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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第30章 賢竜咆哮
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第24話 魔物の生まれ変わり

 山を消し飛ばしてしまうほどの威力を持つブレスの直撃を受けたヴィシュ。


『ぐ、うぅ……』


 それでも、生きてはいた。

 と言っても力尽きるのに時間は掛からないはず。硬い鱗はほとんどが剥がされ、体の表面はドロドロに溶けていた。


「ワタシのブレスは、あのガキが使うみたいに得意な属性を混ぜ合わせた攻撃じゃなくて膨大な魔力を圧縮させただけの力業だからね」


 いつの間にかドラゴンの姿から人間に戻っていた賢竜魔女(ワイズドラゴンウィッチ)が近付いて教えてくれる。


 フォリスが速度に特化していたように賢竜魔女(ワイズドラゴンウィッチ)は魔力に特化していた。

 彼女は様々な魔法に精通しているが、膨大な魔力を利用することで適性属性を無視して全ての属性の魔法を使用することができる。


「できればメリッサの奴にワタシが戦うところを見せてあげたかったね」


 全ての属性の魔法を使える魔女。

 彼女の能力は、【全】属性の適性を持つメリッサが師事するには十分な資質を持っていたため師匠のように様々な魔法を教えてもらっていた。


「今のあいつは……」

「分かっているよ。こんな場所へ連れて来られる訳がない」


 妊娠中で体調を崩している相手に登山なんてさせる訳にはいかない。

 雌であろうとも子供を産んだ経験が賢竜魔女の魔石の中にも蓄積されているのか感情が籠っていた。


『いえ、しっかりと見させてもらいました』

「そうかい。できれば傍で見て肌で感じることによって得られるものもあるはずなんだけどね」

『いえ、その場に4人もいてくれたおかげで感覚もしっかりと掴むことができました』


 【迷宮同調】によって迷宮主や他の迷宮眷属と感覚を同調させることができる。

 留守番をしているメリッサとノエルだが、こちらの様子はしっかりと把握していた。


 賢竜魔女の戦いから何かを掴んだらしいメリッサ。

 物知りで冷静な彼女なのだが、魔法を使用しての大規模な破壊を好む気質がある。それは、おそらく師匠である賢竜魔女の影響だろう。


「それで、こいつはどうする?」

「できれば鱗は残しておいてほしかったところなんだけど……」


 さすがに、あのような戦いを見た後では文句を言えない。


「まあ、回収するべき物は回収させてもらうことにしよう」


 ドラゴンの魔石。

 これ以上に強力な素材は他にない。


 鮮度がいい内に取り出した方がいいため倒れているヴィシュへと手を伸ばす。


『ことわる……』


 弱々しい声で拒絶するヴィシュ。


『オレは、そこのババァみたいな奴には負けたことを認める。けど、お前に負けた訳じゃない。負けた訳でもない奴にオレの体をくれてやるつもりはない』

「なに贅沢なことを言って……どうしたんだい?」


 孫を叱ろうとしていた賢竜魔女を止める。

 たしかにヴィシュとの戦いでは全く活躍できていなかった。


 ただし、一つだけ訂正させてもらおう。


「俺は迷宮主だ。当然、迷宮にいる魔物は全て俺の支配下にある。だから、迷宮の魔物の功績は全て俺のものだ」

『そんな理屈――』

「通る。群れで功績を残した場合でも最も讃えられるのは長だ。集団の場合、頂点に立つ奴こそが功績を得る」


 当然、迷宮の魔物の頂点に立つのは迷宮主である俺だ。

 知能の低い魔物たちは『命令』によって納得させられている。そして、賢竜魔女のように知能の高い魔物は『自分の意思』で主に功績を譲ることに納得している。


『そうか。俺は王に負けたんだな』


 王になるはずだったヴィシュとしては、それで納得できたのか弱々しくゆっくりと瞼を閉じた。

 もう限界だった。


「さて、アンタはどうする?」


 賢竜魔女が何もない場所に向かって告げる。


「止めておきましょう」


 声を掛けた場所にあった岩の下からティニルが出てきた。


