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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第31章 黒影傭兵
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第21話 終焉の獣③

三人称視点です。

「止めるぞ!」

「はい!」


 リオとマリーの二人が駆ける。

 目標は、何百本という数の黒い腕が出ている中心。

 そこにある何かを破壊することができれば止めることができるかもしれない。


 5本の黒い腕が近付く二人に気付き殺到する。


「邪魔だ」


 リオの持つ剣から電撃が爆ぜ、黒い腕を弾き飛ばす。


「……!」


 そこへ新たに10本の腕が上から襲い掛かる。

 5本の腕を犠牲にしての奇襲。そもそも黒い腕が何本と破壊されたところで気にした様子がない。


 リオも頭上を気にしない。

 自分には奇襲から身を守ってくれるパートナーがいる。


「できれば少しは気にしてくれませんか?」

「問題ない。お前のことを信頼している」


 マリーの魔法によって黒い腕が斬り裂かれる。


「このまま突っ込む……」

「待ってください」


 マリーの制止にリオが足を止める。

 ドッ、という音が聞こえそうなほど大量の黒い腕が正面から迫る。何百本という数が集まっているせいで壁のようにしか見えない。


 少数による魔法攻撃によって数を減らしている。

 しかし、黒い腕を失う程度は敵にとって苦痛にならない。失った分だけ次から次へと出てくるため終わりがない。


「つぅ!?」


 黒い壁に対して剣を叩き付ける。

 電撃が爆ぜ、黒い腕を削るがそれだけだ。後から押し寄せてくる攻撃にリオも成す術がない。


「失礼します」


 リオの肩に手を置いたマリーが【跳躍】を使用する。

 直後、リオがいなくなった場所に黒い腕が殺到して埋め尽くされる。


「助かった」

「いえ、これぐらいは大したことありません」


 再編成されている帝国軍の近くへと転移したリオとマリー。

 突如として現れた二人に困惑する将軍や騎士たちだったが、もう気にしていられる状況ではない。


「そっちはどうなった」

「問題ありません。いつでも行けます」

「……被害は?」

「集められたのは2千人ばかりです」

「そうか」


 5千人以上が犠牲になっていた。

 ただ、村の救援へ来ただけならこのような事態にはならなかった。さすがに軍隊として機能しなくなり、全員が殺し合うような事態に発展し、触れただけで死んでしまうような攻撃に晒されるとは思っていなかった。

