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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第31章 黒影傭兵
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第9話 特別待遇の傭兵

 前線基地であるスクルル砦へと辿り着いた俺たちは皇帝からの紹介状を見せて砦で役職についている騎士と面会することが叶った。


 狙い通りに特別待遇を受けている。

 偽物の傭兵である俺たちでは傭兵の作法など分からない。変な行動を起こして他の傭兵たちから指摘されるのを防ぐ為に別行動を取らせてもらった。


「お座りください」

「失礼する」


 案内されたのは広い会議室。

 急に訪れたので用意できたのが会議室ぐらいだったのだろう。


「まず、一つだけ確認させてください。皇帝陛下からの紹介状を持って来られましたが、どのような関係でしょうか?」


 騎士は丁寧な言葉遣いで対応していた。

 騎士と傭兵。どちらの方が偉いかなど考えるまでもない。

 しかし、今の俺は皇帝の紹介を受けた傭兵。傭兵、という立場よりも皇帝と個人的な繋がりのある者に失礼なことをするわけにはいかない、という恐れから言動が丁寧になっていた。


「結婚したんで傭兵を引退して帝都で冒険者をしていた。一つの街に留まって活動するなら傭兵よりも冒険者の方がいいからな。皇帝陛下……グロリオとは、奴が冒険者だった頃に知り合った」

「なるほど。冒険者時代の知り合いですか」


 リオが冒険者をしていた話は、帝国では有名な話だ。

 冒険者から皇帝への成り上がり。大衆にこれほど受ける題材もないだろう。


「引退していたのですか……最初に名前を聞いた時は思い出せませんでしたが、十年以上も前に少人数の傭兵団として名を馳せていた『幻影傭兵団』のことは知っています」


 さすがは傭兵を相手にする騎士。

 十年以上も前に活動していた『幻影傭兵団』について知っていた。


「しかし、皇帝陛下も凄い人だ。あなた方のような知り合いもいるのですから」

「知り合いなのは本当に偶然だ。俺たちは冒険者として活動している間は素顔で動いていた。一緒に酒を飲んでいる時に昔のことを口にしてしまった。そこから知られてしまっただけだ。だから冒険者の中には俺の素顔を知っている者は多くいる。けど、鎧を着ている姿を知っている者は少ない」


 リオだけは、酒を飲んでいた席での迂闊さから鎧を着た姿と着ていない時の姿が一致するようになった。

 ……そういう設定だ。


「そうでしたか。二つの姿が一致しなければ誰も同一人物だとは思わない。正体を隠すのに大胆な策を取りましたね」

「お世辞はいい。ちょっとした事情から大金が必要になった。活躍次第では皇帝陛下から大金がもらえることになっている。だから、戦場へ戻ってきただけの話だ」


 大金を必要としている理由までは言わなくてもいいだろう。

 それぐらいの事情なら誰もが抱えている。


「で、俺たちはどうすればいい?」

「さすがに皇帝陛下の紹介とはいえ特別扱いはできません」

「だろうな」

「ですが、3人で使える個室ぐらいは用意しましょう」

「それは助かる」


 特別待遇を望んでの紹介状。

 けれども、傭兵として戦場でも特別待遇を望んでいる訳ではない。仲間内だけで過ごせる個室が欲しかった。

 こんな鎧さっさと脱いでしまいたい。


 騎士は、引退した傭兵が正体を隠して過ごしている中、色々な理由があって戦場へ戻ってくることになった。しかし、鎧を着たままではしっかりと休むことができないため個室を用意した。

