第8話 ドラゴン解体―後―
「いやぁ、上質な道具を使うと速いですね」
先ほどまでとは比べようがないほど速くなった解体。
このまま解体を続けていれば数十分で鱗を剥がし終える。
「しかし、いいのか?」
鱗の剥ぎ取りを任せていると恰幅のいい男性が近付いて来た。
50代ぐらいの茶色い髪をした男性。今は少しばかりだらしない体型をしているものの全身に纏う雰囲気が昔は強かった、と物語っている。
「あなたは?」
「ここのギルドマスターをしているロドリゲスだ」
「それと、今回の討伐で皆さんがウルカにいる間の担当になることが正式に決まりましたフィニアです」
受付嬢――もといフィニアさんが頭を下げる。
二人ともドラゴンを討伐してくれたことを本当に感謝しているようだった。
「ちょっと警戒が足りないんじゃないですか?」
俺たちが来ていなければ確実にウルカは滅んでいた。
移動時間がおかしなことを尋ねられてしまう覚悟をしてまで早めに来て正解だった。
「こっちも山脈へ斥候は出していた。おかしな動きがあればすぐさま報せが来るようにしておいたんだ」
ところが、全力を出したドラゴンは報せが届くよりも街に辿り着く方が速かった。
「それに山脈に近い村から監視をさせておいた。ドラゴンが出てきた時には狼煙を上げて危険を知らせることになっていた」
村にいた人たちは、山脈から出てきたドラゴンを見て自分たちが襲われると思って狼煙を上げた。しかし、狼煙が完全に上がる頃には既にドラゴンはウルカにまで到達していた。
今回は、ドラゴンの速度を甘くみていたせいで起きてしまった事件だ。
「最初に山脈から一番近い村が襲われた。だから、次に襲われるのも村だと思い込んでいた。まさか、ここへいきなり来るとも思っていなかったため迎撃が遅れてしまった」
と言っても最大の問題が残っている。
「迎撃、と言っても何をするつもりですか?」
上空から攻めてくるドラゴンが相手では外壁は意味を成さない。
「それが問題なんだよな」
基本的には弓での攻撃が主体になる。
魔法でも攻撃は届くが、普通の魔法使いでは威力不足により出来ても足止めが限界らしい。
「悪いですけど、俺たちは俺たちで好きに動かせてもらいますよ」
今回の依頼もドラゴンを討伐してほしい、というもの。
多くの冒険者に声を掛けているらしいが、全員で協力してほしいとは言っていなかった。
冒険者は一つのパーティで連携が完結しているところが多い。寄せ集めの数十人が集まったところで大きな成果を挙げられる訳ではない。
「もちろん分かっている。俺も元冒険者だ」
ギルドマスターには一つの懸念があった。
「ただ、この街にいた冒険者には無闇にドラゴンへ攻撃を仕掛けないように言ってあったんだ」
ドラゴンを攻撃すれば刺激することになる。
そうなれば山脈から下りて来て攻撃される可能性が高くなる。
「が、そうも言ってられなくなった」
今日の一件で刺激しなくてもドラゴンは下りてくることが分かった。
このまま手をこまねいているよりも倒せる可能性のある者に行かせた方がいい。
「こっちもあまり拠点を離れたくないので早々にドラゴンを討伐しますよ」
「助かる」
「それに、気になることがありますし」
そっちは今のところ準備を進めている。
「おう、鱗の剥ぎ取りは終わらせたぜ」
解体職員のおっさんが近付いて来た。
その後、シルビアたちも手伝って鱗だけでなく皮の剥ぎ取りまで終える。
「じゃあ、いくらぐらいになりそうですか?」
「そうだな……」
倉庫に置かれた赤いドラゴンを眺めている。
そこに一言追加させてもらう。
「あ、さっきのレンタル代も追加してくださいよ」
「なに!? ……いや、あんなに凄い道具を借りておいて謝礼の一つもしないのは間違っているな」
納得すると頭を悩ませ始めた。
