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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第32章 逃亡王族
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第5話 子爵との面談

 翌日、屋敷で待っていると昼前に来客があった。


「平民の癖に随分といい屋敷に住んでいるではないか」


 訪れたのはバランド子爵。俺たちの中では最も身長の低いメリッサよりも低く、肥えた腹をしており、少しでも威厳を出そうとでも思っているのか似合わない髭をしている。


 子爵と言ってもクーデターに僅かばかりの戦力を出して協力した功績から先月に男爵から昇爵したばかりの男。

 ファールシーズ公爵にとっても使い捨てても問題ない人材。

 故に使い走りを任されている。


 その子爵は、使者として訪れているにも関わらず慇懃無礼な態度で俺とガエリオさんを見下していた。

 彼にしてみれば没落した貴族。それに成功していると言っても冒険者。

 どちらも平民であるために取るに足らない相手だと思っている。


「彼らに失礼ですよ、バランド子爵」

「伯爵は平民にも親切ですな」


 子爵の隣にはアリスター伯爵が座っている。

 昨日と同じように応接室での面談。

 ただし、メリッサとミッシェルさんには退室してもらっている。子爵の目的は、あくまでもラグウェイ家の当主となるガエリオさん。それから本当の目的も多少は弁えているらしく、俺の同席にも文句は言わない。


「私はこのような場所で時間を無駄にしているほど暇ではない」


 昨日はアリスター家で歓待を受けて時間を1日無駄にしていた癖によく言う。


「この度、国王となられた陛下はラグウェイ家の再興を約束してくれた。貴殿も元とはいえ貴族だというなら、これを引き受けるように」


 本当に自分の用件を言うだけで帰るつもりなようで、ソファから立ち上がっている。

 有無を言わせない命令。

 勢いに任せて判断をさせず、無理矢理にでも了承させるつもりでいる。


 しかし、こちらは事前にアリスター伯爵から話を聞いている。この後での対応も決めてある。


「大変喜ばしい話ではありますが、お断わりさせていただきます」

「な、なに!?」


 断られることは想定していなかったらしく、立ち上がりかけていた姿勢を崩して転びそうになっている。


「そんなことが許されると思っているのか。本来なら領主貴族としての役目を全うできなかった責任を問うところを不問にし、再興まで約束してくれているのだぞ!」


 領地を預かる貴族には、統治して税を納める義務がある。

 途中で領主の地位を追われてしまったガエリオさんは、貴族の法に照らし合わせるなら罪に問われても文句は言えない。


 ただし、事情が特殊である。


「私は国から預かる領地と領民を守ることができませんでした。ですが、当家から奪っていったのは、第3王子だとファールシーズ公爵が既に公表しております。それは、言ってしまえば国が没収したようなものです」


 国が領主として不適格だと判断した場合には、貴族の地位を剥奪し平民に落とすことで領地を国の直轄地にする。

 以前のラグウェイ家もそのような経緯があって国の預かりとなり、初代領主が再建することとなった。


 メティス王国は広い。中には経営状態の酷い領地はいくつもあり、没収されることは珍しい訳ではない。


「私は、国から命令されたまま平民として生きることにしましょう」

「なっ……! そんなことが認められるはずが……」

「貴族なら国の意向には従うべきでしょう」

「だが、それは以前の国が決めたことであって……」

「そうですね。今の王族には関係がありません。ですから、以前の王家であった時に平民となった私たちには、今の王家から『貴族としての義務を全うしろ』などと言われる理由はありません」


 ガエリオさんの言い様に子爵が言葉を失う。

 もっと頭の回る人物ならガエリオさんの言い分に反論することもできただろうが、所詮は成り上がりの子爵。ガエリオさんの無理矢理な論理に反論することができずにいた。貴族としての場数ならガエリオさんの方が多いのだろう。


