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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第6章 没落貴族
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第2話 剣の境地

 迷宮の入口裏へと転移すると受付をしているアルミラさんの目を盗んでこっそりと離れた場所へと移動し、何気ない会話をした後で迷宮へと入る。

 そのまま再び転移で地下25階へと一瞬で移動する。


 地下21階~25階は鉱山フィールドと呼ばれる場所でゴツゴツとした岩山に囲まれた場所だ。ここでは、岩石系の魔物やゴーレムのような硬い体をした魔物が現れるが、冒険者の目的は魔物ではなくフィールドで採掘できる鉱石にある。

 一番多く産出されるのは鉄鉱石だが、たまに金や銀が採掘されることがあるので構造変化によって採掘された鉱石が補充された後は、多くの冒険者が一獲千金を目指して長時間採掘に励む。


 地下21階はそれなりの実力がある者なら、到達は比較的容易だ。

 採掘には時間が掛かるので多くの魔力を得ることができる。迷宮全体で見れば得られる魔力が多いのは鉱山フィールドだろう。


「とりあえず地下25階には来たけど、目的のミスリルゴーレムはどこにいるんだ?」

『えっとね……』


 俺の脳内に迷宮の地図が表示され、今いる転移結晶が青い点で表示され、目的のミスリルゴーレムが赤い点で表示される。随分と分かり易くなった。

 ミスリルゴーレムがいる場所まではそれほど離れていないので一般的な冒険者の走る速度に合わせても30分以内には辿り着く。いや、向こうからこっちに近付いて来ているからもっと速く辿り着きそうだ。


『いや、急いだ方がいいかもしれない』

「どうして?」

『5人の冒険者が追われている』

「それは、助けないといけないな」


 迷宮主の目的は、多くの冒険者を呼び寄せて彼らから魔力を得ることにある。決して殺したり、傷を負わせたりして2度と迷宮に来ないようにしてはいけない。

 一獲千金を狙える場所。そう思わせるのが大切だ。


「行くぞ」


 シルビアとアイラを先導する。

 迷宮操作を持たない彼女たちでは迷宮の地図が表示されないので、ミスリルゴーレムまでの最短距離が表示されない。


 鉱山フィールドに近道など存在しない。地道に岩肌の地面を走る。


 数分走っていると向こうから走って来る冒険者3人の姿が見える。

 その姿は何かから逃げているようだった。


「あんたたち今日はこの先へ行かない方がいいぞ」

「何かあったんですか?」

「本来ならボス部屋から出てこないはずのミスリルゴーレムが部屋から出て来たんだ」


 地下26階への転移魔法陣はミスリルゴーレムの奥にあり、倒さなくてもいいが転移魔法陣を使用することによって先へと進むことができる。


 ミスリルゴーレムは常に転移魔法陣を守るように鎮座しており、転移魔法陣のある部屋から出ることはない。そのため転移魔法陣のある部屋はボス部屋と呼ばれるようになっていた。

 地下25階でいつまでも採掘を続けている冒険者の多くがボスであるミスリルゴーレムに勝てるだけの実力がない、もしくは勇気がないために地下25階で採掘を続けて稼いでいる冒険者だ。

