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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第31章 黒影傭兵
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第5話 子供たちの未来―後―

 【未来観測(フューチャービジョン)】。

 マリーさんのスキルで情報を集めることによって未来にどのようなことが起きるのか脳裏に映像を浮かべて観測することができるスキル。

 迷宮を攻略されていた間は、このスキルによって迷路を迷うことなく進まれることになった厄介なスキルだ。


 彼女には未来を観ることができる。

 突然、笑い出したことには未来が観えたことに原因がある。

 長い付き合いからリオは分かっていた。


「ごめんなさい。あまりに面白い未来が観えたから笑ってしまったわ」

「どんな未来だったんだ?」

「そうね――」


 テーブルの上に映像が浮かび上がる。


 闇属性魔法による【幻影】。

 見た光景を任意の空間に映し出すことができる魔法を使用して自分の観た光景を全員に見せる。


「俺たちも見ていいのか?」


 帝国の機密に関わるような未来なら王国所属の冒険者として見ない方がいい。


「大丈夫よ。すごくプライベートな未来だから」

「なら、いいけど」


 たしかにプライベートな未来だった。

 だが、同時に帝国の重要な未来でもあった。


「ここは教会ですか?」


 映し出された場所を見てシルビアが呟いた。

 神聖な雰囲気に包まれた広い場所。中央にある祭壇へと続く道の左右にはベンチが置かれている。教会の至る所にある装飾品は豪華で、地方の教会などではなく有名で大きな教会だということが窺える。


「帝都にある最も大きな教会――グレヴァル教会ですね」


 カトレアさんが教えてくれた。

 帝都にある教会なら、たしかに豪華でも不思議ではない。


「誰かの結婚式?」


 祭壇の前には白く豪華な服を着た男性が立っていた。

 花嫁を待つ新郎。


「リオ……じゃないよな」


 新郎はリオに似ていた。

 が、似ているだけでリオではない。


「……ガーディルだな」


 現在いる二人の息子の中で金髪に蒼い瞳をしたのはガーディル君しかいない。

 自然と未来のガーディル君だと予想できた。


「へぇ、随分と似るものだな」


 子供が親に似る、というのは見ていて微笑ましくなる。

 が、そんな心境も現れた花嫁の姿を見て瓦解する。


「え、あたし……?」


 アイラがそんな言葉を口にする。

 現れた少女は白いウェディングドレスに身を包んだ紅い髪をした少女で、アイラにかなり似ていた。


 これが未来の光景だと言うのならアイラではない。


「シエラか」


 家族が大好きなシエラは、母親から髪と瞳の色をしっかりと受け継いでいた。顔も将来は自分に似ると知ってアイラがニコニコしている。

 が、父親である俺は気が気ではない。


「これ、結婚式の光景だよな」


 新郎と新婦が誰であるかは考えるまでもない。

 剣を抜いて立ち上がると子供たちがいる方へと歩き出す。


「ちょっと待て!」


 そこをリオに抑えられた。

 力任せに叩き飛ばすとリオも自分の剣を抜いて襲い掛かってきた。


 上等だ……!

 お互いに剣をぶつけ合って鍔迫り合いへと持ち込む。


「どういうつもりだ……!」

「何も分からない今の内に人の娘を都合のいい嫁にする男を斬り捨てるんだよ」

「いいのか? 指名されていなかったとしてもガーディルが次期皇帝になることは帝国の貴族なら誰もが知っていること。そのガーディルを斬れば世界中から指名手配されることになるぞ」

