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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第30章 賢竜咆哮
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第23話 ブレス対決

 怒りを露わにするヴィシュ。

 まるで、その怒りに呼応したように地面から黒い炎の柱がいくつも飛び出した。黒い炎が空を舞っているせいで暗くなる。


「喰らい尽くせ」


 蛇のように形を変えて襲い掛かる炎の柱。

 重なり混ざり合うと中心に賢竜魔女がいたまま球状になる。


「オレの炎は、触れる物全てを燃やして溶かす。それは、魔法だって同じだ。どんな攻撃を当てようとも全ての魔法を溶かす!」


 閉じ込められた賢竜魔女。しかし、周囲の状況などお構いなしに魔法を使用すると黒い炎が時間を巻き戻したように地面へと戻って行った。

 黒い炎の球体があった場所には、平然とした様子の賢竜魔女が浮いていた。


「バカな……」


 何が起こったのか分からない。

 仮に強力な魔法によって吹き飛ばされたと言うのなら分からなくもない。けれども、黒い炎に何をされたのか分からない状況で何もしていない状態へ強制的に戻された。


 再度、黒い炎を噴出させようとする。

 しかし、地面から少しだけ出てきたところで戻ってしまう。

 魔力だけが消費されて、どこかへと消えていた。


「何をした!?」

「教えると思うのかね」


 【時空魔法:時間回帰】。

 対象の状態を任意の状態にまで巻き戻してしまう魔法。地面から噴出させた黒い炎に対して使用することによって『発生していない』状態にまで巻き戻した。発生していないことにされたからといってヴィシュに魔力が戻る訳ではないのが、この魔法の恐ろしいところ。ただ、魔力を消費しただけになる。

