第3話 女性パーティ希望
ミスリルゴーレムを倒すと素材であるゴーレムの体だったミスリルの塊を次々と収納リングに収めて行く。すぐに一杯になったので残りは道具箱へと収納する。ミスリルは全て売るつもりでいるが、道具箱に収納した分を売るタイミングについては考えなくてはならない。
魔力変換させることも可能だが、元々迷宮の魔力から生み出されたミスリル。魔力に変換させても収支は変わらない。
とはいえ、今は特別お金に困っているわけでもないので魔力は必要としていない。
数日後には構造変化も起こる予定なので問題ないだろう。
そうして、ギルドへ行くと討伐依頼の報告とミスリルの受け渡しをする。
「はぁ、またすごく綺麗な状態ですね」
倉庫に置かれたミスリルゴーレムの状態を見てギルド職員が驚いていた。
「それで、お金はいくらぐらいになりそうですか?」
「全部売っていただけるのですか?」
「そうですね。ミスリルを手に入れた場合は、そこから職人に頼んで武器や防具を造ってもらうことがあるそうですけど、俺たちは特に装備を必要としているわけではないので、全部お売りしますよ」
「おお、ありがとう」
冒険者の多くいるギルドならミスリルの使い道もたくさん知っているだろう。
ちなみに地下25階の最奥にいるミスリルゴーレムだが、既に復帰している。
もちろんアイラが倒した個体とは別のミスリルゴーレムで、すぐに復帰するようなシステムになっている。ただし、復活したわけではなく、復帰――もっと深い地下61階では地下25階のボスとして扱われていたミスリルゴーレムが普通の魔物としている。そこから連れてきた。
「マルス君、ちょっと」
ギルドの受付がある場所へ3人で戻って来るとルーティさんに呼ばれた。
受付嬢としてそれなりに長く勤めている美人の受付嬢に親しくされるとルーティさんを狙っている冒険者から妬みの視線を向けられることになるのだが、どうやらルーティさんにとって俺は頼りになる冒険者らしく色々と頼まれることが多い。
「実は、マルス君に受けてもらいたい依頼があるんです」
「受けてもらいたい依頼?」
今までにもルーティさんに頼んで依頼を紹介してもらったことはあったが、ルーティさんからお願いされたのは初めてだ。
「実は、ちょっと条件の厳しい依頼なんです」
そっと依頼票を出してきたので3人で確認する。
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内容:王都までの護衛
報酬:金貨5枚
条件:過半数以上が女性のパーティ
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これは……。
「アリスターの街には冒険者が多くいます。けど、冒険者は女性よりも男性の方が圧倒的に多いのは分かっているでしょう」
それはギルドや併設された酒場を見れば分かる。
ギルドの中には数十人という人数がいるにもかかわらず、男女比は7:3ぐらいで男性の方が多かった。そのうえ、過半数以上が女性のパーティ。知り合った冒険者の中にもあったが、俺が知っている限りでも3組しかない。
「こっちでも依頼を受けていなくて条件を満たしているパーティにいくつか声を掛けてみたんですけど、やっぱり王都までの護衛が問題みたいです」
ルーティさんが困ったように言う。
辺境にあるアリスターから王都までは片道だけでも普通に行けば10日掛かる。女性の方が多いパーティは、生活面の問題から長期間の依頼を避ける傾向にある。そのため受けてくれるパーティが少ないのだろう。
俺たちも男が1人に女が2人という構成のパーティだ。
依頼を受ける条件は満たしている。
「それに依頼主からは明日までに冒険者を見つけてほしいと言われているんです」
依頼票を受理した日付は3日前になっていた。
「アリスターまで護衛してくれた人はいないんですか?」
「どうやら依頼主は街から街へと旅をしながら商品を売り歩いている行商の人で、別の街にいたときにアリスターに向かう冒険者パーティを捕まえて格安で雇ったらしいです。その冒険者も迷宮に挑むためにアリスターに留まるらしいですから次の目的地である王都までの護衛を必要としているんです」
事情は分かった。
あとは女性陣の意思だ。
どうやら依頼主は女性冒険者を求めているが、戦闘能力に不安があるので男性冒険者も必要とした。ということだろう。
「わたしは問題ありません」
「報酬を考えると普通ならちょっと足りないぐらいなんだけどね……」
