表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第31章 黒影傭兵
833/1458

第7話 幻影傭兵団―前―

「俺たちに傭兵の真似事をしろ?」

「そうだ」


 リオの要求は傭兵になって帝国側で戦争に参加しろ、というものだった。

 帝国側の要衝であるスクルル砦。そこでは既に多くの傭兵が集まっており、彼らと共に王国軍と戦え、というものだった。


 さすがに自国の軍隊を退けるのは憚れる。

 けれども、今回みたいな理由で帝国軍に被害を出したくないのも事実。


「でも、傭兵の真似事なんてしたことないぞ」


 傭兵が重用されるのは大陸の東側。

 その辺りでは小国軍が常に領土を巡って鎬を削り合っているため戦争が絶えず、傭兵の需要もある。


 王国や帝国で大きな戦争は数年に一度あるかないか。

 それに大国ともなれば正規軍が配備されているため傭兵の需要はさらに少なくなる。

 王国や帝国において傭兵の仕事は主に商人による大規模な輸送隊の護衛。

 人数を必要とする護衛依頼ならば冒険者よりも傭兵の方に需要があった。


「それに傭兵ギルドにも登録していない」


 傭兵はギルドで登録することによって初めて傭兵を名乗ることができるようになる。

 登録していない者が軍に雇われたところで傭兵とは認められない。


 傭兵ギルドでは、これまでの功績を考慮してランクを与える。雇い主は、冒険者ギルドと同じように与えられたランクを参考にして傭兵を雇っている。実力もさることながら人間性もランクを上げる為には必要になっている。


 いくら実力はあっても依頼人へ暴力を振るうような人間は信用ならない。

 それに命令に従わない傭兵も信用されない。さすがに理不尽な命令を断った場合には考慮されない。


 傭兵ギルドは雇い主を守るのと同時に傭兵をも守っている。

 戦争に駆り出される傭兵。意図して囮にされたり、捨て駒にされたりしてしまった場合には雇い主に対して慰謝料を請求することができる。

 これは、傭兵ギルドに登録している傭兵に与えられた正当な権利であり、雇い主が負わなければならない義務でもある。


 もちろん冒険者である俺たちは傭兵ギルドには登録していない。

 両方のギルドに登録することは可能だが、登録するメリットがないため両方のギルドに登録する人は少ない。


 冒険者として活動していれば傭兵として活動する必要もない。

 それに子供もいるし、迷宮主で居続ければ安定した収入が得られる。

 戦争に参加する上、長期間拘束されてしまう傭兵になるつもりはない。


「別にお前が登録する必要はない」


 テーブルの上に3枚のカードが出される。

 冒険者カードにも似たカードだが、描かれている内容が全く違う。


「これは、傭兵カード?」

「そうだ」


 これまで縁がなかったため初めて見た。

 傭兵である事を示す為のカードだ。


 出された3枚のカードは、どれもBランクとかなりの評価を受けている。


「お前たちには、そのカードの持ち主になってスクルル砦へ向かってほしい」

「いやいや、さすがに他人に成りすますのは難しいでしょう」


 姿を変える魔法はある。

 だが、それは常時魔力を消費して発動させ続けていなければならない。

 変装するにしても、そんなスキルは持っていないため変装した人物を知っている人間と接触した瞬間にバレてしまう可能性が高い。


「それにカードの偽造は重罪だぞ」


 いくら皇帝とはいえ……皇帝だからこそ法律は守らなければならない。

 そんな危険なことはできない。


「大丈夫だ。カードの偽造は重罪だが、成りすますのは罪には問われない。そこで変装が簡単な奴を用意した」

「簡単?」

「こいつらは『幻影傭兵団』って名乗っていた連中だ」

「そいつらなら知っている。十年以上前の戦争にも参加していた傭兵だ」


 当時の戦争で被害を受けたイリスは色々と調べていた。

 その中には傭兵も少ないながら参加しており、『幻影傭兵団』の名前も見つけることができた。


「だけど、奇妙なことにあの戦争以降はパッタリと名前を聞かなくなった」


 一説には死亡した、との情報も流れていた。

 戦争に参加することの多い傭兵。いつの間にか知り合いが死んでいた、なんていうのは珍しくないらしい。


「いいや、そいつらは引退しただけだった」


 戦場を求めて帝国へと来た『幻影傭兵団』。

 彼らは、傭兵団を名乗りながらも構成員三人という小規模な傭兵団だった。


 魔物を相手にすることが多い冒険者は性に合わず、人を相手にした戦いの方が得意だったため傭兵ギルドに登録して各地を転々としていた東方国家出身の男二人に女一人の傭兵団。