ミスリル製の道具は全て【迷宮操作:宝箱】で生み出させてもらった。余計な出費になってしまったが、ドラゴン騒動が終わった後で宝箱にでも入れて迷宮のどこかに安置するつもりだ。
「金貨20000枚は必要になるだろうな」
「2万!?」
解体職員の言葉を聞いてギルドマスターが言葉を失っていた。
そんな大金いくらギルドでも持っていない。
「だって、そうですよ。今回は、通常よりも高い金額で買い取ることが契約で決められています。最初に討伐した方は倒すまでに全員でボロボロにしたから素材の質が悪くてそこまで高値にはならない。けど、こいつらが倒したドラゴンは別だ」
傷らしい傷は俺が貫通させた翼に開いた穴ぐらいしかない。
トドメもアイラが首をスパッと斬り落としてくれたおかげで武器や防具の素材として使われるような部分は傷付いていない。
「……そんな大金ポンと用意できないぞ」
買い取った後で素材を流用して高価な武器や鎧を造って売る。
そうすれば用意できるだろうが、それでは討伐した者に待ってもらうことになる。
それではギルドの面目が潰れることになる。が、他に方法らしい方法もない。
「いいですよ。後払いでも」
別にお金に困っている訳ではない。
将来的に資金化できるなら問題はない。
「助かる」
それは、それとして早急に現金化できる部分は現金にしてしまおう。
☆ ☆ ☆
夜。
ウルカの街の中心にある広場は賑わっていた。
最近では、ドラゴン騒ぎの影響もあって静かになっていた夜だが、今日は以前の明るさを取り戻していた。いくらギルドから普段通りにするよう通達があったとしてもドラゴンの恐怖は簡単に拭えるようなものではない。
「さあ、ドラゴンのステーキだよ。今なら新鮮なドラゴンの肉が一人前銀貨10枚で手に入るよ」
彼らが集まったのは美味しそうな匂いに釣られたため。
広場では巨大な鉄板を用いてドラゴンの肉が焼かれていた。ウルカにいた料理人でもドラゴンの肉を調理したのは十数年前に一度だけ、ということなのでシルビアの指導のもと調理されることになった。
鉄板の上にこんがり焼けた肉がある。
一人前は皿に乗るぐらいの大きさにさせてもらった。
量を考えると銀貨10枚は高いように思える。
それでも、今までに食べたことがないドラゴンの肉。いや、もしかしたら今後も食べる機会などないかもしれないので多くの人が集まっていた。
「俺にもくれ!」
「こっちは5人前だ!」
「ああ!? 俺は家族の分も確保しないといけないんだから独身の寂しい奴は一人前で我慢していろ!」
「なんだと!!」
喧嘩が勃発してしまった。
珍しい食材を前にすれば騒動が起こるのは予め予想できていた。
「安心して下さい。量ならしっかりとありますから街の全員に行き渡らせることも可能です。落ち着いて並んでください!」
どうにか喧嘩は落ち着かせる。
それでも騒がしいのは変わらないが、怪我人を出すことなくドラゴンの肉が売れる。
飛ぶように売れていく。
この方法ならすぐに現金化できる。
それに肉は冷凍保存することもできるが、やはり新鮮な内に食べてしまった方がいい。
「うめぇ!」
「俺、こんなに美味い肉を食ったの初めてだ」
ドラゴンの肉を食った男たちは歓喜に震えて涙を流している者までいる。
「もっと硬いお肉かと思っていたわ」
「意外と食べやすいのね」
「おいしい」
そして、女性や子供たちにも人気だ。
彼らが食べやすいように男性たちに配っている食べ応えのある肉とは別に柔らかくした食べやすい肉をシルビアが特別に仕上げている。
おかげで話は街全体へと伝わり、ドラゴンの肉1体全て使い切れた。
「もう、ないのかよ」
未だに満足していない人がいるらしい。
「ご安心を。食材なら山へ行けばたくさんあります」
ドラゴンはまだ山にいる。
全てのドラゴンを狩ることができれば、もっと稼げる。




