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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第32章 逃亡王族
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第16話 王となるための条件

 目の前に重厚な扉がある。


「着きましたよ」

「まさか、ここが最下層なのか?」


 公爵が最下層へ着いたと知って戸惑う。

 普段着のような格好で薄暗い洞窟の中を数時間ばかり歩かされたと思えば、いつの間にか目的地へ辿り着いていた。

 移動速度を上昇させる魔法を少しばかり使って時間を短縮させている。ただし、それ以上に早く着いたと感じてしまう原因は、迷宮であるにもかかわらず魔物の襲撃がなく、罠の類も何一つなかったからだ。本当に洞窟の中を歩かされただけだ。


「こ、攻略がこんなに簡単なら騎士が帰還できているはず! それどころか、攻略ができていてもおかしくない!」


 それは間違いではない。

 騎士どころか子供でも攻略ができるほど簡単だ。


「それは、管理している者が妨害を無意味だと判断したからですよ」

「無意味……?」

「魔物に襲わせたところで全て倒される、罠を設置したとしても悉く破壊されてしまう」


 全ての妨害が意味をなさない。

 それでは、魔力を無駄に消費してしまうだけだ。


「だから、目的地まで素通りさせることにしたんでしょう」


 これが俺以外の侵入者なら我武者羅に妨害したかもしれない。

 しかし、俺たちが最下層へ辿り着いたところで何もできない……そういうことになっているため何もしなかった。


「開けますよ」


 重たい扉を開ける。


「おおっ」


 すると、それまでの薄暗い洞窟と違って白い壁に覆われた空間に出る。

 子供には楽しそうに見える空間だったらしく、様変わりした景色に目を輝かせている。


「さて、招待してくれたんですから姿を見せてください」


 最下層の中心にある水晶の置かれた柱へと語り掛ける。

 あの水晶が、王都の迷宮を管轄している迷宮核(ダンジョンコア)だ。そして、ウチの迷宮と同じように人格が宿っている。ただし、違いを挙げるとするなら俺たちの前にも生前の姿を模写した幻影を出してくれること。


