表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第32章 逃亡王族
864/1458

第4話 再興話-後-

「え、えぇ……!? ラグウェイ家の再興はメリッサの目標の一つだったんじゃないのか!?」


 なぜ反対するのか分からずアリスター伯爵を前にしている状況にも関わらず狼狽えてしまう。


「落ち着いてください」


 平然としているメリッサ。


「たしかにラグウェイ家の再興は私……私たちの悲願でした。ですが、それは自分たちの力で成し遂げてこそ意味があるものです。誰かに迷惑を掛けてまで叶えたいとは思っていません」

「いや、でも今回の件は向こうの謝罪みたいなものなんだから迷惑を掛けているわけじゃあ……」


 むしろ被害を受けたのだから受けて当然の権利に思える。


「そうですね。王家の罪なのですから新たな王家となったファールシーズ公爵には補償する義務があります」


 対して以前の王家は、メリッサ個人に謝罪することはあったものの特に動きを見せることはなかった。

 ペッシュ王子がしていたことは国にとって恥以外の何物でもない。だからこそ王として謝罪する訳にはいかなかった。


 ファールシーズ公爵は、以前の王家を批判してクーデターを成し遂げた人物。まずは謝罪や補償から行う、というのは決して間違っている訳ではない……はずだ。


「疑問に思うべきは、なぜ今のタイミングで、ということです」

「それは……クーデターが落ち着いたからで……」

「私も平時なら少しは受け入れる気持ちがありました。ですが、今の王家にそこまでの余裕がありますか?」

「……!」


 そうだ。今の王都は壊滅的な被害を受けており、早急な復興が必要とされているほどだ。

 とても過去の案件に構っていられるほど暇ではない。


「簡単な話です。ラグウェイ家の再興が王都の復興よりも優先されるべき案件だと判断された、ということです」


 とても、そうは思えない。

 王都の被害状況を考えれば一刻も早い復興が望まれているのは間違いない。

 それにクーデターに加担した人物の中には正義感や義務感よりも自らの利益を優先させて参加した者たちがいる。特に中級貴族として色々と苦労をし、燻ぶっていた人たちにこそ多い。

 そういった人たちへ報いることを優先させていたばかりに前回の事件は起きてしまった。


「ラグウェイ家の再興は、ついでです。それによって起こる利益をファールシーズ公爵は優先させたのだと思います」

「私も同感だ」


 メリッサだけではない。ガエリオさんとアリスター伯爵の目が俺へと向けられている。

 そこで、ようやく公爵の目的が分かった。


「俺か」


 俺を引き入れる為にラグウェイ家を取り込もうとしている。


「報告を聞いただけだが、王都で随分と暴れたらしいな」

「いえ、それほどでは……」

「逆だ。王都に多大な被害を齎し、Sランク冒険者が総掛かりになっても倒すことのできなかった魔物を簡単に討伐した。王都にいる貴族連中は今頃戦々恐々としているはずだ」


 ああいった強大な魔物に襲われた時に備えてSランク冒険者を王都に常駐させている。もちろん依頼で王都にいない時だってある。けれども、あの時はクーデターの影響で王国のSランク冒険者が全員いた。


「彼らとしては、Sランク冒険者として迎え入れることで防備を備えたい。ところが、名誉と金が手に入るSランク冒険者を断っている」


 Aランクになったばかりの頃。王国から誘いを受けているが、Sランク冒険者になるつもりはない、と伝えている。

 それに国の諜報能力なら俺に子供がいて屋敷まで構えていることを調べることぐらいは簡単なはずだ。

 今の状況を見て拠点を移動するとは考えない。

 本当の理由は別にあるのだが、どちらにしろ王都で拠点を構えるつもりはない。


「だから、せめて俺が国外へ行かないよう手を打とうとした」


 このままアリスターを拠点にするのは明白。

 しかし、人間は自分を基準に考えてしまうもの。公爵には俺が国境にいたことは伝えてあるし、何度か帝国へ行っていることも調査済みなはずだ。帝国から割のいい報酬を提示されれば移動するかもしれない。