 そうなると子爵は味方に頼るしかない。

 隣にいるアリスター伯爵だ。

 昨日の内に歓待を受けたこともあって同じ貴族なら自分の味方だと信じ込んでいる。


 だが、どちらかと言えば俺たちの味方だ。


「バランド子爵。そのような話は、事前に私へ通してもらいたかった」

「え……」


 アリスター伯爵に対してバランド子爵は、来訪目的をただ使者として訪れ、目的の人物を呼び出すように言うだけで具体的なことは何も告げていなかった。

 それでも相手や状況から無視できない案件だということは予想できたため従者を買収することで情報を得ていた。

 まさか、自分の情報が漏れているとは思っていない子爵は言葉を失っている。


「彼を貴族として迎え入れるのは私が困る」

「な、何故ですか……!?」

「まだ内々に伏せておきたい話だったので公表はしていないが、彼の次女であるメリル嬢を私の息子であるエリオットの伴侶として迎え入れよう、という話がある」

「相手は平民です。正気ですか!?」

「そうだろうか? 血筋は、君が貴族として再度迎え入れようとするぐらいには素晴らしい。このような辺境では血筋がいいだけのお嬢さんでは伯爵夫人など務まらない。本人も優秀な力を持っていなければならない」


 実際、アリスター伯爵の奥さんも実務面で支えていた。

 話に聞いただけだが、元は近くにある小さな町を治めていた領主の娘。幼い時から優秀な成績を収め、小さな町での教育に限界を感じ、もっと広い世界で活躍してほしいと願った領主がアリスターの学校へと行かせた。

 そこで、伯爵とも知己を得て、卒業後もアリスター家で仕えている内に伯爵夫人の座を射止めることになった。


 代々の決まりらしく、アリスター家では親が女性を紹介することはあっても結婚相手を本人が決める。


「既に本人たちの間でも話が進んでいる」


 その話に気に入らない部分があるものの俺も了承している。


「そこで、ガエリオ殿には当家で陪臣騎士を務めてくれないかと前々から相談していた」


 陪臣騎士。

 兄のように国に仕える騎士ではなく、貴族に仕える限定的な爵位を持った貴族。一代限りの爵位で子供へ引き継がせることはできない。それでも、貴族として最低限の権威は持っているため兵士を指揮する権限があるし、文官へ指示を出す権利も少なからずある。


 陪臣騎士を受け入れる。

 これがアリスター伯爵の提示した条件だった。


「以前から話を通していたにも関わらず、このように横から掻っ攫っていくような真似を許容する訳にはいかないな」

「ひっ……!」


 少し威圧を強めて子爵をアリスター伯爵が睨み付けると尻餅をついて後退った。


 辺境の領主として前線に出ることもあり、何年も経験を積んでいるアリスター伯爵と成り上がりの子爵では実力に違いがあり過ぎる。それに伯爵と言っても広大なアーカナム地方を治めるアリスター家の領主。実力的には、公爵と同等と言っても間違いではない。


「き、気分が悪いので私は帰らせてもらう……!」


 足をガクガク震わせながらメイドとして控えていたシルビアの開けた扉から飛び出すように退室する。


「どこへ向かうのやら」


 屋敷の外にはバランド子爵の連れてきた護衛の騎士がいる。

 恥を掻かされた。とても伯爵家へ戻れる状態ではなく、彼らと共に宿へと向かうことになるだろう。


 使者としての任務に失敗した以上は、すぐにでも王都へ戻る必要がある。だが、今の精神状態では満足に行動できず、今日……もしかしたら明日も宿に引き籠もることになる。


「まず、使者を退けることに成功したな」

「ですが、バランド子爵は雑魚です。あの程度を退けたぐらいで安心はできません」


 アリスター伯爵からは、事前に三つの条件を提示されている。

 ここからは二つ目の条件を実行に移す必要がある。


「王都までの護衛は任せてください」


 これからアリスター伯爵が王都へ向かうことになっている。

 冒険者として道中の安全を保証することとなっていた。もちろん護衛の騎士がつくことになっている。それでも俺たちの護衛を必要としたのは、それだけ俺たちの実力を信頼されているからだ。

 屋敷の周囲は過剰とも言える数の騎士によって守られている。これは、子爵との交渉が終わった直後に王都へ旅立つ為だ。子爵よりも早く王都へ辿り着く必要があるため迅速な行動が必要となる。


「ですが、本当に伯爵が領地を離れても大丈夫なんですか?」

「私一人が離れたぐらいで危機に陥るような領地経営はしていない。数週間程度なら部下に任せても問題ないし、妻がいるのだから余程のことにはならない」


 領主の留守を預かれるだけの能力が奥さんにはあった。


「それに新しい王家になったというのに挨拶すら未だに行っていない。さすがに王都から離れた辺境とはいえ、そろそろ向かう必要があるのも事実だ」

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