第1話 魔力変換
新しくアイラをパーティに加えた俺たちだが、基本的に冒険者は依頼主から出された依頼をこなして報酬を貰って生活をするというのは変わらない。
今日も近くで出没した魔物の討伐依頼を終えて街へと帰るところだ。
俺の場合は、職業欄に冒険者と『迷宮主』がある。
迷宮が円滑に稼働するように構造や出現する魔物を調整する。
だが、たまにだが俺の支配から逃れた魔物が出現し、迷宮から逃れる為に上の階層へと向かってしまうことがある。迷宮の中にいる冒険者で対処できれば強い魔物の素材が手に入るので問題ないのだが、さすがにレベル120の魔物は簡単に対処することができない。
『ちょっと、討伐に向かってくれない?』
俺の頭の中に少年のような声が響き渡る。
この声の持ち主は、迷宮の最下層で実際に迷宮の管理を行っている大きな水晶――迷宮核によるものだ。
声が聞こえたのは俺だけでなくパーティ全員に聞こえているようで、意識を脳内へと向けていた。
脳内に響く声は、頭の中で考えた言葉が相手に伝わる念話によるもので、スキルに迷宮同調を持っている者に届けることができる。これにより迷宮核を含めた俺たちパーティは距離に関係なく連絡を取り合うことができる。
「いいけど、対象はなんだ?」
『ミスリルゴーレム』
「無茶苦茶硬い奴じゃないか」
魔法を使えば倒せなくはないが、倒して得られるミスリルの塊のことを思えば魔法によって広範囲を焼いたり傷付けたりするのは得策ではない。素材のことを考えるならゴーレムの急所とも言える核を一撃で粉砕するべきである。
金に困っているわけではないが、少しでもあった方が嬉しい。
そういえば、アイラにはまだプレゼントをしていなかったな。
「アイラ、どうせだからお前に任せたいと思うけど、どうだ?」
「あたし? 今のステータスで斬れるかな?」
アイラは剣士だ。
パーティを組んで戦闘を行うようになった今は、パーティにおいて前衛を担ってくれている頼もしい仲間だ。
だが、剣士である以上、硬い体を持つゴーレムが相手では分が悪い。生半可な筋力では傷を付けることすら叶わず、武器も一流でなければアイラの全力に耐えることができない。
現に昔から使っている剣では、アイラの全力に耐えることができないので現在はステータスを抑えた状態で戦っていた。それを少し不憫に思っていたのでシルビアと同じように強力な装備品をプレゼントしたいと考えていた。
しかし、確実に欲しい装備品が手に入る『迷宮魔法:宝箱』を使用する為には迷宮が蓄えた魔力が必要だった。しかし、今月の内に2人目の眷属まで手に入るとは思っていなかったので迷宮の魔力はギリギリだった。
「まずは、最強クラスの剣でも渡すことにするよ」
「最強クラスって……」
そう、簡単に渡せるような代物ではないことは分かっている。
「迷宮の魔力は足りているんですか?」
1歩引いた場所から話を聞いていたシルビアが尋ねてくる。
アイラのパーティ加入と同時に喧嘩を始めてしまった2人ではあるが、普段は俺のことを気遣って仲良くしている。ただ、衝突する時はかなり激しい喧嘩が巻き起こる。2人のステータスだとちょっとした喧嘩でも余波で周囲が酷いことになるから止めてほしいんだけどな。
「ぶっちゃけ足りない。けど、やっぱりこのお金を使うことにする」
「それって、あたしがあげた賞金?」
俺が収納リングから取り出した皮袋を見てアイラが呟く。
歓迎会の後、賞金から支払いを済ませ、最低限の生活費だけ抜き取ると残額は全て俺に渡して来た。その日からアイラも俺の屋敷に住むようになったので生活費は本当に最低限で、賞金のほとんどが俺の手元へとやって来た。
どうやら色々なお礼としてアイラは渡してくれたらしい。
彼女から貰ったお金を使ってプレゼントするのは少々気まずいが、こういう風に使った方が彼女も納得してくれるだろう。
