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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第30章 賢竜咆哮
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第15話 銀の竜―後―

 現れたのは人の形をした『何か』。

 大まかな部分では人間と変わらないのだが、人間とは決定的に違う部分がある。


 銀髪の女性は、短いシャツと膝上までのパンツで身を包んで白い肌のヘソと足の大部分を晒している。そこまでなら活発な女性、という感じなのだが左右の側頭部から銀色の角が生え、臀部では尻尾が揺れていた。

 赤い瞳を鋭くしてこちらを睨み付けて来る。今度は正真正銘睨み付けている。さすがにあれだけ痛めつければ睨まれるのも無理はない。

 所々に銀のドラゴンの特徴が残っている。


「あれが【人化】?」

「そうだ」


 イリスも人の姿になる魔物を初めて見たらしく戸惑っている。

 【人化】。人以外の生命が魔力を利用して形を人へと変えるスキル。このスキルを使用することによって巨体によるデメリットが消えることになる。


 銀のドラゴンが踏み込む。

 爆発的な脚力により俺の懐へと一気に飛び込んでいた。


 拳を突き出してくる。

 突き出された拳は、あっという間に銀色の鱗に覆われてガントレットを装備しているのと同じような状態になる。


 ――硬化。

 咄嗟に腕を胸の前で交差させて硬化の魔法を掛ける。

 腕が盾となって無傷のまま吹き飛ばされる。


「この……!」


 銀のドラゴンの左右からアイラとイリスが斬り掛かっていた。

 斬り掛かられた銀のドラゴンが両手を二人へ向ける。掌から銀色のブレスが吐き出され、直撃を受けると二人も吹き飛ばされる。


 ――ギィン!


 仲間が攻撃されている間に忍び寄ったシルビアが短剣で銀のドラゴンの首を斬ろうとする。

 しかし、短剣は硬い皮膚に阻まれて斬れない。

 正確に言えば皮膚の上に現れた銀色の鱗が短剣を防いだ。


「きゃ」


 鞭のように撓った尻尾がシルビアを吹き飛ばす。


「強いな……」


 あっという間に4人が倒された。

 【人化】によるメリット。それは、巨体だった頃の力はそのままに人のサイズで力が凝縮されている。そのため一撃による力が強くなり、一点における防御力も格段に上昇している。

 生半間な攻撃ではダメージを与えることすらできない。


「それに【人化】が使えるっていうことは相当賢くないとできない」

「随分とドラゴンの生態に詳しいな」

「ドラゴンの知り合いがいるものでね」


 迷宮にいるドラゴンも1体だけ【人化】が使える。

 少しだけ話をして【人化】についても教えてもらったが、【人化】を獲得できるドラゴンは限られている。永い時を生きたドラゴンなら誰でも使えるようになる。しかし、目の前にいる銀のドラゴンは老人と呼べるような年齢ではない。【人化】によって変わった姿は、ドラゴンの年齢や内面に大きく影響を受ける。


 だから、もう一つの方法によって会得した。

 ドラゴンの中には稀にではあるが、生まれた時から人の言葉を理解し、話すことができる賢いドラゴンが生まれる。そして、賢いドラゴンの子供も賢く生まれてくる。


 そういった賢いドラゴンには必ず【人化】のスキルが備わっている。

 賢いから【人化】のスキルを持っているのか、それとも【人化】のスキルを持っていたからこそ賢いのか。

 その理屈はドラゴン自身にも分からない。

 だが、賢いドラゴンは厄介なほど強いことには変わらない。


「まずは、その厄介なレーザーを封じさせてもらう」


 地面を剣で叩く。


「【地震(アースクエイク)】」


 足元が大きく揺らされる。


「おっと」


 2本の足で立つことに不慣れな銀のドラゴンがふらつく。

 そこで、【土】と【風】の魔法を混合させて作り上げた砂埃を巻き上げる。濃い砂の煙が周囲を覆い隠す。もちろん俺たちの姿も砂埃の向こうに消えて銀のドラゴンから見えなくなる。


