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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第6章 没落貴族
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第4話 街道での護衛

シルビア視点です

 王都までの護衛依頼。


 王都への観光も兼ねて受けた依頼でしたが、ちょっと困った事態になりました。

 護衛依頼をわたしは受けたことがなく、アイラもソロで活動していて他の冒険者パーティに混ぜてもらって依頼を受けるということもしたことがなかったので用心棒のような経験はあってもパーティでの護衛依頼の経験はありませんでした。

 わたしたちのパーティで唯一、護衛依頼を受けたことのあるご主人様も先輩パーティに指導されながら、という方法だったので率先して護衛方法を決めることができませんでした。


 そうなると、もう1人の経験者に視線が集まります。

 そう、冒険者ではないが、護衛のようなものだと名乗った女性。


「本来なら慣れているはずの貴方たち冒険者の指示に従うところなんですが、全員経験がないということで私の方で簡単に指示を出させていただきます」


 かっちりとした喋り方。

 わたしのような付け焼刃とは違う。


「まず、貴方たち3人の中で馬車の左右と前に1人ずつ配置します。私は前方で周囲を警戒することにします」

「分かった」


 ご主人様は特に反論をするわけでもなくメリッサさんの言葉を受け入れました。


「シルビア、お前が正面だ」

「はい」


 ご主人様の指示に反対するつもりはありませんが、この指示は妥当なものだと思えました。

 わたしたち3人の中ではわたしが一番探知能力に優れています。そのため、正面だけでなく左右にも気を配ることのできる正面に配置されました。

 ちなみに左右はどっちが担当してもあまり変わらないので、とりあえずご主人様が左、アイラが右を担当することになりました。


「では、行きましょうか」


 メリッサさんの指示で馬車が動き出します。

 馬車の中にいる4人はご家族のようですが、苗字を名乗っていたことから血縁者というわけではないようです。



 出発から2時間。


 暇ですね……。

 馬車を守るように歩いているので非常にゆっくりとした速度です。こんな速度で歩いていて本当に10日で辿り着くのでしょうか……。いえ、護衛依頼を受けた以上、しっかりと仕事をこなさなくてはなりません。


 わたしの役目は、パーティの目となって異常がないか確認すること。

 けど、わたしが気合を入れ直すのはちょっと遅かったようです。


「シルビア」


 ご主人様から呼ばれて思わず振り向いてしまいます。

 けれどもご主人様は斜め前の方を指差しているだけです。


 いったい……?


「あ、ゴブリンね」

「え……?」


 ご主人様が指差していた場所からゴブリンが5体現れました。

 どうやら正面にいて真っ先に気付かなければならないのに馬車の左にいたご主人様の方が先に気付いたらしいです。それをご主人様は、それとなく教えてくれていたのに私は気付かなかったようです。


 考え事をしていたせいで警戒を怠ったうえ、主の注意にも気付かないなんて眷属として失格です。


 せめて戦闘では役に立とう、と考えているとすぐ傍で火球が発生していました。


「ファイアボール」


 メリッサさんが頭上に掲げた杖の先端に生まれた魔法による火球が離れた場所にいるゴブリンに向かって飛んで行きます。そのまま炎に包まれるとゴブリンの焼死体が5つ倒れていました。うう、戦闘に参加することすらできませんでした。


「ねぇ、護衛依頼中に倒した魔物ってどうするものなの?」


 一旦、馬車を止めて全員が倒されたゴブリンの前に集まります。

 質問したアイラも護衛依頼は経験がなかったので分からないみたいです。


「普通は、倒した冒険者の物になるけど、普通に考えて護衛依頼を優先させないといけない。だから素材を持ったせいで足が遅くなるような真似だけは絶対に避けないといけない。今回のような場合は、護衛対象の馬車にゴブリンを載せてもらえるといいんだけど」


 ゴブリンで売れるような素材は魔石しかありません。

 けれども魔石を回収する為には魔物を解体する必要があります。今は、素人ばかりの集まりということで特別に馬車を止めてもらっていますが、解体の為に時間をさらに使うようなことは絶対にいけません。


 そうなると、馬車にゴブリンを乗せて休憩や野営の時にでも解体するのが一番なのですが、その為にはゴブリンの焼死体をそのまま馬車に乗せる必要があるのですが、それも難しそうです。