賞金でもらった金貨100枚から差し引いた食事代や生活費の分を俺の方で補充してきっかり金貨100枚にしてから新しく得たスキルを使用する。
『魔力変換』
迷宮に価値のある物を与えることで魔力へと変換することのできるスキル。
このスキルを使用して金貨100枚を魔力に変換したことによって迷宮が魔力を10万も得た。金貨1枚で魔力1000か。こんなスキルが手に入るなら魔剣を溶かしてしまったのは惜しかったな。けど、スキルが手に入るタイミングについては確実なことが分からない。魔力変換はアイラの歓迎会を終えた後で何気なく自分のステータスを確認するといつの間にか増えていたことに気付いた。少なくとも辻斬に戦いを挑む前にはなかったはずである。
それでも、これだけあれば最高級の剣1本ぐらいなら手に入る。
「ほら」
「わわっ」
俺が宝箱から銀色に輝く刀身を純白の鞘に納められ、真っ白な柄をした剣を投げ渡すとわたわたしながらもどうにか受け取る。
「うわ、よかったじゃない」
シルビアも自分のことのように喜んでいる。
「こんな凄そうな剣を貰ってもよかったの?」
「いいんだよ。お前は俺に借金があるわけでもないんだから、俺からのプレゼントはしっかりと受け取っておけ」
「ありがとう。あたしだと宝箱は使えないから凄く嬉しいわ」
アイラが言うようにシルビアもアイラも宝箱を使用することができない。
それだけでなく2人とも迷宮魔法を持っているにもかかわらず、使える魔法と使えない魔法があり、アイラは前衛で攻撃に使えるような魔法に適性があり、シルビアは偵察系に有効な魔法に適性があった。
一方で俺は全ての魔法を使うことができる。魔法だけでなく2人の固有スキルであるはずの『壁抜け』も『明鏡止水』も使うことができる。これは、2人が迷宮の一部と見做されているためだろう。
キラキラと輝く剣を空に掲げながらうっとりとした瞳をしているアイラを見ていると1つ気になったことがあった。
「そういえば、防具とかはいいのか?」
アイラの装備は武器である剣以外では、動きやすさを優先して魔法道具ですらないジャケットとズボンを履いているだけで、胸当てのような防具らしい装備はしていなかった。ただ、上下ともに白を基調とした服装なので、彼女の紅い髪も相まって人の目を引く。
前衛なのに紙装甲の装備でいいのだろうか?
「問題ないわね。女のあたしが鎧みたいな重い防具を着たらまともに剣を振るうことすらできなくなるわ」
「だったら、これもプレゼントだ」
今までと変わらない真っ白なジャケットを渡す。
剣を優先させたため魔力が足りなかったのでランクは少し下がってしまった。
「ありがとう」
早速着替えたので、それまで着ていたジャケットは俺が受け取って道具箱に収納する。
「どう?」
クルッと回って自分の姿を見せるアイラは剣士というよりは普通の女の子に見えた。
「うん。似合っているんじゃないかな」
着替える前とあまり変わらないが、なんとなく雰囲気が変わったような気がする。
「さ、迷宮へ行くぞ」
転移を使えば迷宮まであっという間だ。
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名前:聖剣ブリュンヒルド
レア度:S
効果:常時体力回復【大】 筋力上昇【大】 衝撃耐性【極】
名前:天使の戦衣
レア度:A
効果:衝撃吸収【極】
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やっぱり魔剣を追い掛けていたアイラだけに持つべき剣は聖剣にするべきだ。それに白を基調とするならイメージされるのは天使だ。一覧を見ていると名前が目に入ったので迷うことなく選んだ。
アイラの新装備
・聖剣ブリュンヒルド
・天使の戦衣