 砂埃を晴らそうと尻尾を大きく振る。

 しかし、魔法で生み出した砂埃はその程度の衝撃では晴らすことができず、その場に留まり続けている。


「小賢しい真似をする」


 銀のドラゴンの背から30センチほどの大きさがある鏡のような鱗が飛び出す。

 クルクルと回転する鱗は、砂埃から脱出すると空中で静止して鏡面を砂埃の方へと向ける。


「姿を隠したところで無意味だ。私はドラゴン。目に頼らずとも相手の位置を捕捉することはできる」


 砂埃の中を銀のドラゴンに向かって人影が走る。

 影、音、風、魔力――あらゆる情報が人影の正確な位置を銀のドラゴンに伝え、空中に静止した鏡が人影へと向く。


「発射」


 鏡面から人影に向かってレーザーが放たれる。

 レーザーは一撃で人影を溶かす。

 同時に魔法で作った砂埃も吹き飛ばせたみたいで人影の姿が明らかになる。


「さて、男は死んだわよ。女連中もさっさと……え?」


 俺を倒した、と自信満々だった銀のドラゴン。

 しかし、レーザーで穿った場所に倒れていたのは土で造り上げた人形。俺と全く変わらない形をしていたうえ、俺の魔力で造り上げているため銀のドラゴンも俺だと勘違いしてしまった。


 勘違いさせる為に精巧な人形を使用した。

 これは事前に用意しておいた物で道具箱にいくつか入れてある。自分と同じ姿をした人形がいくつもある、というのは不気味なので数は抑えてある。


「じゃあ、本人はどこへ行ったっていうのよ」

「捕まえた」


 ガシッ!

 銀のドラゴンの足元にある地面から手だけを出して足首を掴む。

 砂埃と人形を使って位置を誤魔化している間に魔法を使って穴を掘り、銀のドラゴンを捕まえられる位置まで移動させてもらった。

 俺の役割は、動きを封じること。


「この……!」


 抜け出す為に足を上げようとする。

 解放するつもりなんてない。この場から一歩も動かさない。


「だったら……!」


 尾が地面に叩き付けられる。

 予め手を出している場所以外は硬化させているためドラゴンの尾でも砕かれることはない。そして、人間形態で尾を扱うことに慣れていないせいで自分の足首を掴んでいる俺の手に当てることができない。


 5度目にしてようやく当たる。


「……っ!」


 耐える。

 不慣れな体勢から繰り出した打撃程度なら耐えられる。

 それに、それだけの時間があれば十分。


「また!」


 アイラとイリスが左右から再び斬り掛かる。

 銀のドラゴンも再び掌からブレスを出して二人を吹き飛ばそうとする。


「同じ手は――」

「――二度も通用しない」


 アイラが斬り、イリスが逸らす。

 二人にブレスは届かない。

 その間もブレスを吐き出し続ける銀のドラゴン。クレーター内から膨大な量の瘴気を得ることができると言っても魔力を消耗し続けるのは相当な負担を強いられることになる。


 汗が流れる。

 アイラとイリスはブレスを押し切れずに動けない。

 四者がその場から動けない状況にある。


 そこへ5人目が乱入する。


「ちょ……」


 シルビアだ。

 手が届く距離まで気配を殺して銀のドラゴンに近付いたシルビアは右手を左胸へと突き入れる。

 狙っている物は魔石だ。


「この大きさになってくれて助かったわ」


 ドラゴンだった時は、大きすぎて魔石の位置を特定させることができなかった。

 だが、人間の大きさにまでなってしまえば話は別だ。人型の魔物の魔石は、基本的に左胸にある。

 探れば数秒とかからずに見つかる範囲だ。


「取った」


 【壁抜け】のスキルを利用して銀のドラゴンの体を擦り抜けたシルビアの手には銀色に輝く魔石が握られていた。


「か、返して……」


 体に残っていた僅かな魔力で体を動かして手を伸ばす。

 けれども、前へ手を伸ばしたことで倒れてしまう。

 そのまま目から生気が失われて立ち上がることはなくなる。


「これが賢竜の魔石」

「すごい……」

「今までに見たことがないくらい綺麗」


 まるで吸い込まれそうなほどの輝きを放つ魔石。

 これは、あまり見続けない方がいいかもしれない。

 シルビアの手から魔石を回収すると道具箱に収納する。


「これから、どうしますか?」

「どう、っていうのは?」

「わたしたちは銀のドラゴン1体を倒すだけでも苦戦させられました。この上、同格と思われるドラゴンが3体います」


 銀のドラゴンは、奥にいるドラゴンを『兄』と呼び、上位者のように慕っていた。間違いなく奥にいるドラゴンの方が強い。

 さらに苦戦させられるのは間違いない。


 --こちらにはこれ以上の戦力はない。


 そう、言いたいのだろう。


「大丈夫。戦力ならある」

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