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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第32章 逃亡王族
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第14話 公爵の葛藤

ちょっとした昔話

 ファールシーズ公爵は、3代前の王の弟として生を受けた。


 王には二人の妻がいた。世継ぎを求められる国王としては正妻以外に側室がいるなど不思議なことではない。

 二人の妻を娶ったのは、ほぼ同時だった。

 側室の女性は身分が低かった。そのため、実家の爵位による順位から王妃と側妃と分けられることになった。ただし、分けられても二人の仲は良好で、王妃の産んだ子が次期国王となる約束が成されていた。


 二人が子を孕んだのも、ほとんど同時だった。

 王妃が先に男の子を産み、1カ月後には弟も生まれた。

 側妃が産んだ子が後のファールシーズ公爵……ではない。

 王妃が産んだ二人目の子供が後のファールシーズ公爵だ。


 その後も子宝に恵まれた国王。最終的に王妃が4人、側妃が3人――7人の子供を持つことになった。

 当初より約束されていたように王妃の産んだ長男が王太子となり、側妃の産んだ次男は武芸方面で才能を発揮することとなったため軍で活躍することとなった。

 4人目と側妃の子である5人目、6人目――長女と次女、それに三女の三人は、それぞれ伯爵家に嫁ぐこととが幼い内に決められた。

 7人目の子供。最後に生まれた四男も婿養子を必要としていた子爵家へ向かうことが早々に決まった。


 問題となったのが三男――ファールシーズ公爵の扱いだった。

 ファールシーズ公爵は、文武共に優れた人で、1年先に生まれた兄よりも優秀であったため、家臣の中には「弟君こそ次期国王に相応しいのでは?」などと噂する人物がいるほどだった。

 その噂は決して間違ったものではなかった。


 母親たちの取り決めによって長男と次男の間で問題は起きなかった。そのことを次男も受け入れていた。

 ただし、三男は納得していなかった。


「何故、兄上が王太子なのですか!?」

「あの子が『兄』だからです」


 王妃に直訴する三男。

 弟は、自分こそが王の相応しい、と示す為に努力し、努力に見合うだけの実力を身に付けた。


 だが、どれだけ努力したところで『王』として認められることはなかった。

 それは、二人の母親の間で密約があったからだ。


「古来より後継者問題が発生すると必ず国が荒れます。ですが、後継者は必ず必要です。王の子を産む女性が一人では子ができなかったり、生まれてきた子が何かしらの問題を抱えていたりした場合には問題となります」


 だからこそ王妃も側妃のことを認めていた。

 何よりも二人は社交界で何度も顔を合わせた友達であり、王太子の寵愛を受けるべく競い合った強敵(ライバル)であった。ライバルであったが、どうすれば王太子に接近することができるのか仲良く相談し合った思い出の方が強い。

 共に迫った効果があったのか一緒に受け入れてもらえることになった。


 そして、結婚した時に後継者問題で揉めないよう約束がなされた。

 実際、子供が生まれた後も王妃と側妃の間で後継者問題が起こることはなかった。

 ところが、王妃の産んだ二人の子供の間で後継者問題が起こってしまった。

 これでは本末転倒だ。


 王妃は自分の失態を恥じた。

 能力や人柄を見るなら三男が王として最も相応しい。

 しかし、長男も王としての能力が不足している訳ではない。


 三男が負けているのは、生まれた順番のみ。二人の間にある『1年』という時間の壁が重く立ちはだかっていた。


「僕の方こそ『王』に相応しい、と母上も理解しているはずです。それでも、兄上を推す理由を教えてください」


 王は、どちらを王太子にするべきか迷っていた。

 それでも長男を王太子に任命したのは王妃の後押しがあったからだ。


「決まっています。あの子が嫡男だからです」

「なっ……!?」

「古来より嫡男が相続をするべきです。その嫡男がよほどの問題を抱えているようならば止むを得ないですが、私には問題があるようには思えません」

「そんな理由で……」


 拳を握りしめる三男。

 どれだけ努力したところで埋めることのできない問題だ。


「どうしても諦められませんか?」

「当然です!」

「では、あの子が『王』として問題があった場合には、貴方を『王』に推薦することを約束しましょう」


 王妃の提示した条件。

 それは、代々の国王が引き継いできた王冠。それに長男が拒絶された場合には、次の王太子に指名されるというものだった。

 結局、彼は長男のスペアに過ぎなかった。


 そして、王太子になる為の儀式を問題なく進めた長男は王冠からも王太子として認められてしまった。


 もう、彼がどれだけ努力したところで報われることはない。

 その姿を不憫に思った国王は、新たな公爵家を興すことを許し、自らに許された範囲で権限を与えることにした。


 三男も新興の公爵として国に全力で尽くした。


 ――思えば、あの頃が最も充実していた。


 不満を持っていたものの、やりがいのある仕事だった。

 十年もする頃には、王となった長男にも子供が生まれて国は安定することとなった。


 ただ、全く問題がなかった訳ではない。

 王としての能力に問題がなかった先々代の王だったが、プライベート……特に子供には甘い人だった。息子が王子でありながら色々な問題を起こしていたが、王の権力を用いて揉み消すようになった。家臣には厳しい王としての姿からは考えられない光景だった。


 そして、その甘さは王位を継いだ先王も同様だった。

 裏側でとても許容のできない問題を起こしていたので揉み消しに走ることとなった。表面的に酷かったのが第3王子のペッシュ。だが、もっと隠れたところで酷いことを行い続けていたのが第2王子だった。

 そのことに気付いた時には遅かった。


 ファールシーズ公爵にも甘いところはあった。

 王子たちは、自らの甥の子供。孫みたいな存在だった。

 身内にも等しい存在だったが故に見て見ぬふりをしていた。


 それに血縁関係があるとはいえ、既に遠縁となっている。王子たちの教育は王が行うべき。それに教育するべき者は王城にしっかりといる。


 ……その甘さが仇となってラグウェイ家を始めとする多くの者が苦しむこととなり、多くの恨みを買っていた第3王子は死した後も安寧が訪れることのない時を過ごすこととなった。


 もう間違わない。

 見過ごすことができなくなったファールシーズ公爵は立ち上がった。その結果、人々からどのように蔑まれようとも王となるべきだった自分が責務を果たす必要がある。


 しかし、残念ながら彼が『新たな王』に選ばれることはなかった。

 それどころか、『新たな王』に選ばれたのは、まだ10歳の孫だった。

 王になるべき教育を受けた訳でもない孫が、王の重責に耐えられるはずがない。


「大丈夫、だよ」


 だが、王に選ばれた孫は祖父を気遣って精一杯の笑みを浮かべながら国王になることを受け入れた。


 何がいけなかったのか。

 そもそも、王になる為の条件――何を以て王冠が王を選んでいるのか。

 執務の間で得られた僅かな時間を利用してファールシーズ公爵は条件を探し、見つけることに成功した。



 ――私と孫を王都の地下にある迷宮の最下層まで案内してほしい。



 それがファールシーズ公爵からの依頼だった。

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