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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第31章 黒影傭兵
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第19話 終焉の獣①

 戦場の中を皇帝と騎士が駆ける。


「見つけた!」

「おらぁ!」


 帝国軍を見つけたことで王国軍から純粋な殺意が叩き付けられる。


「ひぃ!?」


 皇帝を護衛していた騎士が悲鳴を上げる。

 彼も騎士として戦場で活躍したことがあるし、普段から危険な場所で仕事をしているため殺意には慣れている……つもりだった。


 相手を殺す。

 その一点のみを追求した想いは騎士すらも怯ませる。


「しっかりしろ」


 襲い掛かろうとしていた二人の王国兵士が吹き飛ばされる。

 見れば自分が護衛しなければならない皇帝が剣を振りかぶっていた。


「ここで足を止めるか?」


 彼にも騎士としての矜持がある。

 正気を保つことできているにも関わらず、護衛対象を危険に晒すなど許せるはずがない。


「行きます!」

「なら、ついて来い」


 戦場にあっても威風堂々とした姿。

 それは、見る者について行きたい、と思わせる魅力があった。


 仲間の騎士も傍にいる。

 再び全力で駆け出すと村の中へと突入する。


 それほど大きくない村。中心へ行くのに時間は掛からない。

 その思いが油断を招く。


「しゃあっ」


 村の入口で潜んでいた8人の兵士が飛び出してくる。

 潜伏能力が優れているため戦闘能力は騎士が脅威に思うほどではないが、不意を突かれたため非常に危険な状態だ。


 リオは気付いていない。

 というよりも見る気がない。


「進め」


 真っ直ぐに前しか見ていない。

 横から迫る男たちは眼中になかった。


 だが、それでも問題なかった。

 飛び出してきた8人の男たちの内、4人が地面にある出っ張りに躓いて転ぶ。さらに一人が投げられた石を額に受けて倒れ、もう二人がリオの隣から飛び出した一人の女性の手によって腕や足を斬られる。