 馬車にはアリスターで仕入れた商品がぎっしりと積み込まれています。

 ゴブリンの焼死体なんて一緒に乗せれば商品に匂いが付いてしまう可能性があるうえ、乗せるスペースもそこまでありません。


 この状況では、ゴブリンの死体は置いていくしかありません。

 こういった時、人数の多いパーティなら誰かが解体に残っている間に残りのメンバーが先に進む、という方法を取ることもできるようですが、残念ながら3人しかいないわたしたちのパーティでは、そこまでの余裕はありません。というよりも所有権があるのは、ゴブリンを倒したメリッサさんなのですからどうするのか決めるのはメリッサさんです。


「ちょっと勿体ないですけど、ここに置いていくことにしましょう」


 勿体ないとは言っていますが、ゴブリンでは魔石を売ったところで大した金額にはなりません。


「いや、ちょっと分け前をくれれば俺たちが持って行ってもいいぞ」

「あのですね……護衛依頼を受けているのに足を止めるわけにはいかないんです」

「シルビア」


 ようやくわたしもご主人様が言いたいことを理解しました。

 普通の冒険者には無理でもわたしたちには収納リングがあります。こうして手で触れるだけでゴブリンの死体は亜空間の中に収納されます。


「もしかして、収納リングですか!?」


 一連の行動を見ていたテックさんが声を荒らげていました。

 その表情から怒っているというよりは興奮しているというのが分かります。


「おお、本物を初めて見ました」


 テックさんの瞳に込められた感情――憧れを見て興奮している理由が分かりました。

 馬車に大量の商品を積み込んで街から街へと移動して商売をしている商人にとって重さを感じさせずに大量の商品を運ぶことができる収納リングは喉から手が出るほど欲しいでしょう。

 けれども王都にいる魔法道具(マジックアイテム)を作成することのできる技師の方々でも収納リングを作成することはできないので、手に入れる為には迷宮のような場所で宝箱から得られた物を冒険者に大金を出して買い取るぐらいしかない。

 商人としてそこまで成功しているわけではないテックさんでは手に入れるのは難しいのでしょう。


「これは、お恥ずかしいところをお見せしました」

「いえ、わたしは気にしていませんから」


 わたしがそう言うとすすっとご主人様の方へと歩いていきます。


「見たところ、あなたたちは複数の収納リングを持っているようだ」


 テックさんは目敏くわたしだけでなく、ご主人様も収納リングを持っていることに気付いたようで商談を持ち掛けていた。


「いくら出せば売っていただけますか? できれば私の資産で買えるような値段だと嬉しいのですが」

「残念ですけど、これは冒険者として活動していくうえで必要な物ですから売るつもりはありません」

「そうですか……」


 顔を俯かせながら馬車へ戻ると再び馬車を走らせます。

 その前にご主人様の傍に駆け寄ると小声で謝ります。


「申し訳ございません、ご主人様……」

「ま、初めての護衛依頼だから次から気をつけてくれればいいよ」


 ご主人様は優しく言ってくれます。

 うう……今度は、魔物を見逃さないようにわたしもしっかりと警戒しておかないといけません。


『そんなに肩肘張る必要はないよ』

『ひゃっ!』


 頭の中に響いてきた声に思わず声を上げそうになりますが、どうにか我慢して頭の中だけに留めます。

 話し掛けてきたのは迷宮(ダンジョン)の管理をしている迷宮核(ダンジョンコア)です。


『君の探知能力は既に一流だ。もっと自信を持ってもいいよ』

『そうでしょうか?』

(マスター)が君よりも先に気付いたのは、ちょっとしたズルをしていたからだよ』

『ズル?』

『ほら、あそこだよ』


 声だけなので分かりにくいですが、なんとなく空の方を示しているよう気がしてそちらに視線を向けると一羽の鷲が空を自由に飛んでいました。ただ、どこかで見たことがあるような鷲です。


(マスター)の使い魔だよ。主は使い魔と感覚を同調させて空から見下ろすことで逸早くゴブリンの姿を偶然にも見つけただけなんだよ』

『なるほど』


 上から見下ろすだけでは見逃しがあるかもしれません。

 やっぱりわたしもしっかりする必要があります。


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