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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第32章 逃亡王族
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第25話 試飲

 ライノル商会。

 広い建物を拠点にしている。商業都市プラムは多くの商人が集まっており、建物が多いので土地を確保するのが難しい。単純に資金があればいい、という訳でもない。


 それでも広い建物を確保できるだけの土地を手に入れられた。

 それは、ライノル商会が伝手を持っていることの証明だった。

 何よりも拠点の大きさは商会の分かりやすいステータスとなっている。


「いらっしゃいませ」


 拠点へ入った俺たちを入口の正面にある受付に立つ女性が迎え入れてくれた。

 広い空間。ライノル商会の業務が主にあちこちを移動しているため、業務のほとんどが商業都市プラム以外で行われている。

 だが、拠点のプラムでは他の場所で活動している商会員の取りまとめが行われており、もっと重要な仕事もある。


「ちょっと商品を見せてほしいんですけど」

「かしこまりました」


 受付の女性に案内されて奥にある部屋へと向かう。

 倉庫では、多くの品物が整頓されて展示されていた。


「どのような物をお探しですかな?」


 スーツを着た男性が迎えてくれる。

 冒険者カードとステータスカードを見せて身元を証明する。


「ある物を探すよう依頼を受けた冒険者です。ここになら珍しい物があるかもしれない、と伺って来ました」

「そうですか。私共の商会も有名になったようで喜ばしい限りです」


 あちこちを移動しているライノル商会。基本的に決められたルートに従って移動をしている。だが、たまに何らかのトラブルや商会の都合によって予定にはない場所へ立ち寄ることがある。そういった場所で珍しい物を手に入れることは稀にあるようで、予定にない物品については拠点であるここの倉庫へと集められる。

 そういった理由から、ライノル商会には珍しい物が置かれている、とサティルの紹介状に書かれていた。


「ある貴族から受けた依頼です。珍しい酒を探しているのですが、ありますでしょうか?」

「贈答用ですか? 一品物でもよろしければ、珍しい代物でも置いてありますので希望に沿えるかと思います」


 貴族からの依頼だと聞いて贈答用だと勘違いした男性。

 冒険者は信用度が低いが、Aランク冒険者ともなれば貴族からの依頼も受けるような信頼がなければなることができないため信頼されていた。

 倉庫の奥にある階段を下りると、ワインセラーになっていた。


「貴族が所望される代物なら……」


 在庫を思い出しながら男性が案内してくれたのは目立つ場所にあったワインの置かれた棚。


「こちらなどいかがでしょうか」


 並べられていたワインの1本を手に取って見せてくれる。

 ワインラベルには、ワインの名前や生産地が描かれている。大量に作られただけのワインなら何もされないことが多いのだが、しっかりとした情報が描かれているのはステータスになると分かっているから。


 俺には全くワインの良し悪しは分からない。

 ここでの行動は全てメリッサのシナリオだ。


「試飲することは可能ですか?」


 メリッサが男性に尋ねる。


「ええ、問題ありませんよ」


 別の瓶を手に取ってワインをグラスに注ぐとメリッサに渡してくれる。

 笑顔でグラスを渡してくれた男性。しかし、ワインを味わいながらゆっくりと飲んだ後のメリッサの言葉を聞いて笑顔が凍り付いた。


「嘘はいけませんね」

「嘘、というのは……?」

「このラベルには『テレエテ村』で21年前に生産されたワインだとあります」

「それが、何か?」


 テレエレ村は、ワインの生産に力を入れている村らしい。原料の生産からワインの生産まで行っており、村の規模は周囲と比べて大きい。

 有名なため、テレエレ村で生産されたワインには高値がつく。


「この年は災害があったので生産量が少なかったです」

「そうです。そのため、他の年よりも貴重になったことからお値段が高くなっております。ですが、貴重なので貴族の方が送られるプレゼントとしては最適かと思われます」


 貴族なら高価なワインぐらいは簡単に飲める。しかし、生産量が少ないワインともなれば簡単に飲むことができない。

 そういった希少性からプレゼントに勧めている。


 俺にはメリッサが何を問題にしているのか分からない。一緒にいるアイラやイリスも同じだ。


「では、これは本当に21年前にテレエレ村で生産されたワイン、で間違いないのですね」

「そのとおりです。こちらとしては、冒険者の方が詳しいことに驚いています」


 冒険者の中には酒を飲んでいる者が多い。しかし、彼らの多くが命懸けの依頼で興奮した体を落ち着かせる為に酔うことを目的にしている。酒の味にまでこだわりを持つのは少ない。

