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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第32章 逃亡王族
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第11話 魔物の引く馬車

 平原に多くの盗賊が転がっている。

 騎士が対処した盗賊は生きている者半分、亡くなっている者半分といったところだ。

 まあ、騎士も自分たちの身を優先させるなら盗賊の安否に構っていられるほどの余裕はなかっただろう。


「ク、クソッ……そこにいる、化け物さえ、いなければ俺ぐらいなら……!」


 胸を斬られた盗賊団の団長が倒れたまま呟く。

 その目は俺へと向けられていた。


「たしかに君がいなければ危なかった。礼を言わせてもらう」


 騎士が頭を下げる。


「気にしないでください。それに、皆さん無傷なんですから一人ぐらいは犠牲者が出ていたかもしれませんけど、騎士だけで対処できたかもしれませんよ」

「それはないな」


 隊長の目が離れた場所に転がる盗賊へと向けられる。


「あれだけの数に襲い掛かられれば無事では済まなかった」

「俺がやりたくてやったことですし、冒険者として依頼を当たり前のように処理しただけです」

「そうか。なら、どれだけ儲かったのかは聞かなかったことにしよう」


 気付いていたか。

 盗賊なんていうのは俺たちにとって臨時収入でしかない。


「問題は、こいつらをどうするのかだな?」


 100人以上の拘束された盗賊。

 この場に放置したとしても街道付近の治安を乱した、としてシーリング男爵から抗議が出てくるだけ。とはいえ、この盗賊団を放置どころか協力関係にあったのはシーリング男爵の方。生き残りが多少でもいれば脅す材料にはなる。

 だけど、そんな勿体ないことはしない。


「普通に盗賊を討伐しただけならあとをついてこさせることもできるんだが……」

「さすがに、この人数では限界がありますよね」


 檻のある馬車でもあればいいが、人数が人数なので10台以上が必要になる。

 今回の旅では、アリスター伯爵とガエリオさんが乗る馬車。世話をする為の侍従が乗る馬車。国への献上品というお土産を積んでいる馬車の三台。

 とてもではないが、盗賊をどうにかしている余裕はない。


「もう、今さらだな」

「なに……?」

「これから見せる光景を黙っていて頂けるなら協力しますよ」

「……」


 判断に困る隊長がアリスター伯爵を見る。

 会話の内容は聞こえていない。それでも、俺が何かしら要求をして困っていることは伝わったのか、頷いてくれた。


 では、見せてあげることにしよう。

 道具箱(アイテムボックス)を発動させたことで周囲に馬車が20台現れる。

 いきなり現れた馬車に驚く騎士や盗賊たちだったが、現れたのが普通の馬車。それも馬がないため荷車だけだと知って安心している。


「君たちが物を出し入れすることができるスキルを持っていることは知っている」


 騎士ならアリスターの情報にも詳しくてもならない。

 そして、冒険者は警戒するべき対象の一つであり、その中でも異彩を放っている俺たちパーティは要注意人物だ。


「だが、荷車があったところで意味はない」


 荷車は捕らえた盗賊を閉じ込めておけるようになっている。

 しかし、そんな物があったところで荷車を引いてくれる馬がいなければ意味がない。


「大丈夫ですよ」


 さすがに二つの魔法を同時に発動させることはできない。

 そのため、荷車を出してから【召喚(サモン)】で馬を喚び出す。もっとも、俺が喚び出すことができるのは普通の馬ではなく、迷宮にいる馬型の魔物。


 鱗馬(スケイルホース)。大きさや姿は普通の馬とほとんど変わらないのだが、全身を緑色の鱗で覆われている。そのため防御力が高く、討伐する必要があるなら冒険者で言えばBランク以上の力が必要となる。ただし、気性が穏やかで人を襲うことがないため魔物のランクはCにされている。