 予想できていれば他にもやりようはあった。


「どうしますか?」

「さて……アレが何なのか全く見当もつかない」


 【鑑定】を使用しても反応がない。

 黒い腕によって妨害されている訳ではなく、迷宮とは全く関係のない物だ。


「ちょっといいか?」


 一人の男性がリオに声を掛ける。

 “大熊”キュロスだ。


「何か気付いたことでもあるのか?」

「あの黒い腕についてはサッパリ分からん。だが、一つだけ気付いたことがある。それを確認する為にも行動させてほしい」

「いいだろう。今は少しでも情報がほしい」

「おう、ありがたい」


 キュロスが村へ向かって走る。

 生きている人間がいることに気付いた黒い腕が餌を求めてキュロスへ手を伸ばす。


「ふん、ガキが」


 重たい斧を振り回す。

 斧と腕が衝突した瞬間に腕が大きく弾かれる。


「魔法効果を持つ斧による攻撃でも十分に効果があるらしいな」


 キュロスの斧には叩き付けた瞬間に衝撃を発生させる魔法効果がある。

 斧を使い慣れている甲斐あって黒い腕が大きく吹き飛ばされる。


 反抗する餌に怒った腕が3本集まる。しかし、集まったのはそれだけだ。餌は他にもある。キュロスに固執する必要はない。


「悪いが、お前さんに構っている暇はない」


 黒い腕へ背を向けて走り出すキュロス。

 その背を追って黒い腕が飛び交うものの後ろに目でもついているのかと思うほど適確に回避されるせいでキュロスの体を掴むことができずにいた。


「もう、遅い!」


 目標が見えた。

 手にした斧を地面に叩き付けて衝撃を発生させる。衝撃を受けることを嫌った腕が迂回する。

 十分な時間は稼げた。


 斧を手に敵へ突っ込む。


「ひっ!?」


 自分へ迫る斧を見て情けない声を上げる者が一人。

 思わず目を瞑ってしまう。


「あ、ひゅ……」

「さて、知っていることを全て洗いざらい話してもらおうか」


 キュロスに首を掴まれて男が持ち上げられる。


「一体、何のこと……?」


 村の中を走っていたキュロスの目標は黒い腕や大元ではなく、この男――王国の騎士だった。


「惚けても無駄だ。オレは気付いているぞ」

「だから、何を……」


 首を掴まれている騎士は弱々しい声しか出せない。

 いくらキュロスが強かったとしても騎士の方には大した実力がない。


「これだけ言っても分からんか。だから……」


 キュロスが周囲を見て目を見開く。

 リオにしたように黒い腕が壁となって左右から圧し潰す勢いで迫っていた。さらに背後からも何十本という腕が飛んでいる。


「やはりオレの考えは間違いではなかったか」

「そうですよ。貴方はここで死になさい」


 それまでの弱々しい声とは打って変わって表情を喜悦に歪ませた騎士がキュロスを見ながら笑う。

 左右と背後から攻められているキュロスだったが、正面――騎士のいる方からは一本も迫っていない。これは、黒い腕が騎士を巻き込んでしまうのを恐れたためだ。


「オレもここまでか」

「いいえ、素晴らしい働きでした」


 キュロスの背後にマリーが姿を現す。

 未来が観える彼女には最初からキュロスが何をするのか、何が起こるのか見えていた。

 それでも相手の騎士を捕らえる為にはキュロスの協力が必要不可欠だったため観た通りに未来を進め、ギリギリのところで救援に跳んだ。


「【跳躍】」


 黒い腕によって覆われる直前にマリーとキュロス、そして掴まれていた騎士が元の場所へ戻る。


「お前が言いたいことは分かった」

「ひぃ!?」


 目の前にいるのは皇帝。

 平民よりも高い地位にいる騎士だが、皇帝と比べたなら微々たる差でしかない。

 しかも今は睨み付けられているため尻餅をついて後退りしてしまう。


「さっきのを見させてもらった」

「一体、何のことを……」

「惚ける必要はない。キュロスを狙っていた黒い腕。あれだけ至近距離にいたんだからお前が巻き込まれても仕方ない。だが、黒い腕はお前が巻き込まれないよう動いていた。黒い腕による意思なのか、それともお前の指示なのかは分からない。それでも何かしらの関係があるのは間違いない」


 少なくとも黒い腕にとって騎士は味方だ。


 騎士の表情が変貌する。

 自らの失態を言い当てられたことで自分たちの関係性を認めることになった。


「正解だ。あいつは私だけは襲わないようになっている」


 「やはりな……」と呟く声が聞こえる。

 キュロスだ。


「戦場を見ていて気付いたが、お前は村の中にいたのに狂っていなかった。おまけに黒い腕が暴れるようになった後は全く襲われていなかった」


 まるで避けるように騎士だけが襲われていなかった。

 その瞬間を見ていたキュロスは、何かあると思って見張り続けていた。


「今度こそ知っていることを全て話してもらおうか」

「それは困るので辞退させてもらう」

「なに……?」


 その時、リオたちへ再び黒い腕が殺到する。

 腕が向かう場所は騎士の目の前。

 近くにいたリオたちは飛び退く。しかし、3人の兵士が間に合わなかったため黒い腕に取り込まれてしまう。


「がぁ!」

「ぎゃあ!」

「助け、て……」


 短く小さな痙攣をしてから3人が死体となる。


「そろそろ満腹になったんじゃないか?」

『ううん。まだ』

「それは困った。けど、満腹になるまで食べると眠くなって遊べなくなるぞ」

『あそべないの……いやだ!』

「だったら、そろそろ出ておいで」

『わかった』


 腕が出ていた場所に展開されていた魔法陣。

 そこから一体の黒い猿が出現する。大きさは巨大魔物と匹敵する10メートル以上。尻尾のある場所から真っ黒な腕が何本も飛び出してユラユラ揺れている。


『あそぼう』

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