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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第32章 逃亡王族
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第7話 指輪の行方―前―

 会食の参加者は、シーリング男爵と彼の奥さん。

 長いテーブルを挟んでアリスター伯爵とガエリオさんが座り、俺とメリッサはガエリオさんの隣で大人しく食事をさせてもらっている。


 シーリング家の当主であるエーギル・シーリング男爵は、40代ぐらいの男性で茶色い髪を角刈りにしている。

 ホストとして来客に対応している。しかし、相手が自分よりも圧倒的に格上であるアリスター伯爵とあって緊張している。

 引き攣った笑みを浮かべたまま前菜とスープを口へと運んでいる。

 その間も率先して話し掛けて情報収集を忘れていない。


「では、王都へは挨拶に?」

「そうだ。本来ならクーデターが落ち着いた夏にでも伺うべきだったのだが、こちらも春には色々とあった」

「ああ、アリスターの南にある村が壊滅した件ですね。そちらはどうなったのですか?」

「どうにか村に住んでいた者たちの協力を取り付けることはできた。アリスターでも移民を募集したことで若者を何人か連れて行けることになった」


 村の復興は順調らしい。

 アリスターには夢を見て都会へと出てきた若者が多くいる。しかし、本当に成功できる者は少ない。

 毎日を燻ぶって生きているだけの若者から移住を希望する者を募ったところ相当な人数が集まったらしい。故郷に帰っても既に居場所などないので、生活することができる新天地を求めた。

 これからが大変になる。なにせ、ほぼ何もない状態から生活できるようにしなければならない。冬の間は、アリスターへ避難することも許可しているようなので不可能なようなら戻ってくるだろう。


 最近のアリスターの状況を話題にしていると肉料理が運ばれてくる。

 鴨の肉を燻製しており、特製のソースも相まって非常に美味しい。


「私としては、そちらの少年が気になりますね」

「知っているのかね?」

「はい。先の襲撃により王都は壊滅的な被害を受けました。その魔物を簡単に討伐したAランク冒険者。今、最もSランク冒険者に近い冒険者ということで非常に注目されております」


 シーリング男爵ほど小さな貴族でも知られているとなると貴族にはほぼ全員に知れ渡っていると考えてもいい。


「Sランク冒険者以上に強い冒険者。これまでにどのような活躍をしてきたのか興味がありますね」

「そうですね…」


 簡単にこれまでのことを語る。

 特に興味を示してくれたのがエスタリア王国にある迷宮やグレンヴァルガ帝国で起きたカルテアの騒動だ。どちらも冒険者ギルドで買い取りをお願いし、ギルドへ話が通っているため元々公になっている話なので知られても問題ない。


 貴族なので国内の情報をある程度は集めることができる。しかし、外国ともなれば集められる情報には限りがあるため当事者の俺から話を聞くことができるのは男爵にとって僥倖だ。


