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ダンジョンマスターのメイクマネー  作者: 新井颯太
第30章 賢竜咆哮
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第11話 地竜

 地竜。

 昨日見た赤や緑のドラゴンのように空を飛ぶ能力はなく、翼すら持たないドラゴン。

 代わりに地上を走る力が強くなり、脚力や耐久に優れたドラゴンとなっている。

 脚力が優れているのは本当らしく、岩肌の斜面を苦にすることなく駆け抜けている。


 人間が利用できるような入口まで距離はある。

 しかし、山の急斜面を直接駆け下りるなら村までの距離はそれほどない。


「急いで住民を避難させろ! ドラゴンが相手なら無意味かもしれないが、何もしないよりはマシだ!」

『へい!』


 ケミルが近くにいた冒険者に避難指示を出している。

 村に元々いた自警団の兵士、それにウルカから派遣されてきた騎士たちも手伝って避難を行うようだ。


 地竜が村まで到達するのに数分も時間は掛からない。

 すぐに行動を起こさなければ間に合わなくなる。


「避難はしなくてもいいよ」

「あ? お前、何を言って……」

「俺たちが倒すから」


 ウルカの時と同じようにシルビアとアイラが既に地竜へ向かって駆け出している。


 その頃には山の斜面を駆け下りていた。

 戦うには真っ直ぐ進むだけでいい。


 自分へ向かって駆けてくる存在を地竜が確認するも取るに足らない人間だと判断して村へ歩み出す。

 これが老齢なドラゴンなら二人の実力に気付いて警戒したはず。

 しかし、地竜にそのような様子はない。

 間違いなく赤いドラゴンと同じように若い個体。

 黒いドラゴンの指示を受けているのか、それとも暴走しているだけなのか判断はできない。


「それでも向かって来るなら打ち倒すのみ」


 先に地竜へ辿り着いたシルビアがナイフを地竜の顔に向かって投げる。

 胴体は硬い鱗で覆われており、生半可な攻撃は通らない。見た感じではあるものの顔は他の部分よりも柔らかく見えるためナイフを投擲した。

 しかし、幾分柔らかいはずの頭部でもナイフが弾かれてしまった。


 ナイフの当たった場所へ煩わしそうに地竜が目を向ける。

 そして、次に自分を攻撃した相手を見る。初めは取るに足らない相手だと思っていた。いや、ダメージがないのだから本当に取るに足らない相手であるのは間違いない。それでも鬱陶しいのを我慢する気にはならない。


 地面を走り回る虫を潰すように地竜が足を振り上げる。

 自分の攻撃に人間程度が耐えられるはずがない。


「当てられれば、ね」


 振り上げた足がシルビアに届くことはなかった。

 シルビアが避けた訳ではない。地竜の足が斬り飛ばされた。


「もらい!」


 アイラの手によって足の指が一つ斬り落とされていた。

 シルビアは普段から【気配遮断】を鍛える為に抑えている気配を逆に放出させていた。その気配は強く、一度シルビアを認識した者はシルビア以外を認識できなくなるほどだった。


