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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第32章 逃亡王族
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第22話 再興を望む女

 広場での騒動は母親であるサティルが屈することで決着した。

 先ほど離れることになったトランの実家へ足を運ぶと今度は渋々ながら入れてくれる。

 騎士の権限ならば既に許可できない状況にあることを分かっている。

 強制的に入られるよりは自分で招いた方がいいと判断して招いてくれた。


「で、何が知りたいんだい?」

「その前に……」


 トラーダさんが話し合いに参加するメンバーを確認する。

 騎士3人と俺とアイラ、イリス。それから当事者であるトランとサティル。トランはできることなら逃げたそうにしていたが、俺が絶対に許さない。妹については関わらせるつもりがないのか家から追い出していた。

 そして、もう一人……


「できれば、私たち以外には誰にも立ち会ってほしくないね」

「そういう訳にはいきませんよ」


 トラーダさんの前に立った男性が立ち会っていた。


「貴女には町を治める者として非常に感謝しています」

「もしかして、領主ですか?」

「領主のハムナトルです。ですが、領主と言っても名ばかりです。これといった特産を生み出すこともできない町を治めるだけで精一杯。出て行く若者を抑えることもできない。新たな特産を生み出す為の試みをしようとしても失敗を恐れ、試みる為の資金を調達することもできない」


 自嘲するように言う。


「そんな町を救ってくれたのがサティルさんです」


 どこかからか資金を調達し、織物に詳しい者を連れて来てくれた。

 技術者を古い知り合いだと紹介し、昔の伝手を頼って大金を提供した。

 町の人間は誰もがサティルに感謝していた。だからこそ、日々困らないだけの援助を受けていた。


「感謝しているのは事実です。ですが、貴女が危険なことをしているというのなら領主として知っておかなければならない。何よりも、息子のことがあります」

「あ、あの子は関係がない!」

「本当に?」

「……っ!」

「この状況で貴女の言葉を信じることができません。だから、もう一度信頼する為にも事情を教えてください」


 俯いて葛藤するサティル。

 やがて、八方塞がりであることに気付いたのか重たい口を開く。


「私がしていたのは、近くにある大きな町での勧誘だよ」


 リゴール教への勧誘。


「そんな大切な役目を貴女に?」

「これでも、人を見る目には自信があるんだ」


 そこから彼女の生い立ちを語ってくれる。


「今はこんな風に平民として生活しているけど、一時期は男爵夫人だった頃があったんだよ」


 平民として生まれたサティル。

 彼女は、幼い頃から貴族としての生活に憧れていた。しかし、貴族ではない自分では夢のまた夢。とても手が届くような生活ではない。

 それでも諦め切れなかったため必死に教養を身に付け、自らの体を磨いて男爵家の使用人として仕えると仕事に邁進しながら男爵を篭絡することに尽力した。

 見事、男爵の心を射止めたサティルは男爵夫人の地位を手に入れた。


 憧れの生活を手に入れたサティル。平民上がり、ということで認めていなかった周囲も男爵夫人として申し分ない働きをしてくれるサティルのことを認めるようになる。やがて、男爵の地位を継ぐ子供――トランも生まれて男爵家は安泰だった。

 だが、その生活も終わりが唐突に訪れてしまった。


「私たちは何も悪くない!」


 王城から騎士が詰め掛けて男爵を捕らえた。


「罪状は物資の横領」


 秘密裏に行われていた王国の重要な取引でも物資の横領してしまったことで、国を本気にさせてしまい、騎士による調査が本格的に入った。その結果、事が露見することになってしまった。

 ただ、首謀者として捕縛されることとなった男爵は横領に加担していなかった。


「横領していたのは屋敷で昔から働いていた執事だったんだよ」


 後の調査で分かったこと。

 しかし、執事は事が露見してしまった時の隠れ蓑として男爵を利用するつもりであり、最初に男爵へ疑いがいくように仕向けていた。


 男爵が影武者のようになっている間に執事は逃亡。騎士でも捕らえることができなくなっていた。

 つまり、真犯人を捕らえることができなくなってしまった。

 その事に調査を主動していた侯爵が非常に怒った。


「事が露見することになった取引は、侯爵が国から賜った仕事だったんだよ。その最中に不正を働かれた侯爵は恥を掻かされた。絶対に責任を取らせるつもりでいた」


 犯人が捕まらないなど許されない。

 だから、責任を取る人物が必要だった。


「後は、分かるね」


 無実だった男爵は処分されることとなった。

 男爵は必死に無実を訴えた。しかし、相手は侯爵。どれだけ無実を訴えたところで受け入れられることはなく、逆に監督不行き届きの責任を追及されて反論を許されなくなってしまった。


