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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第31章 黒影傭兵
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第10話 クラーシェルへの戦力供出-前-

 クラーシェル。

 グレンヴァルガ帝国との国境に最も近い場所にある都市。

 何よりもイリスの生まれ故郷ということでマルスたちにとっては馴染みの深い都市の一つだった。


 普段は帝国に近い都市ということで、帝国へ行こうとしている商人たちが休んでから向かうことから多くの商人で賑わっている。国境までの間には、複数の村があるけれども余裕があるのなら村で休むよりも都市で休んでからの方が体も心も回復させることができる。

 そういった理由から都市は栄え、多くの人で賑わっていた。


 しかし、国としてクラーシェルへ求められているのは軍事都市。

 急な国からの命令によって都市は閉ざされていた。


「まったく、国のお偉いさんたちには困ったものだ」


 壮年の男性が現状を愁いる。

 この人の名前はフィリップ。

 私を育ててくれた父親に等しい人。


「やっぱり、戦争は始まりそう?」


 私の仕事は王国側の現状をリアルタイムでマルスたちに伝えること。

 今、最も必要とされている情報は王国が本当に帝国へ攻め込むのかというもの。クラーシェルなら確実な情報を手に入れられる。


 クラーシェルを離れていたフィリップさんたちだけど、故郷とも言える都市の現状を心配して戻って来ていた。

 この街で情報収集するなら彼らに頼るのが手っ取り早い。


 ということで久しぶりに昔のパーティと合流していた。


「まず、間違いなく攻め込むだろう」


 フィリップさんは、けっこう長くクラーシェルを拠点に冒険者として活動していた。

 だから冒険者ギルドにも伝手があるから、一般的な冒険者が知らないような情報もギルドに頼られたことで知っていた。クラーシェルの冒険者ギルドとしては彼らにギルドの運営に携わってほしい、と考えていたぐらいだから頼りたくなるのも仕方ない。けど、色々あって疲れたため引退を決意した。


「ギルドマスターのところへ軍のお偉いさんが戦力を供出するよう要求してきた」

「戦力、って私たちは別に軍人じゃないのに」

「あいつらには通用しないさ」


 フィリップさんに言わせると今の軍のお偉いさんは、エリート思考でガチガチに頭を固めた人たち。

 自分たちは優秀だ、という考えがあるらしい。


 それというのも不出来な国を倒してクーデターを成功させたからだった。

 新たな王と共に国を良くする。その為に必要な軍事作戦なのだから冒険者とはいえ同じメティス王国の住人である私たちが協力するのは当たり前だ、というように考えている。

 拠点を変えてあちこちを旅する者もいる冒険者。いくら今はクラーシェルを拠点に活動しているからと言ってメティス王国の住人、という訳ではない。


「強制依頼の可能性は?」


 街が危機に瀕した際、冒険者ギルドは街を守る為にその街を拠点に登録して活動している冒険者へ依頼を出すことができる。その依頼には強制性があり、止むを得ない場合を除いて引き受けなければ重たいペナルティを課すことができる。

 基本的に強制依頼が出されれば引き受けざるを得ない。


「今回はないだろうな」


 冒険者ギルドとはいえ、どんな問題に対しても強制依頼を出せる訳ではない。

 あくまでも戦争によって街が戦火に巻き込まれる場合や魔物の暴走によって壊滅的な被害を受けることが予想される場合に限られる。


「ここが戦場になる訳じゃない」


 以前はクラーシェルが戦場になったからこそ強制依頼が出された。

 しかし、クラーシェルを軍事基地に帝国へ攻め込もうとしている。

 これでは強制依頼を出せるはずがない。


「国から強制されることは?」

「それも大丈夫だ。冒険者ギルドは、あくまでも独立した組織。Sランク冒険者なんていう存在がいて勘違いされやすいけど、Sランク冒険者はあくまでも国から認められた冒険者。国が冒険者ギルドへ命令を出しても無意味だ」


 フィリップさんの話を聞いてホッと一安心。

 けれども、その日の夕方になって状況が一変することになる。


「おいおい。一体、何の騒ぎだ?」


 状況を確認する為に冒険者ギルドを訪れてみると


「お、フィリップ。それにイリスの嬢ちゃんもいるのか」

「久し振り」


 クラーシェルを拠点に活動していた頃にお世話になった冒険者。

 フィリップさんよりも少しだけ若いけど、けっこういい年齢だから前線で活躍しているような冒険者じゃない。

 それでも二十年以上もの間クラーシェルで活躍していた人の信用は高い。

 逸早く情報を手に入れることができる。


 けど、今回の騒動には関係がないみたい。

 私の目と耳にも騒動の原因が飛び込んできた。


「今こそ新たな国王の元、帝国に奪われた土地を奪い返す時だ。お前たちの中には国境の向こうにある村で先祖が暮らしていたかもしれない。そんな先祖の無念を晴らさないままでいいのか? いいわけがない!」


