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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第31章 黒影傭兵
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第8話 幻影傭兵団―後―

 当時はリオが皇帝になったばかりの頃。

 迷宮での試練を越えたことにより一躍時の人となった。そのため帝都では迷宮へ夢見る人が増えていた。


 『幻影傭兵団』の二人も戦場で名を馳せていた者として迷宮に憧れがあった。

 しかし、子供が二人もいる上、もうすぐ三人目も生まれようかという状況で迷宮へ挑むような気にはなれなかった。

 それも一獲千金の必要がなければ、の話だ。


 二人の男は迷宮へ全てを賭けた。


「それで、どうなったんだ?」


 似たような状況を経験した身として気になってしまった。


「何も」

「え……」

「その時は俺が既に迷宮主となっていた。迷宮へ人を招く程度の金は出しても一獲千金を掴ませるような真似はしない」


 リオが『幻影傭兵団』について知っているのは、今回の一件があったので彼らについて色々と調べたから。

 つまり、全ての事は終わっている。


「財宝を求めて彼らは奥へと進んだ。自分の力を過信しているところもあったんだろ。魔物相手には戦えていたんだけど、無茶な進み方をしたせいで罠に引っ掛かって死んだ。それだけの話だ」


 迷宮主をしていれば、よく聞く話だ。


 そして、その後の顛末もよくある話だ。

 帰らない扶養者。待つ家族。


 そうしている内に薬代の期限が訪れてしまった。


「息子を治療した医者の手元には、父親二人が奴隷になってでも借金を返済する、という証文が残されていた」


 息子を助ける為に手段は他になかった。

 金を用意することができなかったとしても自分が犠牲になることで息子たちが助かるなら問題ない、そう考えていた。


 だが、身売りするはずの父親はいない。

 誰かが代わりになるしかなかった。


「その時の母親二人は子供を身籠っていて奴隷として耐えられるような状況じゃなかった」


 消去法で子供が身売りすることになった。

 しかし、子供では稼げる金額は少ない。一人では足りなかった。


「治療して助かった息子二人も連れていかれることになった」


 子供を身籠った母親だけになった家族。

 その後、無事に女の子が生まれてくれたもののいなくなった家族は誰一人として帰ってくることはなかった。


「しかも、生まれたばかりの子供を育てながら女だけで生活できると思うか?」

「無理だろうな」


 とにかく子供は手がかかる。


 元傭兵の女は故郷を遠く離れている。

 元ウェイトレスの女も田舎での生活が嫌になって故郷を飛び出して帝都で貧しいながらも生活していた。

 二人とも困窮している状況で頼れる人はお互いぐらいしかいなかった。


「借金しながら娘を育てていたらしいけど、1年前に限界が訪れて家族全員が誰かに連れて行かれた」


 それよりも先の調査は行われていない。

 リオにとって重要だったのは、引退した『幻影傭兵団』が今どうしているのか、ということだった。


「傭兵カードは、迷宮で死んだ二人から回収した物だ」

「3枚あるけど?」

「女の分がどうしてあるのか知らない。おそらく迷宮で死んだ旦那の荷物にでも紛れていたんだろ。引退したから傭兵だった頃の道具の扱いも適当だったんだろ」


 二人は死亡し、一人は行方不明。


「俺が変装する相手に『幻影傭兵団』を選んだのにも理由がある」


 戦場で戦っていた傭兵3人の姿が空中に映し出される。


「おおっ」

「かっこいい」


 いつの間にかこっちを見ていたシエラとガーディルが目をキラキラさせて映像を見ていた。

 二人に見られたところで何の映像なのか分かっていないだろうから問題ない。


「全身鎧の傭兵」

「そうだ」


 『黒』と『白』と『赤』の鎧で姿を隠した傭兵3人組。

 傭兵仲間も鎧の中身を知らないからこそ、誰も本当の姿を知らない傭兵という意味で『幻影傭兵団』と呼ばれるようになった。


「医者が中身を知っていたのは治療したからだな」