「旦那様は解放されたものの男爵家は取り潰し。男爵の地位を失ったけど、旦那様を見捨てることができなくて5歳になったばかりのトランと身籠っていた娘と一緒に4人であちこちを旅することになったんだよ」


 その後、定住できる場所を求めて誰も知らない場所を転々としながら娘を産んだ。生活はとにかく大変だったらしい。なにせ、解放される条件の一つに貴族であることを口外しないことがあった。自分が元貴族であることを言えず、肉体を酷使する仕事に従事した。


「今、口にしてもいいんですか?」

「いいんだよ。その侯爵家もクーデターのおかげで取り潰されている。私が貴族だったことを言ったら侯爵家の連中が許さないだろうけど、今の奴らに私をどうこうする力はない」


 魔法的な制約を交わした訳でもなかったので問題なかった。


「それに、それからが最も大変だったからね」


 娘が生まれたことで気合を入れ過ぎてしまったのか危険な仕事を引き受けてしまい、その先で命を落とすことになってしまった。

 父親が亡くなった後、サティルは一人で子供を育てることとなった。

 だが、女が一人で二人の子供を育てるのは凄く大変。


「そんな時に私のことをどこかで知ったレジナルド王子が接触してきたんだよ」


 報酬を渡す代わりに燻ぶっている若者を集めてほしい。

 詐欺のようにして騙して勧誘し、時には相手から金銭や貴重な情報を要求しなければならない場合もあって犯罪だという意識はあった。

 それでも、報酬を前にすると動かざるを得なかった。


「幸いにして男爵を篭絡した力があった。貴族のお坊ちゃんたちを篭絡して仲間に引き入れ、情報を仕入れるのは簡単だった」


 何よりも金銭と同時に提示された報酬は喉から手が出るほど欲しいものだった。


「取り潰された男爵家の再興。旦那様は既にいないけど、トランやカティマがいるから男爵家を継げる人間はいた」


 ただし、トランは貴族に向いた性格をしていなかった。

 早々にトランのことを切り捨てるとカティマを貴族に仕立てる為の道具とするため色々と動いた。


「なっ……母さんにとって俺は道具だったのかよ」

「そうだよ。少なくとも、お前には貴族だった頃の記憶があるのにそれらしい振る舞いがまるでできていない。幼い頃の逃亡生活の辛い記憶が貴族だった頃の記憶に封印をしている。むしろ、その頃は生まれていなかったカティマの方が優秀だったぐらいだよ」


 実の母親から衝撃の真実を聞かされて打ちのめされている。

 息子の様子を気にした様子もなくサティルが続ける。


「ただし、レジナルド王子は失敗した」


 侯爵のクーデターによって男爵家の再興は空手形となってしまった。

 それでも、望みが全て絶たれた訳ではなかった。


「私は、この事態を全く予想していなかった訳じゃない」


 約束が空手形に終わってしまう可能性は最初からあった。

 だから、レジナルド王子を通して築いた人脈からグレーテの町に産業を興せる人材を呼び、今後の拠点の一つにするという名目で資金を出させた。


「まさか、あの資金は……」

「そうだよ。レジナルド王子が他の貴族を騙して出させた金だよ」


 資金の出処を聞いてハムナトルが頭を悩ませていた。

 既に使ってしまったので返すこともできないため途方に暮れている。


「私に感謝した貴方は娘のことも気に入ってくれて跡取りの息子と会わせてくれた。おかげで娘が男爵夫人の座を手に入れられそうなところまできた。私は、男爵夫人の母で満足することにするよ」


 娘のカティマは、領主の息子と付き合っていた。

 このまま付き合いが続いていけば近いうちに結婚できる状況になっていたため彼のショックは大きい。


「それで、レジナルド王子の居場所は知っているのか?」


 かなり話が脱線しているようなので戻す。

 俺が知りたいのは最初からレジナルド王子の居場所だ。サティルの身の上話などどうでもいい。


「残念だけど、居場所までは知らないよ」

「おい……」

「だけど、匿っている可能性のある人間なら知っている。そいつを教えることにしようじゃない」


 先ほど、グレーテの町を『今後の拠点』にすると言っていた。

 その言葉を信じていたレジナルド王子は、王都を脱出した後でこの町にいるサティルを訪れた。町の人たちも、こんな町に王子がいるとは思っていなかったから気に留めていなかった。


「……条件は何だ?」

「分かっているようでうれしいよ」


 貴族の血を引く自分の子供を貴族に成り上がらせる為に色々と画策し、多くの人を篭絡してきた彼女が何の対価もなしに貴重な情報を売り渡すはずがない。

 しかも、こちらの足元を見た条件を提示するつもりだ。


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