アイラは報酬を気にしているようだが、俺たちは基本的に報酬を気にしない。
迷宮のおかげで既に無駄遣いしなければ一生を暮らしていけるだけの金額が手元にある。それでも冒険者として依頼を受けているのは、堕落した生活を送っているとダメ人間まっしぐらな気がする為だ。
何か面白そうな依頼があれば積極的に受けるようにしている。
「俺は受けてみたいと思う」
「理由は?」
「せっかくだから久しぶりに王都へ行こう」
王都へ行けば意外な掘り出し物が見つかるかもしれない。
魔力変換を手に入れたことによって、そういった掘り出し物に見つけることに興味を持ち始めていた。幸い、迷宮産の掘り出し物なら『鑑定』があるから確実に真贋を見分けられる。
「あたしも王都へは一度も行ったことがないから行ってみたいかな」
とにかく全員が依頼を受けることに賛成した。
「分かりました。依頼はこちらの方で受理しておきますので、明日の朝に街の西門で集合することになっています」
ルーティさんが書類を準備してくれる。
俺たちは明日の朝になったら西門に集合するだけでいい。
☆ ☆ ☆
翌朝、2人の妹――クリスとリアーナちゃんに泣きつかれてしまった。
2人ともまた10日も離れ離れになってしまうことを寂しく思っていた。2人も学校があるので、しっかりとしてほしいところではある。
「大丈夫でしょうか?」
西門へ向かう道すがらシルビアが妹のことを心配していた。
奴隷になっていた時期もあるので、きちんと帰って来てくれるのか、とリアーナちゃんは姉のことをすごく心配していた。
「大丈夫だろ。お前の妹なんだ。リアーナちゃんだってしっかりとした子だよ」
ちょっと精神面で幼いところはあるものの学校の成績は優秀な方だとクリスから話に聞いている。
「いいな。あたしも2人みたいに妹が欲しかったな」
アイラには弟がいたが、魔剣に魅入られた父親によって殺されている。
「何言っているんだ。一つ屋根の下で生活しているんだからお前も家族みたいなものだ。だったらクリスもリアーナちゃんも妹みたいなものだろ」
「そうかもしれないけど……リアーナちゃんはともかくとして、クリスちゃんは未だに心を開いてくれないんだよね」
あれは心を開いていないというよりは認めていない、という感じだ。
シルビアと初対面の時も俺が連れてきた女性を警戒していたクリスだったが、妹のリアーナちゃんから怒られてしまったので数日を一緒に過ごす内に打ち解けてくれた。
時間は掛かってしまうだろうが、一緒に生活していればクリスの警戒もそのうち薄れていくだろう。
「あれが依頼者かな?」
西門に辿り着くと大きな馬車の傍で誰かが来るのを待っている5人の姿が見えた。
向こうからも俺たちの姿が見えたため先頭にいた30歳ぐらいの男性が頭を下げてきた。
「冒険者ギルドで護衛依頼を受けた冒険者のマルスです。こちらが依頼の受諾書になりますので、ご確認ください」
「これは、ありがとうございます。行商をしておりますテックと申します。こちらは妻のリンダ。それから娘のミリとリラになります」
10歳ぐらいの女の子と8歳ぐらいの女の子が挨拶をしてくる。
2人の傍にはおっとりとした女性が控えており、2人の娘と似ていることから母娘であることが窺える。
そして、最後に残った1人も女性。
彼が女性冒険者を護衛に求めていたのが分かった。
護衛対象に女性が多く、唯一の男性であるテックさんも腕っ節には自信がないので、自分の連れと男性冒険者の間で何かがあっては困る。
そこで、ハーレムパーティの男性を求めた。ハーレムパーティなら自分の連れに手を出される心配がない。もしも手を出してしまった場合には自分の仲間である女性から制裁が待っている。
俺は2人から制裁される心配はないが、当然のように手を出すつもりはない。
「メリッサ・ラグウェイです」
腰まで届く長い銀髪を真っ直ぐ伸ばした女性が手を出してきたので、俺も手を出して握手する。
てっきり親子と一緒にいることから彼女も家族だと思っていたのだが、違うようだ。
でもよく考えれば当たり前だ。
銀髪の少女メリッサは俺たちと同じくらいの年齢で父親の年齢を考えると父娘だと判断するにはちょっと難しい。それに苗字を名乗っていた。平民ではなく貴族らしい。ただ、メリッサは杖を持ってローブを着た、いかにも魔法使いという格好をしている。
「冒険者というわけではないですけど、貴方たちと同じ護衛だと考えて下さい」
単純な護衛依頼になるのだろうか?