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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第31章 黒影傭兵
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第29話 瘴気拡散

「どうした!? なぜ起き上がらない?」


 一向に起き上がる気配のない終焉の獣の頭をゲシゲシとドルフが蹴る。

 が、それすら反応を示さないことにドルフが次第に焦り出す。

 けれども、焦ったところで既に手遅れだ。


「なぁ!?」


 両断された終焉の獣が黒い砂のようになって崩れ始めた。

 それは、死体が再生されないことを意味していた。


「どうしてだ! どうして再生されない!?」

「簡単な話だ」


 持っていた鎖を見せる。

 この鎖は『狂感鎖』という名前の鎖で、拘束した相手のスキルを封じる効果がある。終焉の獣は、黒い腕の尾を伸ばし、新たに生やすことで離れた場所にいる相手をも掴むことができていた。


 そんな風に動かせていたのも【狂舞】というスキルを所持していたからだ。

 スキルが封じられたことによって腕を伸ばすことができなくなった。

 終焉の獣が瘴気を得る為には、地中へ黒い腕を伸ばさなくてはならない。こうして全ての尾を攻撃に向けた状態で拘束してしまえば、予め回復用に地中へ潜り込ませられていることもない。


 そして、回復手段が封じられた状態でアイラが一刀両断した。

 しばらくの間は体内に残っている瘴気で体を保つことができたが、そもそもが無理のあった体。両断された体は堰の外れた貯水場のように瘴気が駄々洩れになっていく。


「はい、おしまい」


 後には何も残されていなかった。


「クソッ、あれを召喚する為に私がどれだけの苦労をしたと思っている……!」

「そんなものは知らない」


 悪態をつくドルフを別の鎖で拘束する。

 こいつを相手に『狂感鎖』は必要ない。


「お前を生かしているのは聞きたいことがあるからだ」


 あまり時間はない。

 今は終焉の獣が暴れていたせいで安全を考慮して近くに人はいないが、王都の騎士団が駆け付ければ引き渡さなければならない。

 今回の一件は騎士が引き起こした。

 どこまで、できるのか分からないがもみ消される可能性がある。


「俺が聞きたいのは、お前に『裏境の鏡』を渡した奴だ」


 ある程度の予想はできているが、一応は聞いておかなければならない。


「ある商人が三つの魔法道具を売り渡してきた。買ったのは組織の資金を出してくれていた奴だけど、私はその人を説き伏せて使わせてもらった」


 リゴール教の目的がどこにあったのかは分からない。

 けれど、ドルフは王国を壊すことに使用することを思い付き、計画を実行させることにした。


「その商人については?」

「顔は見た」

「こいつか?」


 リュゼの幻影を見せる。

 すると、ドルフが静かに頷いた。


「経歴も名乗っていたけど、どうせ適当に並べ立てられた設定だろう」


 ペラペラと情報を喋るドルフ。

 時間のない俺としては助かるのだが、こうも喋られると疑わざるを得なくなる。


「随分と素直に喋るんですね」


 シルビアも同じことを疑問に思っていたらしい。


「もう、何も気にする必要がない。どうせ私の身柄は王国へ引き渡されることになるのだろう。誰に看取られることもなく薄暗い地下牢で処刑……いや、幽閉されたまま餓死させられるかもしれないからな。どうでもいい」


 覇気のないドルフ。

 終焉の獣から瘴気が失われるのと同時にドルフからも王国への憎しみが消えていた。


「ああ、そうだ。どうでもいい、という言葉で思い出したがもう一人の商人は、ガルディス帝国の出身だ」

「どうしてだ?」

「そいつの着ていた服だ。ガルディス帝国にある地方でのみ伝承されている特殊な染め方を使用して作られる服なんだ。もちろん帝国で購入した物を着ているだけ、という可能性もあるけど、その分だけ高くなる」


 所謂民族衣装という物らしい。

 見た目はそれほど普通の服と変わらない。だからこそ特殊な技術が際立っている。


「教えろ。それは帝国のどこだ」

「ああ、それは――」


 ドロッ。

 溶けたアイスのような物がドルフの傍に落ちる。

 既に原形を留めないほど溶けてしまっているため一瞬見ただけでは分からない。だが、まるで人間の腕のように見える物体。そして、視線を少しばかり上げれば肩から先の右腕を失ったドルフの姿があった。