 たしかに治療するなら鎧を着たまま、という訳にはいかない。


 素顔を知られていないからこそ帝都の生活に馴染むことができた。


「残された家族を助けよう、とは思わないのか?」


 調査すれば女4人がどうなったのか知ることができる。

 それに奴隷となってから数年が経った息子たち4人だって借金を肩代わりすることで解放することができる。


「いいや」


 それらの方法を分かっていながらリオは否定した。


「たしかに皇帝である俺なら奴隷になった奴らを数人養う程度なら簡単だ。けど、帝都だけでもどれだけの奴隷がいると思っている?」


 幻影傭兵団の3人のように特別な事情があって困窮してしまう者は数え切れないほどいる。

 数人を助ける程度なら可能だが、全員を助けるのは絶対に不可能だ。


 では、助ける数人はどのように選ぶのか。


 ……選ぶのは不可能だ。

 選ばれなかった者は絶対に不満を漏らすし、無関係なはずの富める者たちまで助けられていない者がいることを強調して追及してくることになる。


 皇帝が数人を助けてはいけない。

 助けることができるとしたら、特別な才能を有しているにも関わらず困窮している為に日の目を見ることができない者たち。

 そういった者たちのように助けるメリットがデメリットを上回った場合のみだ。


 そして、幻影傭兵団の場合は話を聞いた段階では助けるほどのメリットが見当たらない。

 彼らは単純に運が悪かった。


 数十万人が暮らす帝都では、よくある話だ。


「帝都で姿を知っている奴らもいないだろ」


 素顔を知っていた医者も子供を毒殺しようとした罪で投獄されている。

 厳重な収容所で奴隷のように働かされている囚人たちの怪我や病気を治療することで帝国に貢献している。復讐を果たした医者は、現状に不満を漏らすようなこともなく満足そうに囚人の治療に当たっていた。おそらく、彼はそのまま生涯を終えるのだろう。

 そして、今も彼が投獄されているのは確認済みらしい。


「こいつらが変装する相手に適している理由は分かった」


 多くの者が素顔を知らない。

 傭兵カードが手元にある。

 本人たちは既にいない。


 傭兵に扮するとしても傭兵の知り合いがいない俺だけでは変装は不可能だ。リオの提示できる選択肢の中では彼らが最も適しているのだろう。


「それから調べてほしいこともある。ただ、皇帝の俺が戦地へ赴く訳にもいかないからお前に調べてほしい」

「いいだろう。その代わり報酬を弾んでもらうことになるぞ」


 傭兵として行動する。

 けど、依頼自体は冒険者として皇帝から引き受けたものだ。

 もちろん報酬は出されなくてはならない。


「まったく……強かな奴だな」


 と言っても報酬に関する交渉はメリッサが行う。



 ☆ ☆ ☆



 その後、変装に必要な道具を用意する。


 成りすましが簡単な相手だが、それは道具をきちんと用意した場合の話だ。

 全身を覆う三色の鎧。

 かなりの特注品な上、俺たちが用意したことを誰かに知られると正体が露見する可能性がある。購入や注文することで他者を介入させる訳にはいかなかった。


 そこで、頼れるのが迷宮。

 迷宮の魔力を幾分か消費することになってしまうが必要経費。

 必要経費、ということでリオに頼んで帝都の迷宮の魔力を使わせてもらった。


 俺たちの手元には自分たちの体に合う鎧があった。


「重っ……」


 白い鎧を着たシルビアが呟いた。


「文句を言わないでよ」


 赤い鎧を着たアイラも苦しそうにしている。

 シルビアは速度を最も重視して戦うタイプだし、アイラも相手の攻撃は回避する傾向があるため身軽にしている。

 二人にとって鎧は邪魔でしかない。


 俺も黒い鎧を我慢する。


「仕方ないだろ。メリッサとノエルは留守番。イリスには別な事を頼んでいるから俺たち3人で幻影傭兵団を担当するしかないんだよ」


 他に選択肢はなかった。


「いえ、やりますけど……」


 不満ながらも着てくれる。


 王国軍と戦う関係上、正体を知られる訳にはいかなかったためこのような方法で戦場へ潜り込むこととなった。


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