 この時、地竜の意識からシルビア以外が消えていた。

 その間にアイラが忍び寄り、頭部よりも柔らかい肉球から斬り裂いた。

 シルビアを踏み潰す為に足を上げたことで弱点となる肉球を晒すことになってしまった。


 足の指を斬られた地竜が踏み止まる。


「は~い」


 地竜が自分の指を斬り飛ばした相手を探す。

 しかし、見つかるのはシルビアのみ。彼女の力で自分の指が斬り飛ばせないのは分かっている。

 もう一人いたのは見ている。


 けれども、アイラの姿はキョロキョロと首を動かしても見つからない。

 シルビアの気配に釣られている訳ではない。アイラは地竜の胴体の下へ潜り込んで駆けていた。


 地竜の下を駆け抜けたアイラがスパッと左後ろ足を斬る。

 今度は足の指を斬り飛ばす、などというレベルではない。足首が切断されていて繋がっていなかった。


 支えを失った地竜が倒れる。

 パワーのある地竜だが、それを支える力があって初めて正しく発揮される。

 たった1本とはいえ、足を失った地竜にシルビアとアイラを攻撃する術はない。


「こんなものでしょう」

「後はゆっくりと首でも斬り落としましょうか」


 まるで調理でもするように淡々と言う二人。

 人間にとっては逃げるしかない相手を前にしているとは思えないセリフに俺も寒気を覚えてしまった。


「二人とも!」


 まるで諦めたような表情をしていた地竜が村へと顔を向ける。


「ブレスか!」


 赤いドラゴンも使おうとしていたブレス。

 あれなら倒れた場所からでも攻撃することができる。


「村を攻撃するのが目的なのか?」


 村への攻撃を優先させた。

 その事から村への攻撃が最優先事項だと判断する。


「いいだろう。受けて立つ」


 地竜の攻撃手段はブレスではなかった。

 全身に溜め込まれた魔力は、背中から放出され針のような棘が生み出される。棘と言っても1本が人よりも大きな物で、当たれば突き刺すよりも潰してしまうような威力がある。


 対ドラゴン用の攻撃。

 そんな物が何百本……何千本と突き出している。


 地竜が頭を低くすると無数とも言える数の棘が発射される。


「【要塞城壁(フォートレスランパード)】」


 村が数秒で影に覆われる。

 村と山脈の間に巨大な壁が生み出され、発射された棘を受け止める。

 当たる度に崩れ、ボロボロになる壁だったがどうにか耐え切った。


 耐え切った壁を見て小さく唸る地竜。

 しかし、唸り声は突如として止めざるを得なくなった。

 唸り声を上げる口の先に俺が張り付いたのを見てしまったからだ。フォートレスランパードが棘を受け止めている間に地竜まで接近させてもらった。


「お前の体はたしかに硬い。けど、中までは耐えられるかな?」


 地竜は体が大きく強い。

 けれども、これだけ大きければ小回りが必要になるような動きはできず、回避は難しい。外すような真似はしないし、口の中へ攻撃を放り込むなんて簡単だ。


「【火球(ファイアボール)】」


 手の中で生まれた火球を地竜の体内へ放り込む。

 口の中に強烈な熱を感じ、追い出す為に息を大きく吐き出そうとしている。


「させるか!」


 地竜から手を放して落下すると顎を蹴り上げる。

 吐き出すことに集中していた地竜は蹴りを受ける。そして、蹴り上げられたことで顎が急激に閉じてしまったことで、吐き出そうとしていた息が体内で暴発する。

 そこには、放り込んだ火球もあった。


「ぼん」


 体内で爆発した火球は、一気に全身へと駆け巡って地竜の体を内側から焼いていく。

 どれだけ硬い体を持つ生物でも内側から焼かれれば耐えられない。


 全身の至る所からプスプスと煙を上げる地竜。

 攻撃目標だった村を見据えたまま歩み出そうとしていたが、結局は1歩踏み出すこともなく力尽きてしまった。


「地竜の丸焼き完成」

「いえ、明らかに生焼けです」

「細かいことは気にしない」


 討伐には成功し、村を守ることができた。

 シルビアのツッコミは無視したいところだが、間違っていない。肉を焦がしてしまったことで査定額は落ちてしまう。とはいえ、今回は討伐報酬だけでも十分な利益を上げられているため問題ないと言えば問題ない。


「お~い!」


 村が守られたことにホッとしたケミルが駆けてくる。

 ケミルの他には村に滞在していたと思われる冒険者が十数人いる。彼らも死を覚悟するような状況が解決されたことで笑顔になっていた。


「こいつはどうするんだ?」

「俺は収納系のスキルを持っているから後でギルドに納めるつもりだ」

「そうか。解体の必要があるなら手伝おうかと思ったんだが」

「いや……」


 断ろうかと思ったが、善意で解体を手伝ってくれる、と言うのなら助かる。

 ケミルだけでなく他の冒険者にも手伝ってもらって解体することになった。

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