 男性も普通の冒険者が相手なら安酒を勧めただろう。しかし、貴族を相手に渡すことが先に分かっていることから憚れた。貴族を相手に安酒を売った、などと同業者に知られた時にはライノル商会の名前が墜ちることが分かっていたからだ。

 だからこそ、本物の貴重な酒を提供した。


「間違いなく本物です」

「はい。本物なのは私も飲んで確信しました。このワインは、どのようにして手に入れられたのですか?」

「テレエレ村は、街道から外れていますので本来のルートにはなかったのですが、テレエテ村からワインを売りに来ていた商人と途中の町で偶然に遭うことができたのです。その時に無理を言って買い取らせていただきました。少しばかり高値での取引となってしまいましたが、それだけの価値はある、とその時に担当した商人は言っていました」

「そうですか」


 ホッと胸を撫で下ろして安心する男性。

 そこへ冷気を伴う殺気が叩き付けられた。


「え、ぇぇ……」


 今までに体感したことがない殺気に男性が口をパクパクと何度も開け閉めする。

 殺気を叩きつけているのはメリッサだ。


「な、何ですか!?」

「21年前にテレエレ村で生産されたワインは非常に貴重です。その希少性から領主が買い取り、新たな王家へと献上されました。全てです」

「……!」


 メリッサの言葉の意味に気付いたのか男性が後退る。

 このワインを本物だと紹介してしまったのは失敗だった。


「ですが、王都へ運ばれている途中で盗賊の被害に遭って積み荷は全て奪われました。もちろん、ワインも全て奪われています」


 被害にあった場所では、商人や護衛の人々が無惨にも捨てられ、襲われた時に壊されてしまったのか馬車の欠片と思しきものが地面に転がっていた。

 だが、商品を積んだ馬車は消えていた。

 そのため盗賊が持ち去ったと思われていた。


「現場を確認した騎士によれば、相手はかなりの人数を抱える盗賊団のようです」


 大規模な盗賊団。

 その言葉から連想されるのは、最近捕らえたばかりの盗賊団。


「普通の盗賊ならば、お酒の価値など分からず、売るにしても重たいので遠慮するでしょう。そのため、自分たちで飲んでしまいます」


 現にメリッサが捕らえた盗賊団は、奪取した酒に手をつけていた。


「このワインを手に入れた盗賊は、ワインの価値が分かる……と言うよりも手に入れた物資の全てをある人物へと渡すよう命令されていた盗賊団だったのでしょう」


 盗賊団も、依頼主であるレジナルド王子との間に何人もの人を挟んでいたため後ろに誰がいるのか知らなかった。

 ただ、報酬を出してくれる人物から厳命されていた。


「何を根拠に……」

「私たちは『貴族から依頼された』と言いました。ですが、『貴族のプレゼントを探している』などとは一言も言っていません」


 俺たちが探していたのは、盗賊団から横流しされたと思しき品物。


「こちらは盗賊団によって盗まれた品物のリストを所有しています」


 運んでいた物が盗まれた、など貴族にとっては恥以外の何物でもない。それが自分の領地で起こったことなら尚更だ。大抵は被害そのものが隠される。

 しかし、レジナルド王子のしていたことを徹底的に調査していたファールシーズ公爵の手元には被害商品のリストがあった。


「詳しい事情を聞かせていただきましょうか」

「くっ……」


 逃げる為に後ろへ飛ぼうとする男性。

 しかし、メリッサからさらに強く睨まれたことによって体が動かなくなる。


「どうし、て……」

「【麻痺(パラライズ)】の魔法を使いました。事情を聞いている間は大人しくしてもらいます」

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