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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第32章 逃亡王族
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第23話 第2王子の行方

 再び広場へと集まる人々。

 周囲にいる人から見られる目立つ場所にトランとトラーダの二人が立っている。

 少し前にも注目を集めていた二人とあって、再び注目を集めるのに時間は掛からなかった。


「先ほどはすまない。この者の母親から事情を聞くことはできた。彼の母親と妹は無実だということが分かった」

「そっか」

「よかった」


 本気で安心する町の人々。

 それだけサティルが町の人から信頼されていた証拠である。


「ただ、彼のしたことは全て真実だ」


 キッとトランのことを鋭く睨む者まで現れる。

 サティルが慕われているため、彼女に泥を塗るような行為をしたトランのことを許せない人物だった。


 反論したいトラン。しかし、絶対服従状態であるため一切の反論が許されていない。


「だが、彼の家族は無実だ。重い罪を犯したからといって家族まで処罰するような真似はしない、と誓おう」


 そうして拘束したトランを引っ張っていく。


「これでいいですね」

「ああ」


 その光景を離れた場所から隠れて見させてもらっていた。

 隣にはサティルもいる。


「約束は果たしました。教えてもらいましょうか」


 彼女からレジナルド王子に関する情報を聞き出す条件は、自分と娘が全く関わりのないことを騎士の口から証明してもらうこと。ただ、口にしただけだが、騎士の言葉にはそれなりの重みがある。

 一度、言葉にしてしまうと撤回が難しくなる。だからこそ、約束としての力がある。


「まず、断っておくけど、私はレジナルド王子の居場所を知っている訳じゃない。私の所へ避難してきたレジナルド王子がどこへ行ったのか知っているだけ」


 それでも、王都を脱出したレジナルド王子が関わった場所へ行くことができる。


「ここは王都に近い訳でもなく、離れている訳でもない。しばらくの間、身を隠すだけなら打って付けの場所だったんだろうけど、それは拒否させてもらった」


 クーデターが本格的に開始された段階でレジナルド王子のことを見限り、カティマを嫁がせることを優先させていた。

 言葉巧みに誘導することで町から自主的に離れさせ、ある場所へ向かうよう仕向けていた。


「ここから西へ行った所に『商業都市プラム』がある。あそこは裏組織の無法地帯と言ってもいいぐらいに無秩序な場所」

「どうして、そんな場所を……」


 『商業都市プラム』の名前なら聞いたことがある。

 一度は行ってみたい場所……ではなく、一度も行きたくない場所として冒険者ギルドで受付をしているルーティさんから教えてもらった。


 西側における物流の重要地点にある町なのだが、大規模に作られた市によって多くの商人が押し寄せ、彼らをターゲットにした悪徳組織。さらには、そういった組織を専門に相手する裏商人がひしめいている。

 そんな場所へ俺たちみたいな若者が行けば、あっという間に身包みを剥がされてしまうらしい。戦闘力で対抗することはできるが、騙されておかしなものを背負わされる可能性がある、と注意されていた。

 現状、これ以上の荷物を背負うつもりはないため遠慮させてもらっていた。


「……けっこう大きな都市だって聞いていた。そんな中から一人の人間を捜すのか?」


 さすがに不可能だと思われた。


「安心しな。全部を回る必要はない」


 サティルが懐から封筒を出す。

 封筒の数は三つ。


「レジナルド王子なら自分の息が掛かっている商会へ潜伏するはず。私の知る範囲でだけど、レジナルド王子が把握していた商会への紹介状を用意した」


 封筒の中身は、いつ書いたのか分からない紹介状。


「罠の可能性は--」

「ないよ。罠が露見した時には、今度こそ娘は切り捨てられることになる。今の私にできることは娘が何も知らないまま幸せな人生を手にすることができるようサポートするぐらいだね」

「言わないんですか?」

「世の中には知らない方がいいこともある」


 何も知らなければ無実でいられる可能性がある。

 サティルがしていたことも時間が水のように流してくれるだろう。


「随分と息子とは扱いが違いますね」

「あの子にも期待していた頃があったよ。けど、あの子は私の期待に沿うことができなかった。なによりも……もう、使い物にならないだろう」

「分かっていましたか」


 既に不死者(アンデッド)となった肉体。

 特別な方法でアンデッドとなったおかげで自我がはっきりしているし、太陽の下を歩いても焼かれることがなく、聖水をかけられても皮膚が少し焼ける程度で済ませることができる。

 息子の状態が知らぬ間に取り返しがつかないことになっていることに気付いていた。


「これでも、あの子の母親を何年もしていた。普段と様子が違っていて、何かを我慢しているような様子だったのは間違いない」


 些細な仕草から【絶対命令】によって動きを抑制されていることに気付いた。


 そして、致命的なことにも気付いている。

 心配になったサティルはトランの頬に触れてしまっている。既に死体となっているトランの体は冷たい。服に隠れている部分や手は手袋をさせることで、誤魔化すことができていた。ただ、顔まで隠してしまうのは不自然だったため気付かれてしまった。


「最初は生きているあの子に会えてよかった、と思っていたんだけど既に死んでいたんだね」

「随分とあっさりしているんですね」

「私は貴族になろうと努力し、貴族になることができた女だよ。貴族になった時に覚悟ならできていた。自分の子供であろうと、貴族なら家の為に使い捨てられるようにならないとダメなんだよ」


 家の再興の為には妹さえ無事でいればいい。

 むしろ、その方が確率も高く、あと一歩のところまできていた。


「貴族はそんな覚悟が必要だったんですね」


 覚悟に満ちた表情を見て思わず呆れてしまった。


「なんだい?」

「いいえ、やっぱり俺には貴族なんていう生活はできないなって思っただけです」


 少なくとも家族の誰かの為に他の家族を犠牲にするような真似はできない。


「これと息子さんはありがたくもらっていきます」

「その代わり、もうここへ来るんじゃないよ」

「分かっています。そっちも俺たちのことは他言無用でお願いしますよ」


 娘のことを想っている母親。

 俺たちのことを公表した瞬間に敵に回してしまうことには気付いている。

 そうすれば、待っているのは娘共々の破滅だ。


「貴族っていうのは面倒な身分なんだな」

「いいんじゃない? あんたは、平民でのんびりと暮らしている方が性に合っているわよ」


 建物の陰から出るとアイラが待っていた。

 どうやらサティルとの話を聞かれていたようで微笑みを浮かべており、隣にいるイリスも頷いている。


 微妙に居た堪れない気持ちになりながら町の外へ出ると念話を繋げる。


「全員、屋敷の方はどうだ?」

『ディオンは落ち着いています』

『リエルも、大丈夫かな?』

『アルフは騒いで疲れてしまったのか熱を出してしまっています。それを心配したソフィアが傍を離れようとしないのでソフィアまで体調を崩す可能性があります』


 シルビアは欠席。

 まあ、現状の戦力でも問題ないだろうが、商業都市へ乗り込むならメリッサの力を借りておきたいところだ。


「プラムへ着いたら喚ぶからメリッサはこっちへ合流しろ」

『それは構いませんが、何をするつもりですか?』

「サティルに紹介してもらった商会だけど、どうやら非合法な商売にも手を染めているそうだから、ちょっと調べて問題なさそうだったら――潰そう」

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[一言] 第二王子の逃亡を助けたという証言だけでしょっぴけそう
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