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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第31章 黒影傭兵
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第25話 終焉の獣⑦

「1年前の教訓を活かして地方にある砦は強固にされている」


 カルテアと戦った際には多くの砦があまりに強大な力を前に成す術もなく崩れ去ることとなった。

 あれほどの敵が相手では砦に力はない。

 だが、強大な魔物が現れた時に耐えられるようにしたい。


 物理的に強化するだけでは足りない。魔物の中にはゴーストのように実体を持たないのもいる。そういった魔物にも対処できるようにする必要がある。


 計画が練られ、地方にある砦から強化された。

 その中にスクルル砦も入っていた。

 終焉の獣が持つ黒い腕も強化によって防げるようになっていた。


『こんな物……!』


 巨猿が拳を握ると門に叩き付ける。

 パラパラと破片が落ちるものの耐えている。


「よし……」


 その様子を砦の最上階にある指令所から見て安堵する将軍。

 初めは経費の無駄ではないかと思っていたが、予想に反して効果を上げている。


 何度も何度も終焉の獣が拳を叩きつけている。


「この調子なら問題なさそうだな」


 指示を出すべくその場を離れる。


「今の内に矢の補充と魔力回復薬を壁の上にいる兵士たちへ届け――」


 途轍もなく大きな地響きに窓へ駆け寄る。


「なっ……!」


 窓から見えたのは砦の内側にいる終焉の獣。

 砦内へ入られた。しかし、砦への侵入を防ぐ門は健在だ。


「いったい、何があった!?」


 窓から下の様子を見ていた部下に尋ねる。


「そ、それが……背中にいる騎士が何かを指示していたように見えました」

「あいつか」


 指令所から見られていることに気付いた騎士が笑顔で手を振っている。


「その後、終焉の獣が砦の壁を跳び越えてきたのです」

「……それは想定していなかったな」


 壁の高さは15メートル。

 人からの攻撃を想定して作られているため十分な高さがあるはずだった。

 しかし、猿でありながら10メートル以上ある終焉の獣を阻むには足りなかった。


「そんなことを気にしている場合じゃない!」


 侵入された。

 現在のスクルル砦には村から逃げてきた避難民もいる。彼を逃がす為に即座に行動を起こさなければならない。


「すぐに――」


 空が赤く燃える。

 太陽とは違う輝きがあった。



 ☆ ☆ ☆



 突如として現れた新たな光源。

 その正体は、空中に作り出された巨大な火球(ファイアボール)だ。

 下級魔法の火球。魔力を炎へと変え、安定させる為に球状をしている。単純が故に魔力を注げば注ぐほど威力と大きさが増していく。

 かなりの魔力が注がれた火球が空にあった。


「なっ……!?」


 門の前にいた傭兵や騎士たちがポカンとしている。

 いきなり壁を跳び越えて終焉の獣が砦の中へ侵入してきた時にはどうなるのかと肝を冷やしていたが、それ以上の驚きだ。


「あそこに人がいるぞ」


 火球の下に杖を持った誰かがいた。

 持っていた杖を振り下ろすと火球が下――終焉の獣へ向かって落ちる。


『わわぁ!』


 自分へ落ちてくる火球を見て終焉の獣も回避しようとする。

 しかし、その足が何かで固定されているかのように動かなくなる。


『あ、あれ……?』


 何か真っ白な直方体が終焉の獣の足首を覆っていた。

 抜け出そうと精一杯力を込めてみるものの抜け出せない。


『これぐらいなんともないもんね』


 黒い腕の尾を叩き付ける。

 すると、構成を維持できなくなってしまったのか何度か叩き付けられている内に砕けてしまった。


『ふふん』


 自由になったことで上機嫌になる終焉の獣。


「ば、馬鹿!」

『ばかぁ? ヒドイよパパ』


 背中にいた騎士が急いで体を縮める。

 そこで、ようやく終焉の獣も思い出した。


『あ……』


 頭上まで迫る灼熱の球体。

 足首にある直方体へ構っている内に間近まで迫られていたため直撃を受けてしまう。


 終焉の獣が咄嗟に黒い腕で体を覆う。

 特に騎士のいる背中は念入りに何重にもして覆う。


『あ、あつい……! あつい! あつい! あつい!!』


 炎に包まれたままのた打ち回る終焉の獣。

 思い出したように尾を地面へ突き刺すと炎が消えていく。