 強迫観念にも似た不安に襲われることだってある。


「現状を見ればラグウェイ夫妻と身内関係だと思っても問題ない。そこに目をつけた国は、ラグウェイ家を再興させることで国から出て行くのを防ごうと考えたわけだ」


 ラグウェイ家は国に仕える貴族。

 さすがに身内が貴族として仕えている国に敵対するはずがない。


「それから、もう一つ離れられない理由ができています」


 ディオンの存在だ。

 現状のまま進めばラグウェイ家を次に継ぐのはディオンになる。

 そんな状況で王国から離れられるはずがない。


「そっか……それで俺に迷惑が掛かる、という訳なんだな」


 実際には離れるつもりはない。

 しかし、ラグウェイ家が再興することによって俺に色々な柵が生まれることになる。

 その状況をメリッサもガエリオさんも良しとしない為に断ろうと考えている。


 ただし、実際に断れるかどうかは別問題だ。


「断ることは可能ですか?」

「不可能だろう」


 実質、国からの命令に等しい。

 使者は提案に来ているものの受け入れざるを得ない命令だ。


「元、とはいえ貴族だった訳だから国からの命令には従わなくてはならない。拒否するということは疚しいことがある、と言っているようなもの。拒否できるだけの権力や人脈があるのならば可能なところだが……」


 今のラグウェイ家には何もない。

 商人として多少の成功はしているものの貴族社会においては何の役にも立たないだろう。


 唯一、使えそうなのは俺の力ぐらいだろうが、脅すような真似は将来のことを考えるのなら避けていきたい。俺たちが生きている間は問題ないだろうが、死んだ後で子供たちが困ることになる。


「俺なら多少は面倒な立場になるのは構いません」


 断ることはできない。

 ならば、受け入れるしかない。


「しかし……」

「こんな回りくどい方法を取っている、ということはSランク冒険者になる必要はない訳です。事情があってアリスターから離れる訳にはいかないので、俺たちの力を必要としている時があったらラグウェイまで駆け付けますよ」


 ラグウェイ家を再興した後は、元々統治していた場所でガエリオさん夫妻の手で統治が行われるはずだ。

 俺なら日帰りで駆け付けることができる。

 通信が可能になる魔法道具を渡しておけば状況も把握できる。


「いや、私とミッシェルにとっては、それが最も受け入れがたい問題なんだ」


 ラグウェイへ行くのはガエリオさんとミッシェルさんのみ。

 メリッサは俺の傍にいるだろうし、メリルちゃんもアリスター家で働くことが既に決定している。

 二人とも連れて行ける訳がない。


 そして、メリッサが残るのならばディオンも残ることになる。

 さすがに生まれたばかりで母親から引き離すのは可哀想だ。


 将来の領主となるディオン。領主になる前から正当な後継者であることを領民に示す為にもラグウェイで生活する必要がある。しかし、それも赤ん坊の頃からでなくてもいい。向こうへ行くのは十年以上も先の話になる。


「ここを離れたらディオンに会えなくなる」


 馬車を使えば往復で1カ月近く掛かる距離。

 さすがに領主がそんな長期間も領地を留守にする訳にはいかない。

 つまり、ラグウェイへ行けば十年以上も孫に会えなくなってしまう。


「え、まさかそんな理由で……?」

「私たちにとっては切実な理由だ」


 生まれてから毎日のように屋敷へ来ているガエリオさん。

 よほど孫の誕生が嬉しかったらしく、溺愛しているので離れ離れになってしまうのは耐えられないらしい。


 えぇ……


「何かいい方法はないでしょうか?」


 アリスター伯爵に縋ってしまった。

 その姿にメリッサとミッシェルさんが呆れている。


「私が先にここを訪れたのはその件を相談する為だ」


 アリスター伯爵は、ラグウェイ家の再興によって俺がアリスターを離れてしまうことを危惧した。

 だからガエリオさんたちがアリスターにいられるよう一つの策を練った。


「私の提示する条件が受け入れられるなら家を再興することができ、ラグウェイへ行く必要はない」

「その提案、受け入れます!」


 内容を聞く前にガエリオさんが受け入れてしまっている。

 どうやら相当ディオンの傍を離れたくないらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