 リオの眷属であるマリーだ。

 不意を突いたつもりなのだろうが、マリーの持つ【未来予測】の前では何の意味も成さなかった。逆に隠れている位置を知られたことによって動きを阻害する罠を用意された。

 さすがに全員の位置を瞬時に把握したため微妙にズレが発生してしまい、半分を取り逃がしてしまった。


「で、一人残ったわけですね」

「……」


 無言で二本の短剣を構える男。

 マリーの放つ斬撃すら全て捌き、生き残ることに成功した。


「おそらく隠密部隊の隊長っていうところですか?」


 それならば一人だけ残ることができた理由も分かる。


「マリー様!」

「大丈夫」


 明らかに強いと思われる騎士を相手に飄々とするマリー。

 彼女は皇帝の側室なので騎士が守らなければならない存在だ。それに本来ならこのような戦場に来てほしくない人物。


 暗殺者のような王国軍の騎士が身を低くする。

 それだけで気配が希薄になる。何らかの特殊なスキルを使用しているのかもしれない。


「くっ!」


 剣を構えた騎士がマリーの前に出る。


「もう、大丈夫なのに」


 身を低くしたまま駆ける。

 が、最初の一歩を踏み出したところで派手に転ぶ。不意の一撃を受けた為に全く抵抗ができていなかった。


「だから大丈夫だと言ったではないですか」


 倒れた騎士の後頭部にはナイフが刺さっていた。

 たしかにマリーの魔法技術では全員を止めることはできない。それは最初に未来を観ていた時に分かっている。だからこそ回避された後への行動を事前に行っていた。


「魔法で風を操って全員がいる場所へ事前に飛ばしていただけです」


 マリーを標的へ定めており、最も警戒の薄れる背後からの奇襲。

 未来が観えていた時点で、ただ隠密能力が高いだけでは回避できなかった。


「大盾隊2時の方向に向かって構えて」

「え、はい!」


 騎士隊への命令権は、いくら側室とはいえマリーにない。

 それでもマリーの戦う姿を見ていた騎士たちは、彼女の姿に恋い焦がれて手にしている大盾を構える。

 すると、数秒後に矢が飛んでくる。


 初めから構えていたため飛んでくる矢を正確に捉えることができる。


「あなたは1時の方向へ矢を3本射ったら、後ろへ2本、左へ1本。一呼吸置いてから右へ2本射ってください」


 弓が得意な騎士の耳元で指示を囁く。

 言われるままの方向へ矢を射ると突撃してきた兵士へ次々と矢が突き刺さる。狙いをつける必要などない。まるで、敵の方から当たりに来ているように射ることができる。


「こんな、こと……」


 今までに体験したことのない状況に困惑する騎士。

 そこを狙って一人の騎士が剣を構えながら突撃してくるが、マリーの蹴りによって吹き飛ばされる。


「ボサッとしない」

「し、失礼しました!」


 マリーが上空へ向かってナイフを投げる。

 敵を斬り殺す以外に興味のない敵は、投げられたナイフがどうなったのか見ることもなく突っ込んでいく。


 もっとも、彼らが標的に辿り着くことはない。

 取り囲んでから突撃してきた兵士の首に上から落ちてきたナイフが突き刺さり倒されていた。


「全員、後ろへ退いてください」


 マリーの指示に従って下がる。

 その場所を炎の渦が駆け抜ける。

 魔法使いによる攻撃だ。


「がぁ……!」

「これ以上、魔法を使われても面倒ですからね」


 ローブを纏った魔法使いの喉にナイフが突き刺さっていた。

 これがマリーの戦い方。ステータスが戦いに向いている訳ではないマリーは観測した未来から多彩な動きを繰り出し、常に相手の一手も二手も先の行動を起こす。対抗するには彼女が観る未来以上の速さで動かなくてはならない。


「それに、もう終わりました」


 マリーが村の中心を見ればリオが一軒の家へと入って行くところだった。


「私たちの役割は、リオが目的地に辿り着くまでの時間を稼ぐことと敵の意識を集めること」


 目論見は達成され、リオを止める者は少数しかいなかった。


「後は探すだけですね」


 そこに【鑑定】が不可能な物体があるのは間違いない。阻害している狂気そのものは村全体へと広がっているが、見られることを嫌がるように狂気を集めている物がある。


「私たちの邪魔をしたいのでしょうが、隠すことによって『何かがある』と言っているようなものです」


 リオが家に入ってから数十秒。

 後は、異常さえ完全に排除してしまえば村での事件も収束する。


「……!? ダメです!」


 マリーが叫ぶ。

 【未来観測】によって観えてはいけない未来が観えてしまった。

 彼女のスキルも万能ではない。情報が揃っていなければスキルは発動しない。家の中に何があるのか、何が狂気を振り撒いているのか分かっていなかった。

 そのため戦場の様子を見ているだけで敵軍の動きを未来まで含めて知ることができたとしても、リオが突入することによってどのような未来が生まれるのか予測することができなかった。

 それでも、皇帝となったリオは突入せざるを得なかった。


 リオの突入した家が内側から衝撃によって吹き飛ばされる。


「陛下――」


 その衝撃は離れた場所にいるマリーたちにも届く。

 衝撃に耐えながらリオの身を案ずる。

 誰よりも心配しているのがマリーだ。彼女にとってリオは自らの夫である以上に救世主という意味が強い。もはや、彼なしでの人生は考えられない。何よりも、眷属なのだから主を必要としている。


「お願いだから、無事でいてください……」

「問題ない」

「リオ!」


 マリーの隣に上空からリオが落ちてくる。

 吹き飛ばされただけで大きなダメージはない。


「本当に大丈夫なの!?」

「ああ。それよりも俺が近付いただけで防衛本能が働きやがった」

「防衛本能?」


 その時、マリーの中で情報が揃う。

 観測した未来は最悪とでも言うべき未来だ。


「今までの惨劇は、この為に起こされたものだったのですか!?」


 リオが突入した家があった場所。

 そこから真っ黒な腕が10本――5対飛び出してきた。

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