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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第30章 賢竜咆哮
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第19話 ドラゴンの老執事

 リッキーも最後のドラゴンがいる場所については知らなかった。

 しかし、ここまで深くノーズウェル山脈を進めば嫌でも分かる。強い気配を放つ魔物の存在を感じる。

 不死帝王(エンペラーアンデッド)に匹敵するような気配。


 ゆっくりと足を進めると黒い壁が立ちはだかった。


「あれが黒竜ヴィシュ」


 壁ではなく黒いドラゴン。

 ヴィシュは、体を丸めた状態で眠っていた。丸めているためはっきりとは分からないが、クォアルはもちろんフォリスよりも大きい。


「まさか、クォアル様とフォリス様が敗れるとは」


 眠るヴィシュの前には一人の男性が立っていた。

 執事服を着た紫色の髪をした男性。人間にしか見えないが、気配は間違いなくドラゴンのもの。落ち着いた雰囲気から老いた気配を感じるが、弱々しく老いている訳ではない。


「最初から【人化】してくれているのはありがたい」

「私が少々特別なだけですよ」


 老獪な執事が黒いドラゴンの前に立って拳を構える。


「……!」


 鋭い眼光から発せられる殺気。

 それは、まさしく最強という名に相応しいもの。


「【召喚(サモン)】」


 極限盾亀(リミットシードル)を喚び出す。

 このクラスの強さを持つ魔物を動かすと魔力の消耗が気になるところだが、目の前にいるドラゴンを相手にそんなことを言っているような余裕はない。


「果たして、それは正解でしょうか」


 執事がリミットシードルの懐へと飛び込む。

 リミットシードルの拳の射程範囲内。

 近付く執事を正確に捉えて拳を振るう。

 その動きに合わせて執事が肘を当てると自分の後ろへと流すように動かすと、リミットシードルが前へと倒れて行く。


 完全に受け流されている。

 それでも左手が残っている。倒れながらも拳を振るう。


「素晴らしい闘志だ。自分はどうなろうとも主の力となる確固たる意志を感じる。しかし、私には及ばない」


 後ろへ受け流した右手を掴むとそのまま投げ飛ばしてしまう。

 不安定な状態からでは拳を当てるのも無理だ。

 地面に叩き付けられる。持ち前の耐久力から耐えられたみたいだが、地面の方が耐えられなかったみたいで陥没している。起き上がろうとするものの硬い体は重過ぎるため起き上がるのも一苦労だ。


 アイラとイリスが同時に左右から斬り掛かる。

 さらに気配を殺したシルビアが接近して手を伸ばす。

 二人の攻撃で防御させて、無防備になった胸をシルビアが抜き取る。

 三人が最も得意とする連携だ。


 リミットシードルへ対処した直後で三人は成功した、と思った。

 しかし、執事は左右から迫る攻撃を気にすることもなく横へ伸ばした手の指先だけで受け止めてしまう。


 さらに腰を回って伸びてきた蛇のような尾がシルビアの手を絡め取る。

 絞め落とされる。

 一瞬だけ感じたから、そのように判断したシルビアは【壁抜け】を使用して尾を擦り抜ける。擦り抜けてしまえば絞め落とされるようなこともない。


 だが、尾を使って終わりではない。

 受け止めていた二人の剣を弾くと足を伸ばして飛び掛かる。

 的確にシルビアの側頭部を狙った蹴りは正確に貫いた。


「これは……」


 執事の予想では頭部を潰された女性の死体が転がっているはずだった。

 しかし、目の前にあるのは傷一つ負っていないシルビアの姿。


「いえ、私の尾から逃れた時点で予想しておくべきでした」


 尾から擦り抜けたのと同じように【壁抜け】を使って蹴りも擦り抜けさせたシルビア。


 回避において【壁抜け】以上に役立つスキルは存在しない。

 しかし、そんな回避方法は何度も使えない。

 クォアルのレーザーやフォリスの高速突撃を回避する為に何度か使用した。元来、【壁抜け】を覚えられるような者は魔力が少ないため回避に使えるようなスキルではない。


 シルビアは眷属による恩恵で魔力が多いから可能になっている。

 それでも、度重なるスキルによる回避のせいで消耗している。

 絶対的な回避法も使用回数が限定されている。


 だから……


「これは、糸ですか?」


 シルビアの体を擦り抜けた執事の足に銀色に輝く糸が巻き付いていた。


「特別製の糸よ」


 迷宮にいる蜘蛛型の魔物が吐き出す糸。

 それを迷宮の力を使って加工した。


 自分の攻撃に決定打が欠けていることで悩んでいたシルビア。しかし、ステータスや戦い方による差は簡単に埋められるようなものではない。だからこそ自分にできることを考えた。