 微妙に理由がズレているが些細なことだ。


 会議室を出ると砦の案内をされる。


「以前の戦争にも参加されていたのなら知っているかもしれませんが、簡単に説明させていただきます」


 本当なら下っ端の兵士がするような仕事だが、相手が相手だけに騎士が対応してくれることになった。

 砦は十三年前の戦争から何も変わっていない。

 砦など緊急性の高い目的がなければ構造を変える必要などない。

 それに頑丈に造られているため造り変えるのは本当に大変だ。


「中央には訓練場があります。現在、多くの傭兵がそちらに集まっています」

「全員、ではないのか?」

「そうです。待機させられている状態なので退屈している傭兵ばかりなのですよ。暇を持て余した傭兵の方々は近くにある森へ狩りに出かけています」


 近くにある森には魔物が出没する。

 魔物を相手にした戦闘に慣れていない傭兵たちでも相手より多くの人数を用意することで容易に魔物を狩ることができる。


「あと、湖で釣りをしている方もいます」

「ほう。釣れるのか」

「もしかして、釣りが趣味ですか?」

「いや……」


 釣り、という言葉を聞いて思わず反応してしまった。

 湖での釣りは経験があまりないので時間があれば行ってみたい。


「……っ」

「おい」


 赤い鎧を着たアイラから肘打ちされる。

 話が脱線してしまった。


「だが、大半の奴らが訓練場に集まっているんだな」

「今の時間なら訓練している方が多いですね」


 傭兵も体を動かしていなければ鈍る。

 待機状態なので怪我をするような訓練はできないが、戦場で活躍できる程度に体を動かしておく必要がある。


「行かれますか?」

「いや、いい」


 できることなら彼らとの接触は最小限にしたい。


「ここまで来るのに少し疲れた。まずは休息したいところだ」

「そうですよね」


 案内されたのは小さな部屋。

 これでも恵まれている方だ。

 他の傭兵たちは大きな部屋に数十人を押し込んでいるような状況だったからだ。


「それでは何かありましたら声を掛けに来ますのでお休みください。ただ、代表者は定期的に私の所へ来て報告をし、連絡を聞きに来てください」


 その言葉は俺へ向けられていた。


「俺が代表者なのか?」

「違うのですか? 先ほどから、あなたばかり話をされていますが」


 全く喋らない『白』と『赤』の鎧。

 俺ばかり話していることから代表として話をしている、と勘違いしていた。


 鎧の中身はシルビアとアイラ。二人が話していないのは全く別の理由からだ。


 とはいえ、俺がリーダーであるのは間違いない。


「いや、報告だったな。後で伺わせてもらう」

「それ以外の時間でしたら、この部屋に最低限の人員だけ残して自由に過ごしてもらってもかまいません」


 森へ狩りに行ってもいい。

 湖へ釣りに出掛けてもいい。


「いいのか?」

「許可を出したつもりはないのですが、こちらとしても待機させているので止めることができないのです」


 森での戦闘行動は、監視をしている身からすれば止めてほしかった。

 しかし、娯楽など何もない砦で下手に不満を溜め込んでしまうと何が起こるのか予想もできない。

 そういう意味から早く開戦してほしいと願っていた。



 ☆ ☆ ☆



 騎士が部屋から離れて行く。

 念の為、部屋の前に監視を置く。

 カメレオンの魔物が壁に張り付いている。この魔物は、周囲の景色に体を完全に同化させることで姿を消し、気配まで消すことができる。そのレベルは砦にいる騎士や傭兵では気付かないレベルだ。

 さすがに特級能力を有している者がいると危険だが、そこまでの人材はいない。


 それだけの警戒をする理由がある。


「あつい……」

「もう、無理」


 兜を脱ぎ捨てたシルビアとアイラ。

 まずは新鮮な空気を吸う。その後、冷静になると収納リングに鎧を全て収納し、ついでに服まで収納して下着姿になった。

 こんな姿は見せられない。


「とりあえず落ち着け」

「きもちいい」


 冷気を伴った風を魔法で送ってあげると涼んでいた。

 鎧は防御力を高めるため頑丈に造られており、隙間なくピッチリしていた。

 おかげで通気性など皆無なため蒸している。

 すっかり熱にやられてしまった二人は会話に加われるような余裕がなかった。


「二人とも。俺は風まで送って働いているんだからだらしない格好をしない。こんな姿を子供が見たらどう思う?」

「……きれい?」


 妊娠前の体型を完全に取り戻している二人。

 むしろ、母親になったことで体に艶が出ていた。

 が、ダラダラしている姿を見ていれば尊敬の念も消え去る。


「わたしも向こうがよかった」

「向こう、ってイリスの方か?」

「そう」


 暑さのせいで言葉がおざなりなシルビア。

 元々その程度のことは気にしていないので、今日ぐらいは見逃してあげよう。


「向こうは向こうで大変だぞ」


 少なくともシルビアには任せられない。

 隠密行動は得意でも目立たないように情報収集するのとは違う。


「お、噂をすれば」


 イリスから念話が届く。

 どれだけ距離が離れていても主と眷属の間で情報のやり取りが可能なのは本当に便利だ。

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