「生きていたんだ」

「先ほどまでは死んだような状態でしたよ、お嬢さん。ですが、朦朧とする意識の中で白いドラゴンを見ました。あのような輝きを見せられては生き返らずにはいられません」


 少しばかりテンション高めに言うティニル。

 しかし、全身ボロボロの状態で無理をしているのが簡単に分かる。


「で、戦うのかい?」

「止めておきましょう。もう、私に戦う力は残されていません。それに万全な状態であったとしてもツァリス様を相手に私が勝てるとは思えません」


 ツァリス。

 ヴィシュたちに魔物としては珍しく名前があったように賢竜魔女の元となった魔石を持っていた白いドラゴンにも名前があった。


 魔物にとって名前は特別なものとなる。

 種族名でのみ呼ばれる魔物。固有の名前を持つことによって自分が特別な存在であると認識し、魔石が次の段階へと進化する。


「そのツァリスとかいうのとは仲が良かったのかい?」

「私は若い頃にツァリス様に見出されて傍に控えるようになりました。その後も子と孫に仕えてきました。ドラゴンとして『最強』という言葉に憧れるだけの若者であった私にとって貴女という存在は、天に輝く太陽のようでした。貴女が消えた後も王に仕えていたのは、貴女という存在に憧れ続けていたからです。あのような貴女の血を継いでいない紛い物の王に仕える気など微塵もありませんでした。だからこそ紛い物の王に誘われながらも王の子たちに仕え続けることを選びました」


 ティニルの力は新しく群れの王となったドラゴンから見ても優秀だった。

 だからこそ王の傍で仕え続けるよう話が出た。けれども、その誘いをティニルは蹴ってしまった。

 ティニルにとって仕えるべき相手は、ただ一人だった。


「ですが、それももう終わりです」


 ツァリスの子供の中で唯一王になれる資質を持っていたドラゴンは紛い物の王によって倒されてしまった。

 そして、孫たちも王位の奪取を誓いながら志半ばで倒れてしまった。

 他の子たちでは、王になれる素質を見出すことができなかった。


「じゃあ、どうするんだい?」

「既に老骨の身です。生きる意味を見出せない身では長く生きられないでしょう。適当な死に場所を見つけたら静かに死ぬこととなります」

「そうかい」


 哀愁の漂う背中を見せながら立ち去るティニル。


 歩き出した数秒後、胸から剣が突き出ていた。


「がはっ……」


 口から勢いよく血を吐き出すティニル。

 満身創痍だった身にトドメを差されてしまった。


 胸から突き出ている剣には見覚えがある――【勇者の剣(ブレイブソード)】だ。


「誰にも見つからずにどこかで死ぬつもりなら、アンタの命はワタシに使わせな」

「な、ぜ……」


 このような惨いことを……?


「いくら楽しむ為だったとはいえ、多くの魔力を使い過ぎて主に迷惑を掛けた。ワタシにできることは使った魔力を補填することだけど、思い付く方法がこれぐらいしかなかったんだよ」


 自分の力で財宝を迷宮に納め魔力に換える。

 迷宮生まれの魔物では迷宮に魔力を与えることができないため、外から何かを持ち込むことぐらいでしか補充することができない。

 そして、賢竜魔女が消費してしまった魔力は膨大だ。生半可な財宝では補填にはならない。だが、目の前に補填が可能な素材が転がっており、目の前から逃れようとしていた。だから、止めただけの話だ。


「……やはり、貴女、はツァリス様だ……」

「ツァリスっていうのは随分と薄情な奴だったんだね」

「そうですね。自己中心的な方、でしたね。敵には容赦をしない、方で……味方を作った、のも『群れ同士の戦いがやってみたいから』という、ものでした……憧れている身からすれば、本当に酷い方、でした」


 剣に胸を貫かれたままティニルも倒れる。

 後に残されたのは紫色のドラゴンのみ。


「これでいいかい?」

「いいんだけど……」

「文句あるのかい?」

「……ちょっと後味が悪いわね」


 アイラが言うようにちょっとした後味の悪さを覚えながらノーズウェル山脈でのドラゴン騒動は幕を閉じた。

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