 彼女の最大の特徴は速さと回避力。

 今のように直接的な方法で攻撃された場合、相手は必ずシルビアに触れている。そうして擦り抜けてしまった瞬間には致命的な隙を晒すことになる。その隙を狙って攻撃してもいいが、魔石を狙うような攻撃ができなければ無意味になってしまう可能性がある。


 だからこそ仲間を頼ることにした。

 拘束し、動きを止める。

 それがシルビアの出した結論だった。


 執事の足に絡み付いた糸の両端にはアダマンタイト製のナイフが括り付けられており、二本のナイフを地面へと投擲して突き刺す。

 足を引っ張られたことで体勢を崩しかけるが、尻尾でバランスを取りながら体を回転させて姿勢を保つ。


 それでも隙が生まれる。


「【劫火日輪光(フレイムサンブライト)】」


 太陽を思わせるほど強烈な光を放つ炎の球体が上空から落ちて来る。

 向かう先は、拘束された執事のいる場所。

 火属性魔法の中でも最上級クラスの威力を誇る魔法を使わせてもらった。


「なるほど。三人で私の動きを止めて、その隙に最大級の攻撃を行う訳ですか」


 拘束された状態のままのんびりと上空の球体を眺める執事。


 急いでその場を離れる。

 執事の傍にいたシルビアも離れている。まだ【劫火日輪光(フレイムサンブライト)】の効果範囲内にいるが、【壁抜け】もあるので逃れるのは不可能ではない。


「【召喚(サモン)】」


 あのままでは極限盾亀(リミットシードル)まで巻き込まれる。

 動けない極限盾亀(リミットシードル)を傍に召喚して回収すると地面に炎の球体が落ちて爆発が広がる。直径100メートルの広さを焼き尽くす炎。


 その中からシルビアが出てくる。【壁抜け】を使用して魔法による攻撃を無効化していたため体どころか服にもダメージはない。しかし、炎の中を突っ切って来るのは恐かったらしく、脱出するとすぐさま抱き着いてきた。

 こんな命令を出した身として申し訳なくなりながらされるがまま抱き着かせる。


「そんな……」


 俺の胸に顔を埋めていたシルビアが顔を後ろへ向ける。

 その目は炎の中へと向けられていた。


「まさか、生きているのか?」


 事前に初手から最大火力で攻撃したかった。

 その為にいた足止めのシルビアたちであり、魔法の構築に専念していた俺。魔法使いのメリッサなら【劫火日輪光(フレイムサンブライト)】ほどの威力を持つ魔法でも数秒で構築することができただろうが、純粋な魔法使いではない俺では1分近い時間を要した。


 それだけの時間を掛けて放った魔法。


「まさか――」


 という思いが胸の中にある。

 しかし、炎の中から感じられる気配は間違いなくこちらへと近付いて来ている。正しくは左右へジグザグに走っている。

 真っ直ぐに駆けた方が脱出は早いはず。

 それでも迂回しているのには意味がある。


「なかなかの炎でしたよ」


 炎から飛び出す執事。

 着ていた執事服は焦げてボロボロになっているものの体には多少の火傷を負っている程度で致命傷には至っていない。


「……どうやって、生き延びた?」

「自慢ではありませんが、私はこれでも3000年近い時を生きたドラゴンです。これまでに貴方たちほどに強い相手なら人間、魔物を問わずに何度か遭遇したことがあります。もちろん、今の魔法ぐらい強い魔法も受けたことがあります。私は、弱いドラゴンです。クォアル様のような特殊なブレスを持たなければ、フォリス様のように速い訳でもありません。ただ、永い時を生きたことだけが誇りです。永きに渡る戦いの中で、生き残ることだけを優先させた私はちょっとしたコツを掴みました」


 そうした経験から相手の力を受け流す技術を身に付けた。

 そして、それは物理的な攻撃手段に限らない。

 魔法にも魔力の流れ、というものがあり、それを受け流すことによって炎からも逃れることができた。ドラゴンの鱗が持つ高い魔法への耐性があったおかげで初めてできた芸当だ。


「それに、この攻撃は致命的だったようです」


 それまで眠っていた黒いドラゴン――ヴィシュが起き上がる。

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