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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第32章 逃亡王族
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第21話 騎士の権限

「お母さん、大変!?」


 昼間に突然息子が帰ってきた家。

 だが、騎士が一緒にいたことから追い出した。彼女たちには……彼女には少々やましいところがあった。騙されて、いいように使われていただけだったが、もはや後には引くことができない。


 娘が夕食の為に買い物へ出掛けると野菜の詰まった篭を手にしながら帰ってきた。


「どうしたんだい?」

「お、お兄ちゃんが……」

「トランがどうかしたのかい?」


 家を出て行った息子は彼女にとって本当に都合のいい存在だった。

 才能もないにも関わらず、大きな夢を見て追い掛けて行ってしまった。

 その光景を今でも思い出すことができ、いったい誰に似たのか……と考えると自分も若い頃に同じような無茶をしていたことを思い出してしまう。間違いなく母親である彼女に似てしまった。


「とにかく大変なの……!」

「もう、あの子のことは気にしない方がいいわよ」


 若い人材を求めていたリゴール教。

 飛び出した息子の所在が分かっていたため、こっそり教えると勧誘するよう誘導した。才能はなかった息子だったが、それは自分で物事を考えて行動する意思の力が非常に弱かったから。戦う力も、緻密な計画を立てることもできる。けど、明確な目標を立てることができないからフラフラしてしまう。


 リゴール教のトップにいる者たちが指示を出せば結果を出してくれる。

 その目論見は正しく、リゴール教に加わってから短い期間で重要な作戦に参加させられることとなった。生きて帰ってこられないかもしれない。しかし、作戦の内容を聞ける地位にいた彼女は失敗するとは微塵も思っておらず、リゴール教の存在が露見するとは思っていなかった。


 残念ながらリゴール教の存在は危険視され、続けて行われた作戦も悉くが失敗してしまった。


 次は自分の番。

 騎士の姿を見た母親は焦燥に駆られた。

 だが、この町での生活もある。何も知らない娘を連れて行くのは難しい。それでも、すぐに逃げなければ自分たちの自由が喪われることになる。


「私、お兄ちゃんがあんなことをしていたなんて知らなかったよ」

「え……」

「なんなの、リゴール教って!」

「……!!」


 その言葉を聞いた瞬間、母親が膝から崩れ落ちそうになる。

 何も知らせていなかった娘。自分が間違ったことをしている自覚はあった。けれども、失ってしまったものを取り戻す為には危険を冒す必要があった。


 何も知らず、関わっていなければ平穏な生活が送れる。

 ――その願いは無惨に砕かれた。



 ☆ ☆ ☆



 町の中心にある広場。

 どこから見ても目立つ場所でトランが縄で縛られて拘束されており、隣では老齢の騎士が声を張り上げている。


「この者は、リゴール教という過激組織に加担し、恐ろしい所業を行った。特別なキマイラという強力な魔物を喚び出し、突如として強力な魔物が出現したことで怯えた魔物たちが森から出て平穏な生活を送っていた村人を襲う、という実態へと発展した。その時、100人以上の人が犠牲となっている」


