表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第31章 黒影傭兵
850/1458

第24話 終焉の獣⑥

 砦の壁。

 壁の上では中央に騎士や兵士、左右に傭兵が並べられていた。

 彼らは全員が遠距離攻撃可能。魔法が使えず、弓矢を扱うことのできない者たちは門の前で待機させられていた。


「来た――」


 誰かが呟いた。

 街道の向こうから土埃を上げながら大きな猿が迫る。

 今は離れていて小さく見えるが、近付けば全長10メートルを超える巨体が見えるようになる。


 目の前に迫る魔物を前に部隊の隊長を任された騎士が右手を前に出して声を張り上げた。


「放て!」


 壁の上にいた兵士たちから矢が放たれる。


「硬い」


 終焉の獣に矢が当たるものの全て弾かれてしまう。

 しかも、矢が当たっても気にした様子がない。


「【火球(ファイアボール)】」

「【水弾(ウォーターバレット)

「【風刃(ウィンドエッジ)】」


 壁の上にいる魔法使いたちの手から次々と魔法が撃ち込まれる。威力よりも手数を優先させているため攻撃の手が尽きる様子はない。

 強力な魔法が次々と撃ち込まれ、爆発や光によって眩しくなる。


 多くの魔法に終焉の獣が足を止める。


「今だ!」


 指揮官の命令によって一斉に魔法と矢が放たれる。

 爆発音、そして土煙が上がって周囲を砂が茶色に染めていた。


「これだけ撃ち込めば――っ!」


 魔法の威力に安堵する隊長や魔法使いたち。

 しかし、立ち込める土煙を突破して無傷な終焉の獣の姿が見えるようになると息を呑む。

 あれだけの攻撃をしたにもかかわらず、できたのは足止めだけ。


「だが、足止めはできる!」


 自身を鼓舞した隊長の指示に従って攻撃が再開される。

 何度も撃ち込まれる矢や魔法。終焉の獣はゆっくりとした速度でしか前へ進むことができない。


『むぅ……』


 唸る終焉の獣。


「おい」

『なぁに?』


 終焉の獣の背中から騎士が顔を出す。


「お前にとって障害となるのは魔法だけだ。なら、尾を使え」

『わかった』


 アドバイスをする騎士。

 親と慕う騎士の言葉に従った終焉の獣の後ろから黒い腕が広がって魔法へ触れていく。

 すると、迫っていた魔法がすぅと消えてしまった。


「まさか!」


 信じられない、といった様子で目の前の光景を見る隊長。

 考えられたことではある。人の魂を触れるだけで捕食してしまう黒い腕。あの腕ならば魔法を分解して喰らうことも可能ではないか.

 その予想は当たってしまった。


『もう行くね』


 一気に駆ける終焉の獣。

 どうやら籠城戦はここまでのようだ。


「はぁ!」


 ラテルの剣が終焉の獣の腕を斬る。


「昨日のリベンジだ」


 さらにキュロスの斧が足に突き刺さる。


『いたい』


 猿の手を広げて足元にいる斧を振った姿勢のままのキュロスを掴もうとする。

 そこへ、大盾を装備した騎士が駆け付けて手を受け止める。


「そっちの手による攻撃なら受け止められる」


 腕を斬って後ろへ移動したラテルには黒い腕が迫っていた。


「誰か助けてくれ」


 ラテルには剣で斬るぐらいしかできない。

 いくつか【剣技】のスキルは所有しているものの物理攻撃によるもの。黒い腕を迎撃できるものではない。


 黒い腕へ魔法が当たって爆発が起こる。


「助かったよ」


 砦の上を見れば笑顔になった魔法使いが指を立てている。


「ここからは白兵戦だ。全力で行くぞ!」

『おぉ!』


 武器を手にした者たちが一斉に襲い掛かる。


『うるさいな、もう……』


 空へ飛び出した黒い腕。

 一気に騎士や傭兵たちを狙って下へ落ちてくる。しかも、全方位にいる者を狙った攻撃だ。


「か、回避っ……!」


 魔法でなければ迎撃はできない。

 魔法使いたちは戦力を集中させるために全員が壁の上にいる。黒い腕には各々が対処しなければならない。


「二人とも!」


 叫んでから上へ向かって飛び出す。

 剣を振るって頭上から迫る黒い腕を消す。さらに魔力を剣に流し込むと斬撃を飛ばして黒い腕を斬る。


 左を見れば白い鎧を纏ったシルビアが盾を上に掲げていた。盾を中心に光る障壁が展開されて受け止めた黒い腕を次々に消していっている。受け止めた物へ衝撃を跳ね返す盾。魔力を与えることによって同様の効果を持つ障壁を展開させることができる。