「は?」


 キョトンとした後、自分の右腕がなくなっていることに気付いて体をビクつかせる。

 その時の衝撃で左腕まで同じように落ちる。


「ひっ、なんだこれ……?」


 逃げられないよう取り囲んでいた俺たち4人も咄嗟に離れる。


 何かが起こっている。

 全てを諦めたような気持ちだったドルフも自らの身に起こった信じ難い状況に困惑するばかり。


「瘴気だ」


 イリスがボソッと呟いた。


「瘴気だと……? 私は、あの鏡を使って終焉の獣が復活させた。主である私が瘴気の影響を受けないよう調整してくれて、いたはず……」


 終焉の獣が調整してくれていたからこそ瘴気から作られた黒い腕に包まれても平気だったし、乗ることだってできていた。

 しかし、調整してくれていた終焉の獣は既にいない。


 そのことに気付いたドルフがガタガタ震え出す。


「わ、私はどうなる……?」

「お前だけじゃない」


 大量の瘴気を抱えていた終焉の獣。

 倒されたことによって蓄えられていた瘴気が解き放たれることになった。


「マズいな」


 今から行動を起こしてどれだけの成果があるのか分からない。

 けれど、何もしない訳にはいかない。

 シルビアたちを見て頷くと全員がバラバラな方向へと走り出す。


「近くにいる人は避難してください!」


 戦闘に巻き込まれないよう住人の避難は行われている。ただし、逃げ遅れた人がいないか確認する兵士たちが何人もいる。

 シルビアとアイラの役割は、そんな人たちに避難を促すことだ。


 俺とイリスは終焉の獣が倒れた場所から十分な距離を取って離れる。体の崩壊が始まってからそれほど時間が経っていない。周囲へ拡散されたとしても、そこまで広範囲という訳ではないはずだ。


「「【召喚(サモン)】」」

「ケケケケケッ!」


 迷宮から『虚ろ喰』を喚び出して瘴気を回収してもらう。

 魔物を喚び出している姿を見られると面倒なことになるため建物の陰に隠れての召喚。喚び出している虚ろ喰は、瘴気に引き寄せられる魔物。大量の瘴気があればいてもおかしくない。


「とはいえ……」

「が、あぁ!」


 苦しむ人の声が聞こえる。

 声のする方を見れば瘴気から逃れようとするように前へ必死に手を伸ばしながら兵士が苦しんでいた。


 残念ながら治療する方法はない。

 いや、虚ろ喰が瘴気を喰らうことによってさらに強い苦しみを味わうことはなくなる。しかし、既に受けた瘴気による影響は消えない。


『何か方法はない?』

「ない」


 俺と同じように虚ろ喰を召喚していたイリスから念話にそう答えるしかなかった。


「せめて、ここがアリスターだったなら」


 迷宮の力が十全に使うことができたなら方法はあった。

 王都にも迷宮はあるが、俺は主ではない。エスターブールの時のように干渉するにしても準備ができていないし、今から最下層まで行っていては完全に手遅れだ。


「俺たちには【迷宮適応】があるから平気だけど……」


 どうやら瘴気は風に乗って流れているようで、被害は東から西へと広がっていっている。このままだと中心部へと到達し、王城も被害を受けることになる。


「やむを得ない……吹き飛ばすか」


 瘴気を全て焼却してしまえば被害の拡大は防げる。

 しかし、既に瘴気が広がっている範囲は跡形もなく消し飛ぶことになる。それが可能な魔法は使える。さすがに被害を考えると躊躇せざるを得ない。


「……躊躇っている暇はない、か」


 魔法を使用する為に手を上へ掲げた時、下から気配を感じる。


「どうやらやり方が分かっていたみたいだな」


 王都全体が薄らと光り輝く。

 輝きは数秒。その間に光が収まると瘴気による被害は沈静化されていた。


「成功したの?」

「ああ」


 王都に蔓延していた瘴気は全て地下にある迷宮へと移動させられた。迷宮は地上も含まれる。迷宮の能力で地上にあった瘴気を地下へ一瞬にして移動させることも可能。


 迷宮主が代替わりしたばかりの迷宮。

 しかも、普段は迷宮として利用されていないため頼ることができなかったが、窮地に陥ったことでできるようになったのかもしれない。


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