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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第31章 黒影傭兵
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第11話 クラーシェルへの戦力供出-後-

「お前が来てくれて本当に助かった」


 ギルドマスターの執務室へ案内されるなり笑顔で言われた。

 私と会えたことを喜んでいるのは間違いないけど、頼りにしていたのはマルスたちを含めたパーティ。

 3年前の戦争で4人だけで戦況をひっくり返すことができたのだから、期待しないという方が無理というものだ。


「残念だけど、今回は私だけ」


 マルス、シルビア、アイラの3人は帝国側から潜入中。

 メリッサとノエルは留守番。何も仕事をしていない訳ではなく、別行動をしているため集めた情報を分析して冷静にまとめる必要がある。


「そうか」


 ギルドマスターは酷く落ち込んでいた。

 いくら私がマルスたちと行動を共にするようになってから強くなったと言っても一人で戦場を覆すのは不可能だ……そう、思われている。

 さすがに一人でどうこうするつもりはないから否定はしない。


「それよりも、さっきの騒ぎは一体なんだ?」

「お前も察していると思うが、騎士が戦力を出すよう言ってきた。もちろん強制依頼なんて断った」


 冒険者ギルドのマスターとして所属する冒険者を危険に晒すような真似をするつもりはない。

 そもそもギルドマスターは今回の戦争だけでなく、戦争そのものに反対だった。


「ただ、気になるのはあいつの態度だな」

「あいつ?」

「バーズ。俺が騎士を止める少し前に入隊してきた新人だ。先輩として少し鍛えてやったことがあるだけだ」


 先ほど騒いでいた騎士のことだ。


「昔のあいつは生真面目なところがあって融通が利かないけど、今回ほど頑固ではなかったはずなんだよな。どうにもピリピリしているような感じだった」

「戦力を求めているの?」

「そうだ。今回の戦争で王国は約8千の軍勢を引き連れている。北でガルディス帝国に釘付けになっている状況を思えば小競り合いには十分な戦力だ。それでも足りないと思っているのか冒険者だけでなく傭兵まで雇っている」


 傭兵の方には金を出していた。

 軍隊を相手にした場合なら傭兵を雇った方が効果を見込める。


「軍の奴ら、傭兵には真っ当な報酬を払っていて俺たち冒険者にははした金しか渡さないんだ。どうやら、資金が底を尽いてしまったらしい」

「えぇ……」


 傭兵を雇うには大金が必要になる。

 けど、戦争は国が行うもの。国庫を開ければ潤沢な資金が手に入るはず。


「今の国にそこまでの余裕があると思うか?」

「ないの?」

「そうだ。クーデターなんて馬鹿げたことに金を使ったせいで今年の予算のほとんどを使ってしまった」


 王族は、クーデターが起こったことを知った際に大金をばら撒いて傭兵を雇うことにした。王都からは大規模な商隊が出ているため需要はあった。

 ばら撒かれた大金は傭兵の手に渡り、逃げられた。

 傭兵を雇っても王族に味方する戦力は少なかった。

 自分たちが味方しても勝敗が覆る訳ではない。


「だから、逃げたの? そんなことをすれば傭兵としての信用が地に落ちない?」

「それは逃げたことを訴える奴がいた場合の話だな」


 王族は一人残らず処刑された。

 そのため裏切ったことを新たな王族が褒めてしまった。


「奴らは大金だけを手にして逃げ果せた。けど、そのせいで国庫が乏しくなっている」

「まさか--」

「第一の目標は略奪だ」


 帝国から金銀財宝を略奪して国庫に当てる。


「私たちは、新国家としての実績を積み上げる為とか、貴族のことを思って戦争を仕掛けるつもりなんだと考えていたが……」

「世知辛いのは国も人も同じ、っていうことだな」


 やれやれ、といった感じで手を上に向けて首を横に振る。


「どうして、お前はそんな事情を知っている?」

「バーズの奴だよ」


 ダルトンさんの質問にギルドマスターが答える。


「あいつは真面目なのはいいんだけど、真面目過ぎるところが問題なんだよ。俺が問い詰めたら本当の事情を話してくれた」


 今は出世して騎士バーズの方が地位は上。

 それでも新人の頃に鍛えられた恐怖は体の中に染み付いていたせいでペラペラと喋ってしまった。


「ただし、他の事情が絡んでいる可能性もある」

「他の事情?」

「そうだ。帝国の状況を考えれば過剰戦力もいいところだ。それなのに過剰な戦力を連れて行こうとしている。戦争なんて金ばかり掛かっていいことなんて一つもない。奴ら、勝つつもりでいるぞ」