 そこから、リゴール教がこの1年の間で行った『島』での出来事と王都に齎した甚大な被害を教える。

 王都の惨状はグレーテの町にも伝わっているのか騒然としていた。


 これが見ず知らずのリゴール教の人間が行ったことなら衝撃を受けるようなことはなかったが、幼い頃を知っているトランがしたとあって衝撃は計り知れない。


 この説明は既に3度目だ。

 初めは聞き流していた人たちも2度目には足を止めるようになり、3度目にしてトランが何をしたのかようやく理解してくれた。


「騎士様」


 言い終えたところで一人の男性が出てくる。

 町の人たちからそれなりに信頼されている。


「なんだ?」

「貴方の言ったことを本当にトランがやったのですか?」

「間違いない。こいつは危険な魔物が召喚された場所におり、召還に携わっていた痕跡も見つけている。それに本人から証言も得ている」

「本当、なのか……?」


 拘束されたトランへと男性が目を向ける。

 今までに向けられたことのない視線。借金をしてしまった時に取り立て屋から向けられた時に感じた恐怖とも違う。凶悪な魔物と遭遇してしまった時に感じた命の危機とも違う。


 蔑んだ目。

 しかも、知り合いから向けられている。

 それらの事実がトランの中で押し合っている。


「あ、ああ……」


 恐怖に怯えながらトランが肯定する。


「……随分と怯えていたようですが?」


 トランには肯定する以外の選択肢が与えられていなかった。

 その影響で言葉を詰まらせてしまったため不信感を与えてしまったようだ。


「脅迫とかしていないですよね」


 自供するよう脅迫する。

 騎士の力の前では一般人は屈するしかない。


「問題ない。そのようなことは一切していない、と騎士トラーダの名に誓って宣言しよう」


 名に懸けて誓う。

 騎士は、王から自分の名を呼ばれて任命される。中には自分の名前に誇りを持っている人もおり、老齢の騎士――トラーダも国への忠誠心と共に自分の名に誇りを持っている。


「とにかく彼が危険な組織に加担していたのは事実。私は、騎士としてそのような組織を放置する訳にはいかない。この町はトランの故郷。もしかしたら、手掛かりがあるかもしれない。皆さんには些細なことでもいいので気になったことがあるのなら教えてほしいのです」


 目撃情報の収集。

 それが次にするべき行動だ。


「「「……」」」


 広場が静まり返る。

 ようやく待ちに待った人が来たようだ。


「あんたたち……!」


 現れたのはトランの母親。

 後ろから妹もついて来ているが、今のところは必要ない。


「こんなことをしてどうしてくれるんだい!」

「何か問題でも?」

「大有りだよ。息子や兄が危険な組織に加担していた、なんて知られたら私たち家族にだって迷惑が--」

「――かからないだろう」

「え……」

「貴女は言いましたね。『何年も前に家を出て行った息子』だから『自分や娘とは関わりがない』。ここで、こうしてトランの罪状を述べたところで貴女には関わりのない話のはずだ」

「それは……」


 トラーダに威圧されて母親が後退る。

 それでも、このまま引く訳にはいかない。


「証拠もなし――」

「証拠ならある」


 キマイラを召喚する為に用いた魔法陣については専門家の手によって既に解析が終了されており、トランの魔力も含まれていることが判明している。

 それに、捕まえた当初に身元が分かっていたため調査が行われてリゴール教と接触していた痕跡を見つけている。


 さらに本人からの証言もある。これは、後々に無理矢理言わせていた痕跡でも見つけられると厄介なことになるため『真実のみを話す』よう命令している。騎士たちにも『真実に基づいて』尋問するよう伝えてある。

 全て真実であるため肯定するしかなかった。


「こんなことをして許されると思っているのかい!?」

「もちろんです」

「は?」

「騎士には目撃情報を募る権限が与えられています」


 それは法律によって定められた権利だった。

 個人の判断で手掛かりを提示し、情報を募ることができる。ただし、事実に基づかない手掛かりを提示してはならない。逆に言えば、個人の裁量で事実に基づいてさえいれば情報を開示することができる。


「これは法律によって騎士に与えられた権限だ」

「だからって……」

「貴女が言ったことです。『騎士に与えられた権利では、犯罪者の家族だからといって家の中を確認することができない』。なので、認められている範囲で行動させてもらいました」


 何も違法なことはしていない。

 こんな目立つ方法で情報を募れば家族にまで非難の目が向けられることは最初から分かっていた。


「だからこそ、内々に済ませることができる段階で自主的に協力してほしかった」

「そんな、つもりじゃ……」


 顔色を悪くしながら母親が後退る。


「あの……」


 その姿を敗北と見えてしまったのか一人の若い女性が手を挙げる。


「サティルさんが町の奥の方にある人目につかない場所で怪しい人たちと会話しているのを見たことがあります」

「ちょっと、何言っているんだい!」

「で、でも……騎士様に逆らう訳にはいかないし……いくら大恩あるサティルさんでも……」

「どういう訳なのか詳しく聞かせてもらいましょうか」


 証拠はない。

 でも、手掛かりは得られた。

 騎士に与えられた権限によって、これだけあれば拒んでいた家の捜索も行うことができる。

 やっぱり、騎士を連れてきて正解だったみたいだ。

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