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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第30章 賢竜咆哮
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第26話 ドラゴンの魔石

 迷宮の地下深く。

 外ではグツグツと煮立つ溶けた鉄が流れていることもあって非常に熱い。

 しかし、熱さの最大の理由は階層の中心にある炉だ。


 カ―――――ン!


 鉄を打ち付ける音が響き渡る。

 階層の中心では一心不乱に男……と見紛うような大鬼(オーガ)が鍛冶をしていた。


「久し振りだな」

「なんじゃ、お主か」


 ここは、アイラの故郷であるパレントの傍にある迷宮の最下層手前。

 一心不乱に魔剣を造り続けている大鬼に用があったため手間ではあったが、迷宮を再攻略して訪れさせてもらった。

 既に一度は攻略した迷宮。それほど時間を掛けることなく攻略できた。


 今日のお供はシルビアとアイラ。

 戦力的にも二人がいれば十分だった。


 ただし、今は傍にいない。


「ああ、ちょっと待ってくれ」


 【迷宮結界】を展開して熱が伝わらないようにする。

 さらに冷気を発生させて結界内を快適にする。


「む……?」


 鍛冶に必要な熱気が失われた空間。

 もう200年以上も熱に覆われた空間にいれば、快適な空間であっても不自然さが先に出てしまう。

 しかし、これから招待する人物には必要な措置だ。


「【召喚(サモン)】」


 喚び出すのは一旦屋敷へ帰っていたアイラとシルビア。

 彼女たちの腕には、幼い子供たちが抱かれていた。

 急に変わった景色に子供たちが興味津々といった様子で周りを見ている。そうして、俺がいることに気付くと声を挙げていた。


 シルビアは二人を抱えていて大変そうだったのでアルフを受け取る。


 突然のお出かけに楽しそうにしている3人の子供たち。

 そんな楽しい雰囲気も大鬼の大きな体を見た瞬間にピタッと止まってしまった。

 人間では考えられないほどの巨体。

 子供なら恐がるのが普通で……


「はじめめしぇて」

「「はい!」」


 1歳にして神様と知り合い、【加護】まで貰っているシエラに大鬼程度で臆するようなことはない。

 そして、大好きな姉が好意を見せるのならアルフとソフィアも好意を見せる。


「儂のことが恐くないのか?」

『?』


 3人ともキョトンとしていた。

 好意や敵意に敏感なお年頃。相手が見る者に恐れを抱かせるような姿をしていたとしても敵意を持っていないことは分かる。

 だからこそ逆に自分たちを恐れていることを不思議に思っていた。


「この子たちは大丈夫だ」


 泣き出せばすぐに連れて帰るつもりだったが、この調子なら大丈夫そうだ。


「して、今日は何用じゃ?」

「俺の方から頼みがあったのと……」

「前に『偶に遊びに来てあげる』って言ったでしょ。あれから時間がけっこう経つのに一度も来ることができなかったから、ちょうどいい機会だし、あたしたちの子供を見せてあげようと思ったの」