「随分と色々行動しているな」

「ええ、少々運に恵まれたおかげで強い力を得られたせいか色々な厄介事に巻き込まれるようになりました」

「普通は魔物を狩って売り、商人などの護衛をしている内に一生を終えるから特殊な状況だと言える」

「あ、ちゃんとそういった依頼も引き受けていますよ」

「それには彼女も?」


 シーリング男爵の目がドレスで着飾ったメリッサへと向けられる。

 俺について調べているのならパーティメンバーの構成についても知っている。

 護衛をするなら魔物や盗賊と戦うことになる。今のドレスで着飾ったメリッサは、とても戦闘ができるようには見えない。


「はい。襲われる馬車を守ったこともありますし、逆に盗賊の拠点へ襲撃を掛けたこともあります」


 盗賊を討伐すれば溜め込んでいた財宝は、討伐した者の所有物となる。

 ちょっとした臨時報酬になるので、俺たちにとっては盗賊の襲撃は歓迎するべきものとなっていた。


「大丈夫なのですか?」


 男爵の隣に座る夫人が心配そうに見てくる。

 彼女にとってメリッサぐらいの年齢は娘に思える。そんな年若い女性が盗賊と戦うなど気が気ではなかった。


「最近も盗賊退治を行いましたので大丈夫です」

「ほう。それは素晴らしい。領主にとって盗賊は悩みの種にしかなりませんから討伐してくれるのはありがたいです」

「そう言って頂けるとありがたいです。先日、討伐した盗賊も予想していた以上の財宝を貯め込んでいました」


 そう言いながら収納リングから指輪を出す。


「え……」


 肉を切っていたナイフとフォークがシーリング男爵の手から落ちる。

 隣にいた夫人も男爵とは違った理由で驚き……戸惑って手を止めていた。


「どうされました?」


 何気なく二人の表情を確認しながら指輪をテーブルの上に置く。

 緑色に透き通った輝きを放つ宝石がつけられた指輪。


「それは、どうしたの?」


 夫人が思わず尋ねる。


「盗賊が大事に保管していた指輪です。宝石には詳しくありませんが、かなり価値のある物だと判断しています」

「あ、あの……見せていただけますか?」

「どうぞ」


 指輪を乗せて手を夫人の方へと近付ける。

 指輪が気になる夫人は、思わず身を乗り出して手にしようと手を伸ばす。


「あなた……」


 だが、その手をシーリング男爵が掴んで止めた。


「確認するまでもない。それは私の指輪だ」

「そうだったのですか?」

「あ、ああ」


 惚けてみせるメリッサの言葉に男爵が頷いた。


「では、お返しします」

「いいのだろうか?」

「はい。奥様の反応を見る限り、とても大切な物なのでしょう?」

「そうだ。まだ私が爵位を継ぐ前の若い頃に二人で選んで買った指輪だ」


 そんな大切な物が盗賊のアジトにあった。

 明らかに不自然だ。


「少し前に紛失していたのだが、いつの間にか盗賊の手に渡っていたらしい」

「大切な物でしたら、きちんと保管しておいた方がよろしいですよ」

「そ、そうだな……」


 明らかに狼狽えている。


「気分が悪くなったので退席させてもらいます。もちろん、指輪のお礼は後ほどさせていただきますので安心してください。皆様は夕食の続きを楽しまれてください」


 給仕の為に部屋の隅で控えていたメイドを連れて部屋を男爵が出て行ってしまう。

 既に料理は、デザートを残すのみとなっているのでタイミングを見計らって来るだろう。


 その前に話を済ませておかなければならない。


「今の指輪は?」


 メリッサから具体的なことは何も聞いていない。

 聡明な彼女なら間違った対応はしないだろう、という信頼から交渉を全て任せていた。


「全て言った通りです」

「盗賊を退治して得た財宝、っていうことか?」

「はい」


 けど、あんな指輪に覚えはない。

 盗賊のアジトへ襲撃を仕掛ける時は少数精鋭で行っている。盗賊のように追われる者が人目につくような場所をアジトにしている訳がなく、町の外を走る馬車を襲うことから洞窟や小さな小屋を利用している場合が多い。そんな場所へ6人で攻め込んだら狭くて仕方ない。

 だから、常に一緒に行動している訳ではない。

 俺のいない時に討伐された盗賊の財宝なのかもしれない。


「ええ、別行動をしている最中に討伐した盗賊の財宝です」

「いつの間に……」

「今朝の出来事です」

「え……」


 今朝ならアリスター伯爵の護衛で傍にいなかったため知らないのも無理はない。

 だが、盗賊の討伐から数時間しか経っていないことになる。急いで盗賊を討伐しなければならない理由もない。


「何があったんだ?」

「お父様」

「なんだ?」


 俺の質問には答えず、ガエリオさんの方を見ながら言う。


「店へ卸されるはずだった商品が届きませんでした。原因は盗賊による襲撃です」

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