 右を見れば赤い鎧を纏ったアイラが双剣を黒い腕へ振っている。刀身の周囲を魔法で作り出した風の刃によって震わせて威力を高めることができる剣。鎧を纏っているにもかかわらず身軽な動きで黒い腕を次から次へと斬っていく。


 黒い腕による一斉攻撃による犠牲はない。


「今だ!」


 一斉攻撃は終焉の獣にとっても必殺だったのだろう。

 攻撃した直後で動きが止まっているところへ騎士たちが殺到する。

 至る所が斬られ、潰される。


「おかしい」


 この程度のはずがない。

 今よりも人々が強く、技術が発展していた太古においても終焉の獣を討伐するには多くの犠牲を払った。


『もういいよ……』


 黒い腕が飛び出す。

 至近にいた騎士たちが攻撃されないよう離れる。

 しかし、終焉の獣の目的は騎士たちではなかった。近くにあった地面へと潜り込んでいる。実体がないため、あらゆる物をすり抜ける黒い腕は地面を一切傷付けることなく奥へと進んで行く。


『止めてください!』


 シルビアから念話が飛ぶ。

 同じようにすり抜ける能力を持っている彼女には終焉の獣の狙いが分かった。


 言われるままに目の前にあった腕を斬る。アイラも同じように斬ってくれる。体と繋がっていた腕が切り離されたことで目論見を潰すことができた。

 だが、すぐに新しく飛び出してきた黒い腕が全く違う場所へと潜っていく。


 斬撃を飛ばして斬る。

 それ以上に新たに出てくる方が多い。


『止められませんでした。離れてください』


 斬るのを止めて終焉の獣から離れる。


「なっ……」


 改めて見た終焉の獣の体から大勢によって攻撃されたことによる傷がなくなっていた。


『キマイラと同じか』


 デイトン村の近くで戦ったキマイラも瘴気を吸い上げることで傷を癒し、失った体を再生させていた。

 同様に終焉の獣も瘴気を吸収することによって傷を癒すことができる。


「こんな奴どうやって倒したんだよ」


 硬い体と再生能力を持つ魔物。


 黒い腕を自らの前面に集中させると固めて壁を作る。


『ばぁ!』


 花が開くように全方位へと広がっていく黒い腕。


「あ……」

「そ、んな」


 回避できない攻撃に何人かが触れる。


「後ろへ」


 シルビアが盾を構えて障壁を展開する。

 障壁に黒い腕を防ぐ力があることを知っているため次々と後ろへ集まる。


「ぐぅ……」


 ――ピシ、ピシ


「なあ、マズくないか」


 ひび割れるような音が聞こえて騎士の表情が青褪める。

 その考えは正しく、殺到した尾に障壁を維持する為に消費した魔力が喰われたことによってヒビが生まれていた。


「もう、無理……」


 黒い腕の圧力に耐え切れなくなった障壁が粉々に砕ける。

 砕けたことで発生した衝撃が人々を吹き飛ばし、砦の門へ叩き付けられる。


「おい、こっちだ!」


 門の傍にある通用口が内側から開けられる。

 屈んだ人がギリギリ通れる大きさ。鎧を纏った状態だとつっかえそうになるので体を丸めて潜り抜ける。


『今度こそ逃がさないよ』

「足を止めろ!」


 矢と魔法が大量に撃ち込まれる。

 そうして稼いだ時間の間に外へ出ていた全員が砦内へと退避する。


 直後、砦の門が大きく揺らされた。再び集められた黒い腕が門へ叩き付けられたが、耐えたことで揺れていた。

 砦は黒い腕を受け止めることができる。


『あれ?』


 首を傾げる終焉の獣。

 今は少しでも得られた時間で回復する必要がある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