 人を襲うことがないとはいえ、魔物が荷車の数だけ現れた。


「ひぃ……!!」


 盗賊には恐ろしい光景に見えたらしく、意識があった盗賊は身を寄せ合って励ましあっていた。


「馬車はこいつらに引かせます」

「それは、いいが……御者は?」


 騎士が御者を務める訳にはいかない。そもそも、騎士の数以上の馬車がある。


「そっちも問題ありません。こいつらは俺の命令を聞くようになっています。あとは彼らに任せれば目的地まで引いていってくれますよ」


 王都の場所までは分からない。

 ただし、俺たちのあとについてくるように命令すれば勝手に馬車を引いてくれるようになっている。

 町まで連れて行けば盗賊たちを引き取ってくれるはず。


 10人ずつ拘束されたままの盗賊をポンポンと放り込んでいく。かなり雑な扱いをしているが、盗賊の扱いなど所詮はこの程度だ。


「じゃあ、行きますか」


 全員を乗せると馬車に出発するよう促す。


「……まだ、残っているが?」


 騎士が見ている先では数十人の盗賊が地面に転がっていた。

 彼らは全員が息絶えている。


「そっちは俺が処分しておくんで先へ行ってください。すぐに合流します」

「……分かった」


 騎士に護衛されながら馬車が進む。

 イリス、シルビア、アイラが傍にいるから安全面でも問題ないだろう。


「さて――」


 魔法を行使して大きな穴を作ると盗賊の死体を入れ、火で燃やす。人を殺すことに対して忌避感を抱いていない盗賊が無惨に亡くなってしまった場合、アンデッドになってしまうことが多いため、土葬では不足していることがある。



 ☆ ☆ ☆



 火葬と穴埋めを終えた後で先行した馬車に合流する。

 捕らえた盗賊たちを乗せた馬車もきちんとついて来ている。


「おらぁ! 出しやがれ!」

「ぶっつぶしてやる!」

「戦いやがれ!」


 馬車の中から煩い怒号が聞こえてくる。


「煩い連中だな。黙らせた方がいいんじゃないか?」

「貴重な生きた証人です。きちんと真っ当な場所へ連れて行った方がいいですよ」


 そうでなければ懸賞金も手に入らない。

 いらつく騎士をどうにか宥めている。


「ふんっ」


 煩くしている部下の中にいて団長だけは落ち着いている。

 あれは、諦めているという訳ではなさそうだ。

 騎士隊の隊長と一騎討ちをした団長を乗せた馬車と並んで歩く。


「あんたは暴れないんだな」

「暴れたところでどうにかなるのか?」

「ならないな」

「なら、騒ぐだけ無駄だ」


 不貞腐れて眠ってしまった。


「ああ、もしかして……仲間に期待しているのか?」

「……おまえ!」


 横になった団長が体を起こす。

 仲間、と言っても部下のことではなく、同じ契約を交わした他の盗賊団のことだ。


「俺が仲間について知っているのが気になるのか」

「あ、ああ」

「もう少し走っていれば分かるさ」


 馬車は北へ向けて走っている。

 すると、街道の近くで停まっている馬車が何台もあることに気付いた。


「まさか……」


 馬車の中からは怒号が聞こえてくる。

 そして、馬車を引いている馬は緑色の鱗に全身が覆われている。


「他の盗賊団については事前に捕縛済みだ」


 今回、襲ってきたのは対処が間に合わなかった盗賊団のみだ。

 団長が期待していた他の盗賊団については襲撃が行われるよりも早く、シルビアたち4人に頼んで排除してもらっている。


「な、んで……」

「お前ら、シーリング男爵の部下から情報を貰っていたな」


 昨夜の内に屋敷を慌てて出て行くシーリング男爵の部下。

 その後をこっそりとシルビアたちがつけさせてもらっていたので彼らが接触した盗賊団の所在については全て判明している。

 俺たちを完全に排除する為に全ての戦力を出したのが裏目に出た。


「こうなったら……」

「どうする?」

「俺たちが溜め込んだ財宝を分けてやる。それで、オレだけでも見逃せ」

「だ、団長……!?」


 見苦しいことに部下の目があるにもかかわらず命乞いを始めてしまった。

 だが、そんな交渉に意味などない。


「お前たちの財宝は盗賊団を討伐した俺たちの物だ。その交渉には何の意味もない。お前たちに選択肢があるとしたら『さっさと必要としている情報を吐いて楽になる』、もしくは『死よりも恐ろしい苦痛に耐え続ける』どちらかだけだ」

「いいや、まだだ!」


 この期に及んで団長は諦めていなかった。

 理由は、大方の予想をすることができる。


「だったら好きにしろ。俺は財宝の所有権を持っているだけで、拷問する権利までは持ち合わせていない」


 治安関連の問題は、本来なら騎士や貴族が対処するべき問題。判断は彼らが下すべきだ。


「それに――生きた犯罪奴隷を400人以上も手に入れることができた。こんな数の戦闘奴隷を売り飛ばせばどれだけの金になるのか。今から楽しみだよ」

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