 大鬼の前に抱いていたシエラを出す。

 抱かれていたシエラも自分の役割を理解したのか抱き上げやすいように手を挙げていた。


 戸惑いながらも大鬼がシエラを受け取る。

 すると、何を思ったのか右手を広げてシエラをちょこんと乗せてしまった。


「おおっ!」


 大鬼の巨体なら幼女を乗せるぐらいは簡単だ。

 その様子を見て羨ましくなったのかアルフとソフィアの二人が声を挙げていた。


「分かっておる」


 俺とシルビアの前に開いていた左手を差し出してきた。

 申し訳ない気持ちになりながらも二人を手の上に乗せる。

 今までに体験したことのない場所に子供たちは興奮していた。


 楽しんでいるのは子供たちだけではない。大鬼も久し振りの人との触れ合い、それも無邪気な子供たちの笑顔を見て満足していた。


 こうしていると祖父のように見えなくもない。

 これで頼み事がし易くなった。


「で、頼みとは何じゃ?」


 子供たちを手に乗せたまま尋ねていた。


「俺たちの武器を強くしてほしい」

「……お主たちの武器はワシの目から見ても既に手が付けられないほどの超一級品じゃ。改良を施すのは至難の技じゃ」

「でも、できなくはないんだな」


 できない、とは言わなかった。


「ワシの技術なら改良も可能じゃ。しかし、問題なのは改良に必要な素材の方じゃな。そのレベルの武器を改良するとなると相当な素材が必要になる」

「それなら事前に用意してきた」


 今回こんな話を持ち込んだのも素材を手に入れることができたからだ。

 道具箱(アイテムボックス)から四つの魔石を取り出す。


「それは……」


 さすがは俺の知る鍛冶師の中で最もいい腕をしている大鬼だ。見ただけで魔石の希少性に気付いたらしい。


「これはドラゴンの魔石だ」

「それも王竜クラスじゃな」


 その価値は一般的に狩られるようなドラゴンの魔石とは比べ物にならない。

 迷宮の力でも生み出すことは可能だが、不死の帝王や賢竜魔女に匹敵するレベルの魔物を武器の素材に使う為だけに喚び出せるほどの余裕はない。


 魔力にしてしまうことも考えたが早急に俺たちのパワーアップが必要だ。


「今回、王竜クラスのドラゴン4体と戦うことになったんだけど、実力不足を痛感させられる結果になった」

「……そもそも王竜を前にして人間が生き延びられる方が奇跡じゃ」

「残念だけど、それで満足するつもりはない」


 ドラゴンとの戦闘を終えたことでレベルが飛躍的に上昇していた。最近では大きな戦いを経験してもレベルの上昇が鈍かったことを考えると嬉しい結果と言える。

 でも、まだ足りない。

 さらなるパワーアップを考えた結果、着手することにしたのが全員の装備品の強化だ。


「造ってほしいのは全員の武器と防具だ」

「魔石があるということは、他の素材もあるんじゃろ」

「当然」


 ただし、この場でドラゴンを出すのは狭いため難しい。


「必要なら爪でも鱗でも好きなだけ使っていい。それに報酬も言い値を出す」

「ワシに金など必要ないのだが?」


 そう言うと思ったからこそ物を用意してきた。


「ほう……」


 報酬として用意したのは酒の入った樽、燻製された肉、瑞々しい果物。しかも、大量に持ち込ませてもらった。

 さらに、どれも鮮度を保つことができる容器に入れられており、長期間楽しむことができるようになっている。


「魔物のあんたに食事は必要ないかもしれないけど、食べることはできるんだから楽しむことはできるだろ」

「いいじゃろう。それに報酬なら既に貰っている」


 そう言う大鬼の目は子供たちへと向けられていた。


「こんな可愛い子供たちが懐いてくれた。永く生きているが、これほどに嬉しいことはない」

「そう言ってくれると助かるよ」


 子供たちとの触れ合いが大鬼にとって最大の報酬となったようだ。

 アルフが大鬼の大きな体をペチペチと叩く。屋敷にいる男性の中では騎士の兄が最も逞しい体をしているが、それ以上に硬い体をしている大鬼の体に興味津々なようで撫でている。

 ソフィアも大きな腕を登りたそうにしているが、危ないため大鬼がそれとなく下ろしている。

 シエラは楽しそうにしている弟と妹を見てニコニコしていた。


「いい子たちじゃな」

「そのうち、もう二人生まれることになるから、ある程度大きくなったら連れてくるよ」

「ほう、そうかそうか」


 爺のように笑う大鬼。

 それでも仕事は忘れていない。


「武器は預かって鍛えさせてもらう。防具は一から造るが、ある程度形になったら調整の為にもう一度来い。6人分の装備を造る必要があるから時間が掛かる。最短でも1カ月は覚悟しておくんじゃな」

「それは問題ない。その代わりに強い武器を用意してくれ」

「ああ、いいじゃろう」


 笑って請け負う大鬼の姿を見ていれば安心して任せられる。

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