 たまたま地下26階を目指している冒険者がいなければ倒すのは難しい。


「いや、そのミスリルゴーレムなら俺たちで倒します」

「君たちが? だが、その装備では……」


 冒険者が言いたいことは分かる。

 剣士が2人に、盗賊が1人。

 しかも装備は全員が形は違っても剣。


 ゴーレムを倒すには魔法でダメージを与えて、弱ったところを斧や槌のような重量のある武器で倒すのが一般的だ。剣でダメージを与えるのは難しい。


「ま、なんとかなると思うので大丈夫ですよ」

「そうか……冒険者なら引き際ぐらい心得ていると思うから無茶だけはするんじゃないぞ」


 やっぱり俺たちがミスリルゴーレムを倒せるとは信じていないようだ。

 ま、通りすがりの彼らはどうでもいい。


 再び走り出し、10分もすると重い地響きが聞こえてきた。

 ミスリルゴーレムが歩いたことによる足音だ。


「あの……わたしの知識が正しければミスリルは硬いにもかかわらず軽いことで有名な金属だったと記憶しているんですけど……」


 軽い金属ならこんな重たい足音が響くはずがない。

 そういうことだろう。


「はは、すぐに見えるだろうから会えば分かるよ」


 そのまま走っていると先ほどと同じように冒険者が前から走って来た。

 ただ、先ほどと違うのは、そのすぐ後ろに人のように手と足が付いた金属の塊が緩慢な動きながら歩いていたことだ。


「大きい……」


 アイラが呟いたようにミスリルゴーレムは体長が5メートルある。

 体は人の形をしてはいるが、ずんぐりむっくりと太く大きな姿をしているので体長が5メートルもあれば全体の総重量を考えれば軽いはずのミスリルでも相当な重さになる。


「こいつは俺たちが倒す。お前たちはさっさと転移結晶へ急げ」

「……すまん!」


 ここまで来ればボス部屋にある転移魔法陣を使って地下26階に降りて転移結晶を使った方が早いのだが、その為にはミスリルゴーレムの横を掻い潜って駆け抜ける必要がある。

 彼らにはその勇気がなかった。


「色々とあったが、ここからが本番だ」

「そうですね」


 ミスリルゴーレムが拳を叩き付けてきたので、俺とシルビアが飛び退く。

 拳が叩き付けられた地面には穴が開き、ミスリルゴーレムに相当な力があることが分かる。

 だが、そんなものは関係ない。


 昔の偉い人も言っていた。

 ――どんな強い攻撃も当てられなければ意味がない。


「アイラ!」


 ミスリルゴーレムの拳の先にはアイラが立っており、囮になっていた俺たちを攻撃するために振り下ろした腕の上を駆け抜けてミスリルゴーレムの頭上まで辿り着く。

 ゴーレムの弱点は、ミスリルゴーレムに限らず基本的に胸の中心にある。

 弱点の位置を知っていたからこそアイラは迷うことなく剣を振り抜き、胴体を斬り付ける。


「明鏡止水!」


 イメージを補強する為にスキル名を口にする。

 しかし、聖剣ブリュンヒルドはミスリルゴーレムの体を30センチほど斬っただけで終わる。咄嗟にブリュンヒルドを引き抜くと地面に着地すると同時にミスリルゴーレムから離れる。


 アイラが着地した場所にはミスリルゴーレムの拳が叩き付けられていた。


「そんな、斬れると思ったのに」


 いや、あれは眷属のステータスとブリュンヒルドの性能に任せて斬っただけに過ぎない。

 ミスリルを斬る為には『明鏡止水』が必要になる。


 アイラはミスリルゴーレムの大きな体を前にしたことで斬ることを焦ってしまっている。それでは剣の境地に立ったとは言えない。


 仕方ない。ここは見本を見せることにするか。


「こうやるんだよ」


 何気なく振り下ろした神剣がミスリルゴーレムの5本の指を全て斬り落とす。

 地面にはミスリルの塊だけが残る。


「なんで、使えるの!?」

「俺は眷属も含めて迷宮に関連する全てのスキルや魔法が使えるんだ。これでも剣を武器に戦っているんだから、ちょっと使い方が分かれば簡単に斬れるようになるのが『明鏡止水』なんだよ」

「でも……」


 俺が簡単に使えたことに対して何か言いたそうにしている間にミスリルゴーレムが斬られていない腕でアイラを掴もうと腕を伸ばす。


「このっ!」


 同じようにゴーレムの指を斬り落とそうとするが、親指を斬り落とすことに成功しただけで人差し指に聖剣が突き刺さる。

 突き刺さった聖剣を掴んだままミスリルゴーレムが手を大きく振り回すとアイラの体も振り回され、振り回しているうちに剣が抜けてしまいアイラの体が宙を舞う。


「もう、どれだけ硬いのよ」


 苛立たしく自分の持つ聖剣を見つめる。

 アイラがミスリルゴーレムを相手に戦えているのは俺に与えられたステータスと聖剣があるからだ。

 彼女自身の力で勝つためにはスキルが必要になる。

 だが、1人ではまだ自由に発動させられないようだ。


「シルビア」

「はい」

「あの時みたいにちょっと煽ってやれ」

「分かりました」


 シルビアは俺に言われる前にこの事態になった時のことを考えていたらしく、すぐに行動に移してくれた。


「情けない姿ね。こんなのが仲間だと思うとわたしの方も情けなくなってくるわ」

「なによ!?」

「だって、そうでしょう。スキルさえ使えれば簡単に倒せる相手なのにスキルが使えないから倒せない。わたしは自由にスキルを使えるからミスリルゴーレムを相手にしても簡単に勝つことができるわ」


 実際、シルビアは『壁抜け』を使用すれば、どれだけ強固な金属に守られていても急所である核を一撃で破壊することができる。素材を売ることを考えればシルビア以上にゴーレムを倒す適任はいない。

 だが、今日のところはアイラに『明鏡止水』を自在に使えるように習得してもらうことの方が大切だ。


 その後もシルビアが煽って、アイラが反論している。

 いつかの模擬戦の時とは全く逆でアイラが翻弄されているが、これはある意味で2人の仲が良くなった証拠だ。アイラも遠慮がなくなっている。


「邪魔!」


 突然、アイラがミスリルゴーレムに向かって剣を振るう。

 すると胸の辺りで真横に斬られたミスリルゴーレムが核を斬られて機能を停止する。


 え~、明鏡止水が使えたのは嬉しいけど、あれでいいのか?


 本来なら雑念を振り払った状態で使われた斬撃の威力が増強されるというものだが、アイラは斬った瞬間に相手への怒り以外の雑念が消えた状態だった。

 どうやら、シルビアと口論している状態でズシンズシンと重たい足音を上げられることが気に障ったらしい。

 果たして、それで剣の境地に達したと言えるのか?



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