『ふぅ。助かった……』

「まだじゃよ」

『ふぇ?』


 終焉の獣の前に現れた杖を持つ白髪に白髭の老人。

 懐へ潜り込まれる瞬間を見逃してしまった終焉の獣は反応できていない。まあ、今のを見逃してしまったとしても仕方ない。

 右手に杖を持ち、左手を終焉の獣の胸に押し当てる。


「吹き飛べ」


 老人の手から放たれた竜巻が巨猿を吹き飛ばす。


『いったいなぁ。もう……!』


 大きく跳び上がる終焉の獣。

 いくつもの黒い腕を集めて、大きな黒い腕を周囲に10個作る。


 10個の腕から同時に繰り出される拳撃。

 上から迫る攻撃に対して老人は攻撃魔法を出す為に意識を集中させている。終焉の獣を吹き飛ばせるほどの魔法を使える者が集中を要するほどの魔法。かなりの威力があるのは間違いない。けど、間に合わない。


『おそいよ』


 拳が振り下ろされる。

 だが、目に見えない壁によって阻まれる。


 阻むことができたのは数秒。黒い腕が持つ能力によって壁を作っている魔力が吸い尽くされる。


『ははっ、これで!!』


 ――ガン!


 再び見えない壁によって止められる。

 全ての魔法が吸い尽くされる、そのせいで防御系の魔法が意味を成さないというのなら新たに何度でも生み出せばいい。

 言うのは簡単だが、終焉の獣の攻撃を受け止められるほどの障壁を瞬時に生み出すのは簡単ではない。


「よくやった嬢ちゃん」


 障壁を破壊することに夢中になっているところへ真下まで移動する。


「【火炎旋風(フレアトルネード)】」


 老人が杖を空へ向かって掲げる。

 すると、老人を中心に竜巻が発生する。ただの竜巻ではない。風の渦に炎の線が走っており、内部は高温に熱せられている。さらに竜巻が地面にあった石や木箱を飛ばし、燃やしていた。

 竜巻の大きさは終焉の獣よりも少し大きいくらい。中心にいる終焉の獣は高熱の風と燃える障害物の直撃を受けて大きなダメージを受けている。


 【火炎旋風】が止み、巻き上げられた体が地面に叩き付けられた時にはピクピクと体を痙攣させている。


 何者だ?

 どうやら味方らしいが、それまでに全く姿を見たことがない人物に傭兵も騎士も警戒している。


「間に合ったみたいだな」


 ただ一人リオだけは笑顔だった。


「知り合いか?」


 相手が皇帝でも物怖じしないキュロスが尋ねる。


「あの爺さんはゴーゲン。そして、大猿の攻撃を受け止めた障壁を出していたのが――」

「初めまして、セラフィーヌと申します」


 いつの間にかリオの隣に物腰の柔らかい女性が立っていた。修道服を着た女性で緩くウェーブのかかった長い金髪、細められた目が見る人にほんわりとした温かい気持ちを与えていた。


「我が帝国の聖女だ」

「聖女だなんて恐れ多いです。少しばかり珍しい魔法に適性のある元修道女でしかありません」

「謙遜することはない。先ほどの魔法は見事なものじゃった」


 ゴーゲンという名前の老人も合流した。


「こいつらは?」


 終焉の獣にも対抗できる魔法を使える魔法使い。

 ただ者ではないのは間違いない。


「冒険者。それも帝国のSランク冒険者だ」

「どうりで強いはずじゃ」


 帝国の最高戦力が出てきた。


「相手は魔物だ。なら、魔物討伐のスペシャリストを呼んだ方がいいだろ。俺が要請して最高戦力に来てもらった」

「新人の頃に少しばかり手解きしてやった小僧に頼まれたから急いで来てやったわい。まったく……お主も実力は十分じゃったから将来はSランク冒険者になるものだとばかり思っていたらワシらを雇う方になりおって」

「よいではありませんかゴーゲン様。帝国の安寧は私たちの願いでもあります。彼が皇帝でいてくれた方が私たちも仕事がし易いです」

「たしかに、のう……最近は色々と慌ただしいせいで大変じゃがのう」


 Sランク冒険者“火炎旋風”ゴーゲン。

 Sランク冒険者“断絶乙女”セラフィーヌ。


 彼らSランク冒険者は、帝国の窮地とも言える状況で遊んでいた訳ではなく、ガルディス帝国との戦闘が行われている北で他の冒険者と共に戦っていた。そこを状況を重く見たリオが二人を呼び出した。


『むぅ、ひどいよ』


 ゆっくりと終焉の獣が起き上がる。

 どれだけのダメージを与えたとしても瘴気を得て復活する。


「もしかしたら本当に不死身なのかもしれんな。どうする?」

「私に策があります。ですが、二分ほど時間を必要とします」

「二分か。ならば、その二分はワシが稼ぐことにしよう」

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