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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第32章 逃亡王族
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第3話 再興話-前-

 リビングでシエラとレウスが遊んでいる。

 シエラの手には大きな兎のぬいぐるみがある。


「随分と大きくなったな」


 以前にシルビアがプレゼントした手作りのぬいぐるみだ。

 当時はシエラよりも少し大きかったのだが、いつの間にか逆転していてシエラの顔をぬいぐるみの上に乗せられるようになっていた。


「がおー」


 可愛らしい顔をした兎のぬいぐるみで目の前にいるレウスへと襲い掛かる。


「うぅ」


 レウスの手には同じようにシルビアが誕生日にプレゼントしたライオンのぬいぐるみがあった。百獣の王らしく凛々しい顔をしている。

 しかし、ぬいぐるみを持っているレウスが兎のぬいぐるみを怖がっていた。


「もう、だめだよ」


 レウスの様子にシエラが呆れていた。


「だって……」


 父親に似ず少々臆病に育ってしまったレウス。

 まだ1歳になったばかりなのでこれからだろう。


「仲良く遊んでいるみたいだな」

「おとさん!」

「……」


 二人に近付くとシエラは笑顔を浮かべてくれたのだが、レウスはシエラの後ろに隠れてしまった。

 少々人見知りする性格で、基本的に屋敷にいる時間が長く取りやすいので最近では兄よりも顔を合わせているはずなのだが、未だに慣れてくれていなかった。

 そして、本当の姉のように接してくれているシエラには母親にも等しい全幅の信頼を寄せている。


「どれ、ちょっと俺も……」

『ご主人様』


 屈んで一緒に遊ぼうとしたところでシルビアから念話が届く。


『お客様です』

『客?』


 屋敷に来客は全くない訳ではない。

 それでも珍しいことには変わりない。


『はい。ガエリオさんとミッシェルです』

『あの人たちなら通してもいいぞ』


 メリッサの両親。

 ディオンが生まれてからは毎日のように屋敷へ来ている。お互いの家がそれほど離れていないため簡単に訪れることができる。

 今は店が営業時間のはずなのだが、孫が可愛くて我慢できなくなったのだろうか?


『それからお義兄さんが一緒にいます』

『兄さんが?』

『どうやらディオンに会いに来た、という訳でもないようですので応接室へと通します』

『頼む』


 来客の対応はシルビアに任せておけば問題ない。


「お客さんが来たみたいだから二人で遊んでいてくれな」

「はい!」

「はぃ」


 子供たちと別れて応接室へ向かうと兄とガエリオさん、ミッシェルさんがいた。


「お待たせしました」

「いや、全然待っていないぞ」


 ちょうどキッチンへ飲み物を取りに行ったシルビアが戻ってきたところだった。

 ガエリオさんとミッシェルさん。

 対面のソファの後ろに兄が立っている。


「お前はそっち」


 兄に言われてガエリオさんの隣に座る。


「俺に会いに来た、という訳ではないんですね」


 状況から判断するに俺とガエリオさんたちに誰かが会いに来た。

 そして、話を通すうえで兄がいてくれた方が都合いいと判断された。

 こちらの関係性を理解し、兄にそんな指示を出せる人間は限られている。


「――お客様がいらっしゃったようです」


 シルビアが迎える為に玄関へと向かう。

 入れ違いにメリッサがやってきた。


「どのような用事でしょうか?」

「お前も呼ばれたのか?」

「はい。私も同席するようシルビアさんから言われました」


 メリッサが俺の隣に腰掛ける。

 しばらく待っていると応接室へアリスター伯爵が入ってきた。


「これは--」

「座ったままで結構。急に押し掛けたのはこちらの方だ」


 アリスター伯爵が向かいのソファに座る。


『屋敷の外で護衛の騎士が待機しています』


 本来なら部屋の前で護衛したいところ。

 さすがに俺の屋敷なので騎士を何人も連れてくる訳にもいかず、こうして屋敷内にいても問題のない兄を同席させている。


「さて、あまり時間を掛ける訳にもいかないから単刀直入に用件を述べよう。王都から使者が来ている」

「それは随分と大変な時期に来られましたね」


 ガエリオさんが感心している。

 もう冬に突入し、本格的に雪が積もるのはもう少し先だが、寒くなって雪が降り始めている。王都からの距離を考えれば馬車での移動は大変なはずだ。

 それに王都の状況もある。現在の様子を聞いた訳ではないが、使者を任されるほどの人物が長期間王都を離れていいはずがない。


「使者の目的は君たち――正確に言うならばラグウェイ夫妻に会うのが目的だ」


 アリスター伯爵にはガエリオさんたちの以前の身分について伝えている。さすがにメリッサを通して俺たちと関係があるのに隠し通せる訳がない。


「私たちに……?」

「そうだ。ラグウェイ家の再興を提案するものだ」

「……!」


 かつて小さな町だったが、領地を治めていたガエリオさん。

 自分の領地を求めていた第3王子に目を付けられてしまったため盗賊に扮した圧倒的な戦力を以て追い出されてしまった。

 騒動によってメリッサと生き別れることになり、ガエリオさんは生き残る為にも貴族だった頃の伝手を利用しながら商人としてある程度の成功を収めることに成功する。

 その間、娘のメリッサを探す為の情報収集も欠かしていなかった。結局、こちらから見つけることで問題はあっけないほど簡単に解決している。


「現在、使者は我が屋敷で歓待を受けている。明日までは時間を引き延ばすつもりでいるので私が先触れとして参った」


 内容が内容だけに部下に任せる訳にもいかない。

 そのため、アリスター伯爵が直々に来ることとなり、防犯や防諜面でしっかりとしている俺の屋敷が選ばれた。

 あと、俺が同席を許可されているのは既に身内も同然だからだ。


「使者の言い分はこうだ。ラグウェイ家は、前王家の手によって滅ぼされたようなもの。彼らに責はなく、優秀な人材は少しでも活用し、正しく評価されるべきだ」


 前王家が人目につかない陰で色々とやっていた悪事を非難する現王家。

 当然、元第3王子だったペッシュがしていたことは問題にされ、自らの行動を正当化する意味でも彼らのしていた悪事を順次公表していった。


 当然、被害者には補償がされるべき。

 ペッシュの被害者は数が多い。盗賊に扮した兵士によって殺された人、自分たちだけが利益を享受する為に行った政策によって損をさせられた人たち。

 数え上げればキリがなく、全員に補償を行うのは不可能。

 それでも、行わない訳にはいかない。


「それで私たち――という訳ですか」


 ラグウェイ家は、最初の犠牲者と言ってもいい。

 彼らに報いることで他の被害者たちにも順次報いていくつもりがある、ということを示すつもりだ。

 没落した貴族が再興する。

 これほど喜ばしい話もないだろう。


「そうですね--」


 ガエリオさんがシルビアの淹れた紅茶に手をつける。

 けっこう高級な茶葉を使用しているので貴族相手に出しても問題ない。


「――申し訳ないですけど、お断わりさせていただきます」

「私も同感です」


 ガエリオさんが反対しただけでなく、メリッサまで反対してしまった。


「その方がいいかもしれないな」


 え……?

 話を持ってきたはずのアリスター伯爵まで賛同してしまった。

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