『久し振りですね。3年、でしょうか?』

「それぐらいです」


 現れたのは、栗色の髪をツインテールにした白い小袖に緋袴を履いた10代後半ぐらいの少女。


『まずは、お礼を言わせてください。私が守護するべき王都を救ってくれて感謝しております』

「こっちは大したことをしていませんよ」

『それでも、貴方たちがいなければ被害はもっと大きくなっていました』


 頭を下げる迷宮核の少女。

 ファールシーズ公爵は状況について行けず口を開けてポカンとしている。


『そして、彼らをここまで案内してくれたことにも感謝します』

「案内って言っても……」


 隣にいるシルビア、メリッサと顔を見合わせる。二人とも苦笑していた。おそらく、俺も似たような表情をしているのだろう。

 本当に、案内しただけで護衛らしいことはしていない。


『ディルワーン』

「はっ!」


 ディルワーン、というのはファールシーズ公爵の名前だ。


『新たに王となった孫を私にも認めてほしいのですね』

「……そのとおりでございます」


 頭を下げ、膝をつきながら公爵が要求を述べる。

 自然と膝をついていた公爵を真似てカーティス君も跪いている。


『顔を上げなさい。私は、王都を守護するだけの存在。そして、貴方は私の主となるべき者。王が簡単に頭を下げてはなりません』

「も、申し訳ありません!」


 カーティス君が直立不動になって立ち上がる。

 ……ちょっと可哀想だな。


「それぐらいにしてあげてください」


 メリッサが助け舟を出す。


『あら、こんなに可愛い子が新しい主になってくれるのですから少しぐらいは遊んでも--』

「ダメです!」


 注意されて真面目な顔へと変わる。

 孫を支える為に公爵も立ち上が……


『貴方はそのままでいなさい』


 ……としたのだが、断られてしまった。


『貴方がこのような場所まで来た理由は分かっています』

「それは、カーティスのことが心配だったからで……」

『態々、宰相である貴方が? 今は、一度は追い出してしまった者の手を借りなければならないほど追い詰められているのでは?』


 ガエリオさんを頼らなければならないほど忙しい。

 たった半日程度の時間とはいえ、公爵に迷宮へ行っていられるような時間はないはずだ。


「このような王家の秘事に信用の置けない者を関わらせる訳にはいきません。だからこそ、自らついて行く決心をしました」

『嘘はよくありません。私には王都で起こった出来事をある程度なら把握する能力があります。貴方が何を思って、このような場所を訪れたのかは知っているつもりです』


 顔を顰める公爵。

 既に問答が無意味であることを悟った。


『貴方がここへ来た目的は――「なぜ、自分が王に選ばれなかったのか?」それを私に尋ねる為ですね』

「……!! その、とおりです」


 弱々しく肯定する公爵。

 その姿を見て迷宮核の少女が溜息を吐いた。


『今回、貴方を選ばなかった理由も数十年前に兄と競い合っていた頃に貴方を選ばなかった理由は同じです。貴方を選ぶよりも、彼を王に選んだ方がいいと思いました』

「え、老齢だったからでは……?」


 見た目は活気に満ち溢れているのだが、公爵は10歳の孫を持つぐらいには老齢だ。今すぐにどうこうなるほどの年齢ではないが、何十年も公務ができる年齢でないのは間違いない。


『そんなのは些細な事です。国が安定したところで息子や孫に譲ればいいだけのことです』


 その頃にはカーティスも立派に成人している可能性が高い。


「だったら、なぜ--」

『優秀な能力を持つ私でないのか――理由は簡単です。優秀だったからです』

「は、え……?」


 優秀であることを糧にして生きてきた公爵には言葉の意味が分からない。


『貴方には、正しい自分が先頭に立って人々を導けば多くの人がついてくる、そのように考えているところがありました』

「それの何がいけないのですか!? 現に、あの時は多くの者が私の支持者となってくれました。私が王となった暁には家臣として支えてくれる、と言ってくれた。それに今回のクーデターだって多くの者が協力してくれたからこそ成功したのであって……」

『ええ、成功しましたね。様々な思惑を抱えた者に協力してもらって』

「……!」


 クーデターの協力者は、正義感だけで協力してくれた訳ではない。何かしら計画を企てている者、地位の向上を狙っている者、利益を得られる者。本当に王家を放置できない正義感から行動を起こしてくれた者もいる。だが、腹に逸物を抱えている者の方が多い。


『今回のクーデターは昔に比べたらマシになった方です。気付いていないようですから教えてあげますが、王になろうとしていた昔の協力者の中には自分の娘を貴方に嫁がせて孫が生まれた後に暗殺することまで企てていた人物もいますよ』

「……ええ」

『気付いて、放置していましたか』

「彼らの協力がなければ王位を目指すことなど夢のまた夢だった! その程度の企みは、後に私が食い潰せばいいだけの話だ」

『できましたか?』

「それは……」

『できていませんよね』


 迷宮核が言っているのは王都の状況だ。

 元を辿れば、公爵の執政に不満を持った者が行動を起こしたようなものだ。


『貴方には自分の力を過信する傾向があります。個人としての技量は、王位継承者の中では群を抜いていました。ですが、貴方が王となった暁には多くの血が流れていたことでしょう。地上が、この程度の被害で済んでいるのは彼らの協力があったからです』

「そ、んな……では、私の努力は……!」

『王に求められる能力は武力でも知力でもありません。この人について行きたい、と多くの人に思わせる人徳です。先々代の王たちは、弟や伯父の優秀さを知っていたからこそ自分の力不足を補う為に家臣たちと話し合いの場を設けていました。ですが、貴方は協力者と実務的な話をするばかりで信頼を構築することができていませんでした。そのような人を王にするつもりはありません』


 残った王位継承者は少ない。

 その中で真っ先に排除されたのが公爵の子供たちだ。子供たちでは公爵の影響力が強く、たとえ公爵が死んだ後でも彼の影響が強く残る。


 そんな状況で白羽の矢が当たったのはカーティス君だ。幼い孫なら今から正しい教育を施せば正しい王となることができる。この迷宮核、王冠を通してちょくちょく干渉するつもりでいる。


『この者を打ちのめすのはこれぐらいにして報酬を用意しなければなりませんね』

「それなら、もう決めてあります」


 敢えて報酬の話はしていなかった。

 それは、交渉相手が公爵ではなく迷宮核だったからだ。


「今後、俺たちのことを全ての文書に残さず、口伝でも伝えるのを禁止してください」


 また、私的な日記みたいな方法で残されては堪ったものではない。


『それを私と約束する理由は?』

「新たに王となる者は、必ず迷宮主とならなければなりません。その者に絶対に遵守しなければならないルールとして与えてください」


 俺たちを秘密にすることを受け入れられなければ王として認めない。

 王になりたい、と考えている者なら受け入れざるを得ない条件だ。


『いいでしょう。カーティスにも、この条件を与えます』


 これで、態々最下層まで案内した目的は達成された。

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