 どこかで聞いたような言葉……そうだ、冒険者ギルドで配られた依頼書に描いてあった言葉と同じなんだ。

 そんな言葉を発しているのは鎧に身を包んだ騎士。勲章も身に付けているから、それなりに高い地位にいる人かもしれない。


「なに、あれ?」

「俺たち冒険者にも戦場へ出るよう勧誘しているんだよ」


 少しでも戦力がほしい軍は冒険者でもほしいところだった。


「ただ、本気で雇うつもりがあるのか疑いたくなる話だったぞ」


 報酬は1日従軍して銀貨5枚。


「え、5枚だけ?」


 従軍に必要な費用は軍が負担してくれる。

 けど、装備の手入れに必要な道具なんかは必要経費として認めてくれない。


「それは絶対に引き受けない」


 いくら食事代を負担してくれるとはいえ、戦場で支給されるのは硬いパンと干し肉。大量に作ることを目的に野菜を適当に煮込んだだけのスープ。

 冒険者なら、もう少し頑張れば食事を豪勢にすることができる。

 けど、軍が負担する以上は我慢しなければならない。


「何故、誰も引き受けない」


 冒険者ギルドへ入ってすぐの所で演説をしていた騎士は当惑していた。どうやら本当にあの条件でも人が来てくれると思っていたらしい。


「先祖の無念を晴らそう、という気概のある奴はいないのか!?」

「そう言われても……」


 困惑するばかり。

 もしかしたら騎士が言うように帝国領の村で平和に暮らしていた人を先祖に持つ人がいるかもしれない。

 けど、この100年近くは国境が大きく動いていない。

 つまり、先祖にそういった人がいたとしても100年以上も前の話。


「こら、貴様……!」

「ディクソン……!」


 冒険者ギルドの上階から現れたのはクラーシェルの冒険者ギルドをまとめているギルドマスターのディクソンさん。

 どうやら騎士とギルドマスターは知り合いみたい。


「さっきも言ったが帰れ!」

「そういう訳にはいかない。私には戦力を集める、という仕事がある」

「俺は強制依頼など出すつもりはない」


 ギルドマスターは、元騎士ながら冒険者の味方をしてくれる頼りになる人。


「なるほど。国から圧力を掛けに来たか」

「圧力?」

「そうだ。元騎士のディクソンが相手なら国からの命令だと言えば冒険者を出す、とでも思っていたんだろ」


 いくらギルドマスターが認めたとしても冒険者ギルドの規約で強制依頼を出したとしても有効にはならない。


「だけど、ギルドマスターが断った」

「そうなると手は一つに限られるな」


 普通に依頼を出して冒険者を募る。

 だけど、それも騎士の認識が甘いせいで上手くいっていない。


「これ以上ギルドで騒ぐようなら力尽くで排除することになるぞ」

「ギルドで依頼人が依頼を引き受けてくれる冒険者を直接探すのは禁止されていないはずだ」

「そうだな。だが、ギルドの運営を著しく妨害するような場合には力による解決が認められている。大声を張り上げて、冒険者のことを考えていない報酬で引き込もうとする。もう邪魔にしかなっていないんだよ」

「くっ……」


 グルッと冒険者ギルドを見渡す。

 すると、騎士の目に飛び込んできたのは、自分へと向けられた敵を見るような視線。

 まさか、そんな風に思われていると思っていなかった騎士が逃げるように冒険者ギルドから去る。


「また来る。私たちは領主の館で駐留させてもらっている。もしも、気が変わるような者がいれば気にせず訪れてほしい」


 最後に言い残す騎士。

 その後を護衛と思しき二人の兵士がついていた。たぶん最初からギルド内にはいたんだろうけど、騒動に巻き込まれたくなかったから隅の方で他人のフリでもしていたのかもしれない。その行動が騎士の行動は迷惑だった、と証明している。


「随分と懐かしい顔が見えたな」


 私やフィリップさんたちの存在に気付いたギルドマスターが笑顔になる。

 子供の頃から世話になっていた私はギルドマスターにとって子供にも等しい存在なので久し振りの再会を喜ばれた。

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