 王国との戦争で報酬を得て、帝都へと帰還したところで彼らに転機が訪れた。


 傭兵ギルドへ赴き、近々戦争が起こりそうな場所を聞こうとしていた。

 その途中で立ち寄ったレストランでウェイトレスをしていた女性に傭兵団の男の一人が惚れてしまった。

 その後、紆余曲折があった末に二人は結婚。妻のいる身では各地を転々とするような傭兵生活を続けることができず、引退して幸せな家庭を築いた。


 二人だけになった傭兵団。今後は二人だけで活動していくのかと思いきやウェイトレスにアプローチしている間、二人は男がすぐに諦めるだろうと思い、待つことにしていた。その間にも生活費は必要になるため冒険者として登録して二人だけで活動して資金を稼いでいた。

 二人の予想に反して傭兵を引退してしまった男。

 残された二人の間に何があったのかリオも知らないが、気付けば残された二人の間で愛が芽生えて結婚することになっていた。


「え、つまり『幻影傭兵団』は帝都で幸せな家庭を築いて引退しただけ?」

「そういうことになるな」


 二人の男は、傭兵として鍛えられた体を活かして力関係の仕事に就いていた。

 女たちの仲は良好で、同時期に子供を授かったこともあって二つの家族は手を取り合って暮らしていた。


「それも3年前までの話だ」


 二つの家族にできた二人目の子供。

 それが酷い毒を受けることになって倒れることになった。


「犯人は、『幻影傭兵団』を恨んでいた医者だった」


 『幻影傭兵団』が参戦した戦争で医者になったばかりの息子と共に医者として参加していた。


 その戦争で怪我を負った男。

 かなりの重傷で酷く錯乱していた。

 他の患者で手一杯だった医者は、男の治療を息子に任せることにした。幸いにして怪我は酷いものの、命に関わるほどではなく手当すれば元の生活には十分に戻ることができるレベルだった。


 医者になったばかりの息子でも治療することができる。

 その判断は医者として間違いではなかった。


 しかし、怪我を負っている者まで同じ考えだとは限らない。


 遅いものの一生懸命に治療する息子。


「なに、モタモタしていやがるんだよ! こっちは命懸けでお前らの為に戦ってきてやったんだぞ!」

「ひっ……」


 怒る男に怯えていた息子。

 その様子が男にとってはさらに癪だったらしく、戦場からずっと手にしていたままの剣で息子を斬ってしまった。


 目の前で理不尽に斬られ、死んでいくのを見ているしかなかった医者。

 その後、戦争が終わってから医者の頭にあったのは傭兵団へと復讐することだけだった。しかし、戦争後に別の場所へ移ってしまった傭兵団を見つけるのは困難を極めた。


 そうして、帝国が王国と戦争をするかもしれない、という情報を聞き付けて帝都へやって来たところで偶然にも傭兵団の姿を見つけてしまう。彼らは戦場へ行くようなこともなく、のうのうと平和に暮らしていた。

 医者にとっては、仇が長閑に暮らしているなど認められなかった。

 自分たちは町で平和に医療所を営んでいるだけだった。けれども、度重なる戦争で医者不足に陥り、自分たちも手伝うことになってしまった。国の為に一生懸命に治療していたはずなのに味方の傭兵に息子は斬り殺された。


 平和に暮らしている傭兵団の姿を見た瞬間に医者の中でどのような復讐をするのか決まった。


「お前たちの子供に与えた毒は私が特別に調合した物だ。並大抵の方法では解毒できず、私も解毒薬を用意していない。お前たちの息子は数日間苦しんだ末に死ぬことになる」


 元、だったとしても傭兵。

 医者とはいえ、一般人に過ぎない男を捕まえるのは簡単だった。


「その後、『幻影傭兵団』の男二人は帝都を駆けずり回った甲斐あって医者を見つけて息子二人の命を助けることに成功した。けど、子供の命を助けた薬には莫大な費用が掛かった。男たちは必ず用意すると約束したから、金を持っていないにも関わらず子供の治療をしてもらった」


 男たちには一獲千金の当てがあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