第10話 騎士VS盗賊集団
騎士へ二人の盗賊が同時に襲い掛かる。
一人をいなすと、もう一人を剣で斬り捨てる。
そこへ先に襲い掛かった二人の陰から一人の盗賊が襲い掛かる。
死角を突いた攻撃。しかし、騎士は気配を読んでいたらしく、剣で盗賊の顔を殴って昏倒させる。
盗賊を簡単にあしらうことができている。
騎士と盗賊の間には圧倒的な実力の差がある。
騎士の数は10人。盗賊の数は100人。
多勢に無勢ではあるものの騎士が一人あたり十人を倒せばいいだけの話。
実力を考えれば数人を相手にする程度なら問題ない。
「行け――!」
ドッ! と10人の盗賊が一人の騎士へ一斉に襲い掛かる。
戦いは、1対10ではない――10対100だ。
騎士の一人を優先して排除する作戦を盗賊団の団長は決めたみたいだ。
「くっ……」
襲われる騎士が歯噛みしながら剣を握る力を強める。
さすがに10人を同時に相手するのは難しい。
「少し助けるか」
同時に襲い掛かる盗賊へ狙いを定める。
「「「がぁ!?」」」
3人の盗賊が同時に倒れる。
【風属性魔法】で作り出した電撃球を浴びせて麻痺してもらった。
その姿を同時に襲い掛かろうとしていた盗賊が見てしまう。
その隙を狙って騎士が残った7人を順に倒していく。盗賊が平常心を取り戻したのは残りが3人になった頃。手に持っていた剣やナイフを構えているものの3人では心許ない。
「何をやっていやがる! 数はこっちの方が圧倒的に多いんだぞ!」
次々に倒されていく盗賊の姿に団長が吼える。
「そうなんだよな」
盗賊は生け捕りにした方がいい。
仲間の所在を吐かせる為には生きている必要があるし、生きている方が犯罪奴隷として労働力を得ることができる。
しかし、自分たちが傷付く訳にはいかない。
騎士たちの本来の任務はアリスター伯爵の護衛だ。
「少し数を減らしてくれないか?」
後方で待機しているとアリスター伯爵から声を掛けられた。
騎士たちが盗賊の討伐に力を尽くすことができるのも護衛対象であるアリスター伯爵を俺が護衛しているからだ。
「いいんですか?」
アリスター伯爵とガエリオさん、それに世話役の侍従が取り残されることになる。御者を務めている人なんて、盗賊のあまりの多さに体を震わせて小さくしている。
「こんな所で貴重な騎士を失う方が痛手だ。それに、あの程度の敵なら問題になどならないのだろう」
そう言いながら既に討伐した二組の盗賊団へと向けられる。
落馬した盗賊と魔法と剣によって動きを封じられ足を斬られた盗賊たちは、討伐をお願いしたシルビアたちの手によって拘束させられていた。一応、可能な限りは生かすように伝えている。
「……ん?」
落馬した盗賊のいる方。
ほとんどの盗賊が拘束されているのだが、拘束する作業をしているのはシルビアだけだ。あっちの方角にいる盗賊への対処はシルビアとノエルに頼んでいたはず。
落馬することになった原因は、地面が急に揺れたことで驚いた馬が暴れてしまったことだ。ノエルの【災害操作】なら地面を少しばかり揺らすことなど簡単だ。
「どこに行ったんだ?」
スキルを使ったのだから近くにいるのは間違いない。
何か予期しないトラブルでもあったのかと姿を探してみれば……
『ノエルなら屋敷にいるよ』
迷宮核が教えてくれる。
「……たしかに大問題だ」
リエルが泣いている。
どうやら、お昼寝から起きてみると母親がいないことに気付いて寂しさから泣いてしまったようだ。今はノエルが抱いて全力であやしている。
作戦中に離れてしまったことに文句を言えない。
以前、シエラが生まれたばかりの頃にはアイラへ『子供を優先するなら冒険について来てもいい』と伝えている。
それは、全員に適用される。
幸いにして盗賊の拘束はシルビア一人で事足りる。
ただ、新たに問題が発生してしまった。
「……私も離脱します」
「いいわよ。こっちは倒れた連中を拘束するだけの簡単な仕事だから」
メリッサが倉庫の方へと姿を消す。
数秒後には、魔法で体を清潔にし、服まで着替えたメリッサがディオンを抱いていた。
リエルと一緒に寝ていたディオン。起きた直後に母親が傍にいなくても平気だったが、妹が抱かれている姿を近くで見ていると思わずメリッサのことが恋しくなってしまったのが泣き出しそうになっていた。
アイラの仕事が増える形になってしまったが、文句一つ言わずに拘束作業を進めている。少し前は、自分が手伝ってもらっている側だったので協力することに対して不満はないようだ。
……まあ、さっさと終わらせた方がいいのは確かだ。
「すぐに終わるので待っていてください」
馬車の傍から駆け出すと5人で組んでいた盗賊の背後へと忍び寄り、両手で頭を掴む。
前へ走っていた盗賊は、いきなり頭部を掴まれたことで足を止めて振り返ろうとする。
けれども、遅い。
振り向き、背後に敵がいることを認識してナイフを突き出してくるが、その頃には魔法が浸透してしまっている。
「【睡眠】」
意識を失った盗賊が地面に倒れる。
気絶した、というよりも眠ってしまっただけだ。
相手に触れて魔法を使用することで眠らせることが可能な【迷宮魔法:睡眠】。
仲間が二人倒れてしまったことに気付いた盗賊たち3人。けど、騎士はもう目の前に迫っていた。そのまま襲い掛かるしかない。騎士なら3人程度に対処するのは難しくない。
騎士も助けられたことに気付いて、礼を言っている。
残りは彼に譲ることにしよう。
「さて――」
戦場を見渡す。
危なそうな騎士を見つけては盗賊の数を少しだけ減らして騎士が活躍できるようにする。
イリスも馬車の傍で待機したまま冷気で盗賊の動きを鈍らせて援護している。
「な、何だっていうんだ……!」
盗賊団の団長が次々と部下が減っていく光景に戦慄している。
騎士は未だに誰も被害者が出ていない。
「くそっ……」
目に見えて減り、自分の身も危ういことにようやく気付いた団長が逃げ出す準備を進める。
だが、あまりに遅い。逃げる準備を始めるなら、相手の情報を得た段階でなければ間に合わなかった。
「そこまでだ」
護衛隊の隊長である騎士が団長の前に出る。
まだ、盗賊は残っているが他の騎士が相手をしている。
「オメェら!」
団長が傍に置いていた二人に声を掛ける。
最も信頼している腕の立つ部下、といったところだろう。
二人とも武器を構える姿に隙がない。さすがに隊長でも団長と二人を相手にするのは苦戦させられるだろう。
「さすがにそれは無粋だな」
「なっ……!」
「きさま……!?」
二人の部下の眼前に姿を現す。
止まった瞬間を認識することはできたみたいだけど、移動する動きを追うことはできていないみたいだ。
つまりは、腕の立つ者でもそれが限界。
二人の首を掴むと、その場を離脱しながら魔法を行使する。俺の魔法に耐えられるほどの力を持っていなかったらしく、安全な場所まで移動した頃にはぐっすりと眠っていた。
「……」
「……」
隊長と団長が黙ったまま俺の姿が消えた方向を見つめている。
「で、では私たちの一騎打ちで決着をつけることにしよう!」
「チッ、どうやらそうするしかないみたいだな」
最後はきっちりと騎士が活躍できるようにさせてもらった。