことになっているみたい」

「どうしますか?」

「突撃を仕掛けましょう」


 イリスが得られた情報に頭を抱え、メリッサがこれからの予定を尋ねるとアイラが過激な提案をしてきた。

 過激な方法ではある。


「けど、ここに隠れ家みたいなところがないところを見ると突撃が最も有効な手段なんだよな」


 地下室にある倉庫。

 ここから、さらに下へ隠された倉庫がある。

 ただし、地下室の下にある空間を拠点のようにしていた場合、出る時には酒瓶の置かれた棚のある場所を通って地上へと出る必要がある。


「おそらく、隠し財産でもあるんだろうな」


 試しに地図を参考にしながら地下室を歩いてみる。

 わずかに音の違う場所を発見したため注意深く見てみると床を持ち上げられるようになっていた。地下室の床は石で造られている。しかし、そこだけは石に似せて造られているだけだ。


 床を持ち上げてみる。


「ビンゴ」


 下には金銀財宝。それに高価な宝石、どれだけの価値があるのか分からない陶器や骨董品が置かれていた。


「今、パッと見て分かる範囲だけですが、全て盗賊団に奪われた品物ばかりです」

「よく覚えているな」


 盗賊団による被害を聞いたメリッサは手に入れた情報の全てに目を通して記憶していた。

 膨大な量の情報があったため全てを覚えているメリッサには驚かずにはいられない。


「とりあえず全て持って帰ってしまいましょう」


 4人で手分けして盗品を回収する。

 見つかれば、すぐに騒ぎになる。しかし、こんな隠された場所を普段から確認する訳がなく、すぐには見つからないだろう、という確信がある。


 唯一の懸念は気絶させられた男なので、数時間は大丈夫なはずだ。


「でも、問題にならないか?」

「問題ありません。公爵に物的証拠である盗品を見せ、この件を報告すれば公爵は必ず私たちの味方をしてくれます」


 それだけ盗賊団の被害に怒りを覚えていた。


「よし、時間もないんだし、次の場所へ襲撃を仕掛けるぞ」

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