 大戦果を挙げて凱旋する。

 名誉もそうだが、実がなければ軍を動かすことはできない。

 どこまで侵略するつもりなのか知らないけど、王国軍の規模を思えば本気で侵略に乗り気なのは間違いない。


「なにせ領主にまで戦力を出すよう言ったらしい」

「まさか」


 貴族ともなれば私的な戦力を保有している。

 アリスターは付近に魔物が多く出現するため、騎士を何名か任命し、数百人からなる兵士の指揮を任せている。


 他の貴族に比べれば多い。

 それでも、爵位に応じた戦力を保有している。

 さらにクラーシェルは国境に最も近い都市。そのため治安を維持する為にアリスター並みの戦力が求められていた。


「断ったんだよな?」

「いいや、協力することにしたらしい」

「まさか……」


 領主の参戦によって被害を受けることになるのは領軍の兵士たち。

 彼らのことを思えば可哀想になってくる。


「領主様は立派な人だ。少なくとも自分から馬鹿な戦を仕掛ける人じゃない。おそらくだけど、弱味でも握られた可能性がある。さすがに、そこまではバーズも口を割らなかった」

「冒険者ギルドとして止めることはできないのか?」

「意見ぐらいは言うことができる。こっちはクラーシェルに拠点を置く冒険者ギルド。街から兵士がいなくなるっていうことがどういうことなのか分からせる。けど、言って分からないようなら俺には何もできない」


 領主から冒険者ギルドへ命令を下すことができない。

 同じように冒険者ギルドからも意見を言う権利ぐらいしかなかった。


「だから、強制依頼は出す」


 街を守る為に残るよう依頼を出す。

 前回の戦争と同じため正当な依頼だ。



 ☆ ☆ ☆



 クラーシェルで調査をしていたイリスから念話で報告を受ける。


『という訳で、クラーシェルの領軍兵士500人も加わって9000人強がそっちへ行くことになった』

「増えたのか」


 俺たちが戦線へ参加する以上は数に意味なんてない。

 まあ、今回は見られても問題ないレベルで戦うことにする。


「強制依頼の方はどうなった?」

『ギルドの方から正式に通達があった。クラーシェルを登録している冒険者は、戦争に備えて防衛体制を維持。他の街を拠点にしていて立ち寄っただけの冒険者たちは戦火に巻き込まれないよう避難していた』

「安心しろ。その街が火に包まれるようなことにはならない」

『できればそうして。私もあの時みたいな光景は見たくない』


 幼いイリスは目の前で家族が失われ、街が崩れる様を見せつけられた。

 イリスが望むなら最大限の努力はしようじゃないか。


「それよりも気になるのは領主が弱みを握られたことだな」

『そっちは調査中。けど、時間がないから先に軍の方から調べることにする』


 王都は常に5000の軍人を抱えている。

 では、残り3000人はどこから用意したのか。

 おそらくは、王都の周辺にある町や村、それにクラーシェルへ来るまでの間に立ち寄った場所で徴兵した可能性が高い。


 かなりの数の戦力だ。

 クーデターを成功させるような人物なので人望があるのかもしれないが、領主が脅されているかもしれない可能性を考えると他の人たちも脅されているだけな可能性もある。


『それとなく潜り込んでみる』


 イリスなら故郷を守るため、という大義名分が成立する。


「危険なようなら、すぐに離脱しろ」


 何事にも自分の命を優先に行動してもらわなければならない。


『大丈夫。少なくとも心配するフィリップさんとダルトンさんに孫の顔を見せるまでは死なないって約束したから』

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― 新着の感想 ―
[一言] あくまで口調の話で 多分だけどという使い方が子供っぽいかと。 おそらくだがのほうがしっくりくるかなと思った。
[一言] >「領主様は立派な人だ。少なくとも自分から馬鹿な戦を仕掛ける人じゃない。多分だけど、弱味でも握られた可能性がある。さすがに、そこまではバーズも口を割らなかった」 ギルドマスターのおっさんに…
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