「構わない。男には世界の全てを敵に回してでも戦わなければならない時がある」


 いつかは手元から離れていく娘。

 しかし、父親として皇帝の数多くいる側室の一人になるような未来は認められない。側室が多くいるのはリオを見れば明らかだ。


 この未来を回避する最も確実な手段は新郎を亡き者にしてしまうことだ。


「もしかしたら、勘違いをしているのかもしれませんね」

「勘違い?」

「はい。シエラさんは側室などではありませんよ」


 そう言われても簡単には信じられない。


「そうです。グレヴァル教会で式を挙げるのなら側室は絶対にありえません。ですから一旦怒りを抑えてください」


 メリッサから言われて怒りを抑えて剣を鞘に納める。


「悪かったな」

「いや、俺も娘の誰かが悪評の貴族の側室の一人になるようだったら相手の屋敷へ乗り込んでいるところだから気持ちは分かる」

「間違ってもやるなよ」


 リオに注意をしたところでテーブルへ戻る。


「で、側室じゃない理由っていうのは?」

「複数の女性を娶ることは法律で認められています。ですが、複数の女性と式を挙げるのはよくありません」

「そうですよ。わたしたちも教会で式を挙げるようなことはしませんでした」


 メリッサとリーシアさんが言うように結婚式を執り行うのは正妻のみ。

 側室の女性とは大々的に結婚式を行うようなことはしない。せいぜいパーティーを開いて結婚を報告するぐらいで大規模な結婚式は行わない。

 しかし、映し出された結婚式は多くの人が参列している。おまけに帝都最大の教会で行う結婚式ともなれば側室ではないことは想像できる。


「それにこっちを見て」


 ノエルが指差した先では、今よりも少しばかり年老いた俺たちがいた。この光景が十数年後であることを考えると若々しい方ではあるが、魔力の多い者は若々しい姿を保つことができる傾向にある。俺たちのステータスを考えればそのような姿をしていても不思議ではない。


「少なくとも納得はしているんじゃない?」


 苦々しい表情をしているものの結婚式には参加している俺。

 少なくとも二人の結婚を祝福しているようだ。


「泣くのはいいけど、どうして号泣しているのよ」


 それよりも気になるのは俺の隣で号泣しているアイラだ。泣き続けてハンカチを何枚もダメにしていて隣にいるシルビアに世話されている。

 今とあまり変わらない関係だ。


 けど、アイラとしては恥ずかしい姿を見せられてショックを受けていた。


「今の光景は?」


 ショックを受けながらもアイラが尋ねる。


「未来の光景。このまま時を進めるとガーディルは皇帝になって、シエラちゃんは皇妃として迎え入れられるってところかな?」

「いやぁ、あり得ないでしょう」


 今は仲睦まじく遊んでいる二人。

 子供の内に友達として遊ぶのは不可能ではない。しかし、さすがに結婚するのはシエラの身分が低すぎる。


 皇帝と平民。

 しかも嫁ぐのが他国の平民では、帝国の貴族連中が納得しない。


 皇妃の座は娘を持つ帝国貴族なら誰もが夢見る。簡単に諦めるとは思えない。

 シエラが政争の渦中に放り込まれるような状況も看過できない。


「詳しい事情は全く分からないわ。けど、全員でなかったとしても帝国貴族の何人かは納得せざるを得ない立場に未来のシエラちゃんはいるんでしょう」

「それって……」

「あなたたちにそれだけの価値が生まれる、ということよ」


 皇妃の座を諦めてでも帝国が俺との縁を結びたい。

 たしかに長女を皇妃に迎えれば帝国との間に強い縁が生まれる。少なくとも敵対するようなことは絶対にないし、今回のように非がないのなら積極的に助けたい、と動いてもおかしくない。


「いや、でも……」


 何があれば娘が皇妃に迎え入れられるような状況になるのか分からない。


「責任重大ですよ、お父さん」


 映し出された結婚式はクライマックスへと差し掛かる。

 満面の笑みを浮かべて愛を誓い合う二人。残念ながら音声がないので何を言っているのか分からない。それでも二人の笑顔を見ていれば幸せであり、これからも幸せが続いていくことを願っているのは間違いない。


 そうして、合わさる唇と唇。

 二人の愛が祝福され、教会は歓喜による拍手に包まれる。

 拍手をしていないのは俺と泣き続けるアイラだけだ。


「私の観た光景はここまで」


 未来の光景はそこで途切れる。


「この光景に繋がる……のかは分からないが、帝国の為に働いてもらおうか」

「ああ……」


 娘を嫁に出すことを思えば腹立たしい。

 しかし、あそこまで幸せそうな表情を見せられれば納得するしかない。

 それに……


「俺は何をすればいい」


 あの未来へ繋がるよう行動するしかないじゃないか。

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