 相手の魔力制御が賢竜魔女を上回っていれば通用しない。しかし、黒い炎は威力を追求するあまり制御力はそれほどではなかった。そのため容易に巻き戻すことができた。


「このっ……」


 空中にいる賢竜魔女に向かって跳び上がり剣を振るう。剣には黒い炎が纏われており、触れるだけで致命傷になりかねない。


「怒りで威力が上がっているね」


 自分に迫る黒い炎を見ながら落ち着いた様子で呟く。

 そして、持っていた木の杖でヴィシュの剣の腹を叩いて弾く。


「そんな……」


 弾かれたことで無防備に体を晒すヴィシュ。

 その懐へ賢竜魔女が飛び込んだ。

 ヴィシュが信じられないのは、弾かれたこともそうだが、剣を弾いた杖を一時は燃やしていたはずの炎が吹き飛ばされてしまったことだ。


「あんなことができたのか」


 遠くから見ていた俺には冷静に状況が見えた。

 賢竜魔女は、杖を燃やす炎を自分の魔力で包み込むと強引に【空間魔法】で圧壊させてしまった。さすがに空間ごと消されれば黒い炎でも耐えられなかった。


「本当の打撃っていうものを見せてあげるよ」

「……っ!?」


 生前の賢竜魔女を知っているヴィシュには魔女である彼女が何をするつもりなのか、その言葉だけで分かった。

 杖でヴィシュの腹を突き、顎を打ち上げ、頭を叩く。

 最後の杖の先端から発生した爆発がヴィシュの体を吹き飛ばす。


 爆発による煙から飛び出した瞬間は意識を失っていたヴィシュ。それでも、意地から意識を取り戻して賢竜魔女へ殺意を向ける。


「まだ終わりじゃないよ」


 吹き飛んだ先にいるヴィシュを取り囲む10本の剣。


「なに!?」


 メリッサが近接戦でよく使う【勇者の剣(ブレイブソード)】。魔法の力で宙に浮かせ、自由自在に動かすことができる。

 10本の剣が中央にいるヴィシュを串刺しにするべく一斉に動く。


「がっ……!」


 大剣を振って2本の剣を弾き落とす。

 それでも、同時に殺到した8本の剣によって貫かれてしまう。


 串刺しとなったヴィシュの体が力を失って地面へと落ちる。


「なめるなっ!!!!!」


 落ちそうになる意識をどうにか止めてスキルを使用……【人化】を解除する。

 全身が光に包まれるヴィシュ。光が消えた数秒後に現れたのは真っ黒な鱗に赤い瞳を持つ巨大なドラゴン。


 ドラゴンとなったヴィシュの周囲に黒い炎の球体が何十と現れる。

 それらが賢竜魔女へと一斉に放たれる。


「なんだい、これは?」


 全てが高威力の弾丸。

 しかし、賢竜魔女は杖の一振りで発生させた突風によって叩き落としてしまった。


『問題ねぇ』


 ヴィシュの目的は賢竜魔女の足止め。炎の弾丸を叩き落とす為に突風を目の前に発生させたことで後退するヴィシュを追えなかった。


 迎撃している間に賢竜魔女と距離を取っていた。

 さらに姿勢を低くし、口を大きく開け、魔力の光が口の中に溢れていた。


「なるほどブレスを放つつもりかい」


 既に十分な魔力が溜まっている。

 その状態で攻撃するなりして中止してしまうと暴発し、非常に危険な被害が齎されることになる。

 できれば、それは避けてほしい。


 俺の想いは、しっかりと伝わった。


「仕方ないね」


 賢竜魔女も後ろへ下がって【人化】を解除する。

 現れたのはヴィシュと対を成すような真っ白いドラゴン。


 ドラゴンの姿へ変わるとヴィシュと同じようにブレスを放つ為の体勢に移る。ブレスでブレスを相殺するつもりだ。


『オレと真っ向から勝負するつもりか。面白ぇ!』


 口から溢れる魔力を圧縮させる。


『男なら、しっかりと受け止めな』


 対する賢竜魔女も口の前に作った魔力の球体を圧縮させる。


『その、大きさは……!?』

『悪いが、アンタとワタシじゃあ魔力の量が違う。ワタシのブレスは口に収まるような威力じゃないんだよ』


 圧縮された魔力の球体。

 ヴィシュもドラゴンの巨体に見合った大きな球体をしているが、それ以上に大きな球体を作っていたのが賢竜魔女の方だ。

 魔力の量は、ブレスの威力に直結する。

 制御できなければ拡散して威力が落ちてしまうことになるが、賢竜魔女に限ってそのようなミスをするとは思えない。


『勝負だよ、クソガキ』

『上等だ! クソババァ!!』


 両者のブレスが同時に放たれる。

 山の上で衝突するブレス。衝突した余波だけで山の表面が削られている。


「ああ、俺の願いは全く聞き届けられていない」


 結局ノーズウェル山脈に甚大な被害を齎すことになっている。

 そして、迷宮の魔力の消費も馬鹿にならない。


『むっ、なかなかやるね』


 ブレスは拮抗している。

 できれば時間を掛けない方向でお願いしたい。


『いいだろう。さらに威力増加だよ』


 賢竜魔女のブレスが勢いを増す。

 魔力の消耗を抑えてほしい、という願いは聞き届けられなかった。


『まだまだぁ!!』


 ヴィシュの方も気合を入れて押し返してきた。


『強くなったね、クソガキ』

『ババァ……やっぱり、オレのことを覚えているのか』


 しんみりとした空気になる。


『知らないね。ワタシの中にそんな想いが蘇ってきただけの話だよ』


 賢竜魔女の元となった魔石の想い……そんなものはない。


「隙を作ってくれてありがとう」

『……!?』


 ハイ塵ハンマーを手にヴィシュの背へ【跳躍(ジャンプ)】で移動する。

 ブレスを放つ為に身を低くしているヴィシュの背は乗り易く、重たいハンマーを掲げていても体勢を崩すようなことにならない。


『他人の手を借りるのは気に入らないけど、譲ってあげるよ』


 魔力を注いで重たくなったハイ塵ハンマーを振り落とす。

 鱗が砕かれ、肉が凹む。そして、ヴィシュの意識が一瞬だけ虚ろになる。


「じゃ、後はよろしく」

『任せな』


 意識が消えかけたことでヴィシュのブレスが弱まる。

 そこへ賢竜魔女のブレスが一気に盛り返してヴィシュのブレスを消していく。

 そのままだと俺も巻き込まれてしまうので再び【跳躍】で極限盾亀の後ろへと戻らせてもらう。


『そんな……』


 意識を取り戻したヴィシュ。

 その時には、既にブレスは眼前にまで迫っていた。


『これで終わりだよ!』


 白い光に包まれるヴィシュ。

 そして、後ろにあったノーズウェル山脈で最も大きな山も消し飛ばされた。

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